全国首長アンケート結果に見る 自治体DXに必要なこと
10月20日、21日の2日にわたり開催された、デジタル庁創設オンラインセミナー。21日には、袋井市、福島市の自治体DXに向けた取組みと、2021年8~9月に行った自治体DX全国首長アンケート結果を踏まえ、産官学のトークセッションが行われた。
デジタル化で業務負担を減らす
2005年4月、平成の大合併で現在の袋井市が誕生した。多様化する市民ニーズや業務の高度化に加え、合併前後の調整で増加した事務負担を軽減するべく、自治体の電子化を進めてきた袋井市。現在は「第3次袋井市ICT推進計画」(2019年~2024年)のもと、31の施策を実行している。
袋井市ICT政策課長の小柳津和彦氏は「第3次ICT推進計画では、顕在化する行政課題に対しデジタルを活用して改革する取組みを進めています。一方で、自治体DXを推進することで生じる市民間のデジタル格差や、職員の疲弊といった課題も見えてきました」と話す。
2020年度、急激に交付申請件数が増えたマイナンバーカード。職員の事務処理が増加し時間外勤務が常態化した。このため、4月からマイナンバーカード係を新設し、従来の仕事のやり方を細分化。可能な限り業務のアウトソーシングを図った。例えば、給水届の電子申請化では、スマホでも申請できるようサービスを見直すとともに、申請後に行う電話での確認事項も全て電子決済で一括して完結するよう業務を改善した。
「これらの事例はDXの本質を理解し、業務の見直しを抜本的に行ったことで得られた成果です」(小柳津氏)。
コロナ禍でさまざまな制約を余儀なくされるなか、デジタル化はますます加速していく。一方で、デジタルを使える人と使えない人の格差は広がる。
「自治体DXを進めていく上では、デジタルの効果を享受しあうための支援への転換が必要と考えています。ICT推進計画は、全ての施策に共通する横ぐしとなります。デジタルを手段に、市民も行政も社会を改革していこうという気運を高めることで、デジタルでつながるHappyなまちを実現していきたいと思います」と小柳津氏はいう。
職員の意識変容と
部局横断がカギ
トークセッションに参加したもう一つの自治体、福島市でも、総合計画「まちづくり基本ビジョン」で重点施策の1つにICTを活用した行政・経済・社会の変革を掲げている。個別計画「福島市地域情報化イノベーション計画」、実行計画として「福島市スマートシティプラン」も策定している。
「計画を作ったからと言って、職員の意識が直ちに変わるものではない」と話すのは、福島市政策調整部の信太秀昭氏。DXに関する職員の意識には濃淡があり、業務改善(BPR)1つとっても、業務の棚卸、見直しを「今までの仕事を否定された」と現場が受け止めれば上手くいかない。
こうした状況のなか、既存の仕事の流れを変えずにシステムを変えることで効率化に成功した例として「答弁検討システム」がある。これは①質問の集約、②各部局での答弁作成、③答弁内容の確認を、全てペーパーレスで端末から行い、会議本番で行う答弁までペーパーレスにするシステム。部局を越えてデータを1カ所に集約し共有しているのがポイントだ。
「現場の仕事の流れは変えない。でも、データや紙、人は動かない。でも、データを送る、受け取る、まとめるといった人の手による作業をなくした結果、省力化とペーパーレスを実現しました。そして、部局を越えたデータ連携は便利だという認識が広がったと感じます」(信太氏)。
DXを進める上ではEnd to Endの視点も重要。最初のEnd(住民側)はデジタルファーストで利便性向上を進め、もう1つのEnd(職員側)は、届いたデータをシステムに格納するところまで考え省力化を図っていく。
DX推進には、職員1人ひとりの意識変革が必要だ。「今の仕事の流れが最適だという拒否反応が出がちですが、データベースの提供を続けた結果、部局を越えた連携が増えました」(信太氏)
2021年度には部局を横断した構成で『DX推進プロジェクトチーム』も立ち上げ、自治体DXを加速する。
コ・クリエーションでDXを加速
袋井市の小柳津氏、福島市の信太氏にドコモの宮本薫氏を交え、事業構想大学院大学 事業構想研究所教授の河村昌美氏がファシリテーターとなって行われたトークセッションでは、セミナーに先立ち事業構想大学院とドコモで行った「自治体DX全国首長アンケート」の結果をベースに話が進んだ。
アンケート結果では、自治体DXに関し、専門部署の設置予定がない自治体が16%、既存部門で対応する自治体が45%となった。これを踏まえた専門部署の必要性についての議論では、「行政の場合、専門部署を置くとそこに依存しがちですが、DXに関しては職員が自分ごととして捉える所から始まる。そのためのマインドの醸成が必要で、全庁的な取組みとなるよう進めていくのがいいかと思います」と小柳津氏。
信太氏は「DXは変革が先にあり、その上でデジタルをどう使うかという順序かと思います。変革の部分を考えた場合、組織横断的に人を準備していく必要があるかと思います」と話した。
また、ドコモの宮本氏は、自治体DXをサポートする民間企業の立場から「システム化、デジタル化を進めていく上では、組織横断的な課題に対応する必要がある。各庁内での横ぐしを調整する部署という意味で、専門チームの構成も各部局横断で編成することがポイントかと思います」と信太氏に同意した。
続いて、ファシリテーターの河村氏が専門人材の確保について、アンケート結果から「デジタル専門人材の受入れを含めた公民連携のニーズの高さ」を指摘。内閣府のデジタル専門人材制度を活用し、ドコモからICT専門官を受け入れている袋井市の小柳津氏は「自治体のデジタル化を進めていく上で外部の協力を求めていくことは重要。行政文化と企業文化の違いはありますが、ユーザーからすれば官民の境はないわけで、求められるサービスの提供を一番に考えれば、両者が違いを理解しあい連携することが必要かと感じます」と意見を述べた。
これに対し福島市の信太氏も「DXには民間のデジタルに長けた方の力を借りることが必要。将来を見据えれば、力を借りるだけでなく、共に考え、創っていく〈共創〉の視点が重要かと思います」と同意。
ドコモの宮本氏は「アンケートを実施し、全国の自治体DXの取組み状況がある程度見えてきたかと思います。次は、先行自治体の取組み内容の集約、見える化にも貢献していきたい。最終的には、計画策定に関する情報提供からAI、RPA、テレワーク環境構築をはじめとしたソリューションの提供まで幅広く対応したい思っています」と話した。
公民連携を専門とする河村氏は「社会の課題が複雑になればなるほど、共に創っていくコ・クリエーションが必要になっていきます。特に自治体DX、地域のデジタル化はコ・クリエーションなしには進まない分野かと思います。まずは、先行自治体の取組みを参考にしながら、人もノウハウもコ・クリエーションしていくという意識を持ちながら取り組んでいくことが重要かと思います」とまとめた。
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