オンデマンド医療機器や文化財保存も 3Dプリンター活用新事業

3Dプリンターの可能性はアイデア次第で無限に広がる。オンデマンド医療機器開発、文化財保存への活用、バイオマス素材を使った企業向けサービスなど、多くの新規事業が生まれている。注目すべき5つの先進事例を紹介する。

ヤマト運輸
矯正用マウスピースを製造・配送

歯科矯正用マウスピース

ヤマト運輸はマウスピース歯科矯正サービス「hanaravi」を提供するDRIPSと連携し、3Dプリンターを活用した歯科矯正用マウスピースの製造、配送サービスを2022年5月にスタートした。

ヤマト運輸は羽田空港の近隣に整備した日本最大級の物流施設「羽田クロノゲート」において2017年に3Dプリンターを導入。人工関節の手術用治具の造形や、メディカル領域における試作品などを製造、配送してきた。

今回の連携では、歯型造形用データから3Dプリンターの造形に適したデータへ自動補正するツールを新たに開発。3Dプリンターによる製造から最終製品の仕上げ加工まで全工程の機械化によって、国内初のマウスピースのオンデマンド・カスタマイズ生産を実現した。

今後は、全国にあるヤマト運輸の主要拠点に順次3Dプリンターを増設し、患者の近くで製造し、スピーディーに配送する仕組みを構築する。同社は「3Dプリンターを活用したものづくりから新しい運び方にチャレンジしていく」という。

 

ジャパン・メディカル・カンパニー
頭蓋形状矯正ヘルメット

頭蓋形状矯正ヘルメット「Qurum」

ジャパン・メディカル・カンパニーは最先端の3Dプリンティング技術を用いて、赤ちゃんの「頭のゆがみ」を矯正するヘルメット「Qurum」を提供している。

赤ちゃんの頭は、産道を通る際の負荷や出生後の仰向け寝など、さまざまな原因によってゆがみが生じることがあり、中度・重度クラスは自然治癒が難しい。

2021年2月に医療機器承認を取得した「Qurum」は、脳神経外科や小児科、新生児科、小児外科、形成外科の医師の監修のもと開発された頭蓋形状矯正ヘルメット。3Dプリンターによる強度と軽さを両立した構造が特徴で、ひとりひとり異なる赤ちゃんの頭の形を正確に計測し、オーダーメイドで提供する。

さらに同社は「赤ちゃん頭のかたち測定アプリ」も開発。誰でも簡単に使える操作性、専門医の全面監修による信頼性、頭の歪み度がひと目でわかる可視性が特徴で、累計ダウンロード数は13万を突破。モノとサービスを融合させた、先駆的な3Dプリンターの活用事例と言える。

 

サイフューズ
バイオ3Dプリントでグロース市場上場

サイフューズのバイオ3Dプリンター

2022年12月1日、東証グロース市場に上場したサイフューズは、独自のバイオ3Dプリンティング技術をもとに「3D細胞製品」の実用化を目指す再生医療ベンチャーだ。

細胞のみから立体的な組織・臓器を作製するという独自の基盤技術を活用して、病気やケガで機能不全になった組織・臓器等を再生させ、従来の手術や治療法では満たされることのなかったニーズに応え、多くの患者に貢献することを目指している。

2020年には京都大学と、末梢神経損傷に対する新しい治療法としてバイオ3Dプリンターを用いた神経再生技術の開発に世界で初めて成功。末梢神経再生のための再生医療等製品の医師主導治験を現在実施中で、2023年からの企業治験開始、2025年の承認申請、2026年の承認取得を予定している。

装置の外販も行っており、細胞塊の積層を自動化するバイオ3Dプリンター「Regenova(レジェノバ)」を澁谷工業と共同開発・製品化し、国内外に販売している。サイフューズの上場は3Dプリンター市場の可能性を示している。

 

原製作所
文化財を3Dプリンターで守る

「つなぎ龍」の高精度フルカラーレプリカ

3Dスキャナと3Dプリンターを活用し、文化財レプリカを製造する取り組みが広がっている。

原製作所(長野県上田市)は、国産3Dプリンター大手のミマキエンジニアリングなどと連携し、埼玉県秩父神社所蔵の文化財「つなぎの龍」を元に、3Dスキャナとフルカラー3Dプリンターを用いて高精度フルカラー複製品(1/5レプリカ)を作製した。

「つなぎ龍」は日光東照宮の眠り猫などで有名な江戸時代初期の彫刻職人・左甚五郎の作品。秩父神社の本殿改修事業で「つなぎ龍」の修復が完了したのと合わせてレプリカを作製した。

貴重な文化財は盗難や破損のリスクを減らすために、一般の目には触れさせず保管するケースも珍しくない。3Dスキャナとプリンターを活用すれば、文化財をデータ化して半永久保存したり、高精度レプリカによる「触れる文化財」などの新しい活用方法を生み出すことができる。地域創生の視点からも注目すべきプロジェクトだろう。

 

NOD
バイオマス×3Dプリンターで什器製造

コーヒーかすを使ったテーブル

デザイン会社のNODは、2021年からバイオマス素材や有機廃棄物を3Dプリンターによって加工・再利用し、循環型経済づくりを目指す「RECAPTURE」プロジェクトを推進している。これまでに、卵の殻や酢酸セルロースなどを素材とした什器などを3Dプリンターで製造してきた。

最新の取り組みが、企業の廃棄物を素材として再利用し、3Dプリンターによってオーダーメイドのプロダクトを作るプロジェクトだ。自社から出た廃棄物を自社で使う什器として再利用するもので、まず鹿島建設および明治と協業。鹿島建設のオフィスのカフェスペースから出たコーヒーかすを使ったテーブルと、明治がチョコレートを製造する過程で排出するカカオハスクを使った什器を製造した。

NODは「RECAPTURE」プロジェクトを通じて、再利用可能な素材を柔軟なデザインが可能な3Dプリンターを活用し加工することで、作り手がクリエイティビティを発揮しつつ、素材の面から環境負荷の低い都市を作ることを目指す。