授業を機に自治体アドバイザーに 難題に挑む研究で外部人脈を得る

「自分の強み」を磨く上では、どのような学びが有効なのか。リスク・マネジメントやコンプライアンスを専門にする白井邦芳教授と、社会構想大学院大学・コミュニケーションデザイン研究科の修了生が語り合った。

(左から)社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科 教授 白井 邦芳氏、
修了生 五井 俊哉氏。

新たな学びを求めて大学院へ

白井 五井さんは製薬会社で社内変革のプロジェクトマネジメントを担当されていますが、コミュニケーションデザイン研究科を知ったきっかけは何だったのでしょうか。入学を決めた理由について、聞かせてください。

五井 大学院に入学する前の半年間、社内のビジネススクールで勉強していました。それまで仕事につながる学びは、必要に応じて続けてきたものの、まとまった学びはそれが初めてでした。すごく刺激的だったので、修了したら「ロス」になってしまったんです。せっかくなので「自分なりの強み」をつくるために学び続けたいと考えました。知識を豊富に持っていても、それをきちんと伝えられる人材が社内にはあまりいないことに課題意識を抱いていたので、私は、「コミュニケーション」を自分の強みにしようと決めていました。「コミュニケーション」について学ぶことができ、かつ働きながら通える大学院について調べていたところ、本学に出会ったというわけです。

白井 仕事と学業を両立する上でのコツはありましたか?

五井 仕事との両立のためには、事前に上司をはじめとした周囲の人たちの理解を得て環境を整えておくことが大事だと思います。私の場合、入学が決まった時点で大学院に通いやすい部門に異動しました。コロナ禍で学生生活が始まったため、オンラインでの授業がメイン。通学時間が大幅に短縮されて、授業に集中できる環境が整ったのはありがたかったですね。オンライン授業では、先生が間近に見えることもあって熱量が感じられますし、会社でもオンライン会議に慣れていたので違和感は全くありませんでした。

白井 オンラインだと皆さんに質問を投げかけながら議論を進めることもできますので、メリットは大きいですね。授業の中で印象に残っているものがあれば教えてください。

五井 地方自治体にアドバイザーとして参画している先生の授業があったのですが、そこでは最終課題として自治体首長への政策提言が組み込まれていました。「自分がプレゼンする内容が政策に反映されるかもしれない」という希望を持って責任者の方にお話しできたので、非常に印象に残っていますね。あとは「情報・文化・コミュニケーション」の授業で情報社会に関する大きなテーマを議論したことが印象に残っています。現代社会は日々変化していますから「時代とともにコミュニケーション自体もアップデートすべき」という、この授業の考え方が勉強になりました。

図1 コミュニケーションデザイン研究科での「学び直し」で身につくこと

規制の壁に挑んだ、その先に

白井 五井さんの研究成果報告書は「健康医療情報利活用のための消費者とのコミュニケーションデザイン―複雑化する情報社会で製薬業界がどのように貢献できるか─」でした。執筆で苦労したところはありますか?

五井 製薬業界に勤めているため「医療行政に個人が意見してもいいのだろうか?」という懸念を持っていました。それに対して白井先生から「規制にチャレンジしてこそイノベーションは生まれる」と励ましていただき、安心して研究を進めることができました。私のテーマは「医療情報が乱立する中で、信頼できる情報源を構築する」というものでしたが、研究を進めている途中でそのプロトタイプがすでにできていることが分かりました。白井先生からは、そのプロジェクトを推進されている方への連絡を勧められ、結果として論文をまとめる上で大きな教えをいただくことにつながりました。

白井 私がコンサルティング業務をしている中で、一番多いクライアントが製薬会社なんです。五井さんが研究したテーマは「業界の皆が願っているのに、規制の壁が立ちはだかる難題」でした。大変な作業を本当によくやったなと思います。大学院での学びは、どのように実務に役立っていますか?

五井 白井先生に「リスク・マネジメント」の授業で教わったことで印象に残っているのは「リスクの完全なコントロールは無理だから、起きた時の対処法こそが大事」という言葉です。この考え方は日々のリスク対応実務に活かされています。また、研究成果報告書の執筆にあたってご協力いただいた他の製薬会社の方々と、非公式ではありますが組織を超えた勉強会を立ち上げ、定期的に集まるようになりましたね。それから、先ほどお話しした首長への政策提言をきっかけに、ある自治体にアドバイザーとして参加するようになりました。選挙で選ばれた首長と、実務に携わる自治体職員との温度差に気をつけながら、心からまちのことを思う人たちと共に、地域の行政を長いスパンで考えています。ここでも大学院で学んだことが活かされています。

自身の力が他領域で活きた

白井 コミュニケーションデザイン研究科に向いているのはどんな方だと思いますか?

五井 型にはまらない自分なりの強みを見つけたい人だと思います。大学院で学ぶコミュニケーションは、業務の全てにつながります。その一方で、必ずしも皆が身につけていない部分でもありますから、「コミュニケーションのスペシャリスト」になれば、その人の個性にもなると思います。また、会社にいるとどうしても自身の市場価値を低く見積もったり、視野が狭くなったりするものです。私もそうだったのですが、2年間の学びを通じて、自身の経験や知識が自治体などで求められていると知って感動を覚えました。そうやって自分の能力を横展開していく上でも、本学の学びは、かけがえのないものになると思います。

 

白井 邦芳(しらい・くによし)
社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科 教授

 

五井 俊哉(ごい・としや)
修了生

 

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
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