G-MIS構築に学ぶ、行政DXに不可欠な「データ連携基盤」

行政DXを推進するためには組織を超えたデータ連携と活用が不可欠だ。コロナ禍における神奈川県の緊急医療体制「神奈川モデル」や厚生労働省の医療機関等情報支援システム(G-MIS)の構築を主導した畑中洋亮氏に、データ連携基盤の重要性について聞いた。

畑中 洋亮 一般財団法人あなたの医療代表理事、
厚生労働省健康局参与、神奈川県医療危機対策統括官

神奈川モデルに学ぶDXの本質

神奈川県の緊急医療体制「神奈川モデル」は、コロナ患者を症状の重さによって3段階に分類し、重症者はICUなどのある高度医療機関、中等症は重点医療機関、無症状・軽症は自宅や宿泊施設などで療養することで地域の医療資源を最適化し、医療崩壊を防ぐ仕組みである。実現のカギとなったのが行政と医療機関等を結ぶ「全病院調査システム」であり、厚生労働省は神奈川の取り組みを参考に医療機関等情報支援システム(G-MIS)を整備、全国約3万8千の病院・診療所等から稼働状況や医療資材、受診者数、検査数などを直接集計する仕組みをクラウド上に構築した。

図 G-MISと政府系システムのデータ連携の仕組み

出典:アステリア資料

これらのシステムの構築を主導した畑中洋亮氏(一般財団法人あなたの医療代表理事、厚生労働省健康局参与、神奈川県医療危機対策統括官)は、神奈川モデルの経緯について次のように説明する。「ダイヤモンド・プリンセス号での集団感染や神奈川県内の病院での院内感染拡大が問題となった2020年2月、県は医療機関の状況を点ではなく面で把握することを迫られました。行政が病院の情報を直接吸い上げる仕組みは当時は存在しておらず、県はまず行政・民間人混成の10人ほどの情報収集チームで、約350の県下全病院に対して電話とFAXで稼働状況や医療資材の不足感をヒアリングすることから始めました。病院側の窓口と調査項目が明確化できたため、その後1週間足らずで病院からの情報が集まり、その結果を県で一括入力する全病院調査システムを民間のクラウドサービスで開発しました」

3月1日に稼働したシステムによって、医療機関の稼働悪化状況や医療資材の絶望的な不足を把握した県は、緊急医療体制として神奈川モデルを発案。さらに3月中旬には畑中氏は厚労省と日本医師会に対して神奈川モデルおよび全病院調査システムの重要性を説き、急ピッチで全国展開が進められることになり3月末にはリリースされた。マスクやアルコールなどの病院で不足する医療物資をG-MIS上で要請し、政府から直接病院に配送される機能なども実装し、情報入力するだけではない価値を医療現場にもたらした。

神奈川モデルとG-MISは、エビデンスとデータに基づいて政策が立案された好例と言える。「政策は目的を明確にする必要があり、その上で目標を設定します。しかし、現状把握ができなければ目標は決められません。DXとは政策を動かすために現状を知り動かすためのツールであり、現在全国の自治体が行っているペーパーレス化・オンライン化だけが目的ではありません。当然、1つのシステムでデータが集まることはほぼないため、直接関係の薄いシステムを統合するのではなく、データを連携させることが重要です。目的は何か、目標は何か、そのための課題は何か、課題を明らかにし解決に必要なデータを見出し、組み合わせ、意思決定に必要なインテリジェンスに昇華させる必要があります。さらにその意思決定を効果的にコミュニケーションする必要があります。この意思決定とコミュニケーションのための構造づくりがDXです」と畑中氏は強調する。

データ連携で広がるG-MISの可能性

コロナ禍の収束が見え始めた今、G-MISは厚労省医政局に移管され、平時のDX基盤として活用され始めた。

「G-MISは病院だけでなく診療所や薬局など、保険医療に関わるすべての機関にIDとパスワードが付与されており、厚労行政で必要な情報収集し、適宜コミュニケーションする基盤になりました。汎用的な調査も全国規模ですぐに実施できます。これまでメールとExcel、あるいはFAXで行われていた情報のやりとりが一変しました。次に進むべきは、G-MISに集まるデータを政府の別のシステムに連携し、政策立案・実行に活かすことです」

すでにG-MISは広域災害救急医療情報システム(EMIS)やワクチン接種記録システム(VRS)、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策ポータル等とデータ連携を行っているが、その連携ツールにはアステリアの「ASTERIA Warp」が採用されている。ASTERIA Warpはノーコードで設計開発できることが特徴で、アイコンのドラッグ&ドロップなどにより既存のデータベースやファイルシステム、業務システム、クラウドサービスと簡単に接続、連携できる。

「柔軟なデータ連携基盤を持つことで、行政の意思決定の柔軟性とスピードは向上します。行政はシステム統合を目指しがちですが、大事なのはデータ統合です。異なる業務システム間のデータを統合して、いつでも情報を把握でき、意思決定に活かせる仕組みを政府の他省庁、そして全国の自治体も目指すべきです」

EMISの再構築も検討

厚労省では現在、EMISの再構築の検討も進めている。阪神淡路大震災を契機に開発されたEMISは、災害時の適切な被災情報の収集・提供を目的としたシステムで、医療資源情報の病院、消防、行政等への提供や、DMAT(災害派遣医療チーム)の業務支援などの機能を持つ。しかし長年かけて1つのシステムに多様な業務を統合し構築を重ねたため、システムが柔軟性、拡張性、連携性に欠けており、改修に多大なコストが発生することも課題だ。

「医療機関がG-MISを利用するようになったため、災害時の医療機関の情報収集機能にも活用し、EMISで把握したい項目をG-MISに追加することが、今年度の厚労省科学特別研究班で検証・評価が行われています。病院報告として日常使いされているG-MISとの連携、そのデータを災害業務で活用するべく、データ連携ツールであるASTERIA Warpのさらなる活用が期待されます」

また、EMISにはDMATの隊員管理や部隊派遣管理、教育履歴管理等の業務システムという役割もあり、これを拡張性に優れたローコード・ノーコードツールに載せ替えることも研究班で検証中だという。「災害現場から情報を吸い上げるために救援チーム向けにモバイルアプリが不可欠ですが、災害の種類や状況によってアプリの入力項目は変化します。デジタル人材ではない災害対策本部や日本DMAT事務局でもノーコードで簡単かつ即座にモバイルアプリを開発できること、そして災害現場等のオフライン環境でも使用できることを重視し、こちらも科学特別研究班で評価中であり、自治体導入実績があるアステリアの『Platio(プラティオ)』も対象と聞いています」。Platioは業務に合ったモバイルアプリをノーコードで簡単に作成できるツールで、企業や自治体に多数採用されている。

コロナ禍という危機を経て強靭化された日本の医療情報連携基盤は、ノーコードのデータ連携ツールやモバイルアプリ作成ツールの活用によって、さらなる進化を遂げようとしている。政府機関や自治体が今後DXを進める際にも、これらツールは有効だろう。

 

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