神戸市の働き方改革とDX 推進 財政改革と市民サービスを両立

神戸市では2017年に「働き方改革推進チーム」を設置し、業務改革を進めている。さらに、DXを「デジタル技術を用いて、市民サービス、市民とのコミュニケーション、市役所の組織風土を変革する」ことと定義し、推進している。

森 浩三(神戸市企画調整局情報化戦略部長)

神戸市では現在、「働き方改革」として業務改革を進めている。改革の原点は、1995年に発生した阪神・淡路大震災だ。この甚大な災害から復興を果たすため、市は多額の借金を背負い、一時は倒産の危機ともいわれた。このような中、厳しい行財政改革を進め、20年で職員約3分の1を削減した。

人員減で負担増、
対策として「働き方改革」を開始

「職員の大幅削減で、1人1人の負担は増大しました。そこで2017年6月には、庁内に『働き方改革推進チーム』を設置し、業務改革への取り組みを始めました。民間人材の業務改革専門官を登用し、業務改革、区役所の現場業務、勤務制度・労務、デジタル・ICTインフラについて、それぞれを統括する部門横断的なチームを作りました。そして制度・意識・技術という3つの観点から、改革を進めてきました」。

総務省「地方自治体DX検討会」構成員で神戸市企画調整局情報化戦略部長の森浩三氏は、これまでの改革を振り返る。働き方改革の目指す姿は、スマートなワークスタイルと働きやすい職場だ。まず、在宅勤務やフレックスタイムなど職員の多様で柔軟な働き方を目指すこととした。さらにペーパーレス化の促進や文書管理の効率化など、業務省力化や電子化による生産性向上をはかった。そしてグループウェア導入などで、全庁コミュニケーションと協働を促進してきた。

また、スマートで優しい市民サービスを目標に掲げ、市民が来庁せずにできる手続きを拡大した。そしてICT活用による利便性向上や事務効率化、チャットボット・AI導入などによる電話問い合わせ対応業務の大幅削減も目指してきた。

「働き方改革では様々な取り組みをしてきましたが、どれも全国のどこかの自治体で既に行っていたり、民間企業では当たり前で、すぐできるようなものばかりです。在宅勤務については、従来は介護や育児などをしている職員だけが対象でしたが、その要件を撤廃しました」。

市民への質の高いサービス維持と
提供に不可欠なDX

神戸市では現在、人口減少への対応が重要課題となっている。さらに気候変動による自然災害の甚大化や、コロナ禍への対応も喫緊の課題だ。また、テクノロジーの進歩が加速する中、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は急務になっている。「人口減少に対応し、50年後、100年後の将来の市民にも安全・安心で質の高いサービスを提供していくには、DX推進は不可欠です」。

神戸市がDXで目指すまちの姿は、「豊かで質の高い生活環境」「都市の持続的成長・人口定着」「安全で安心なまちづくり」を実現し、市民・事業者・神戸市の3者が良い結果を得る三方良しをもたらすというものだ。

また、市ではDXを「デジタル技術を用いて、市民サービス、市民とのコミュニケーション、市役所の組織風土を変革する」と定義している。そのための手法としては、スマートシティやオープンデータ、行政手続きのスマート化、ペーパーレス化・業務デジタル化がある。

「行政手続きのスマート化では、例えば、電子化やウェブを通じた申請書作成を通じ、市民や事業者が来庁しなくても良い環境を整えます。窓口に来られる方の数が減れば、職員も効率的に仕事ができます。スマート化を通じて、何人がどの程度の時間をかけて申請書を作ったかといったデータの収集や分析も可能になります。データを活かして、継続的なBPR(Business Process Reengineering)による業務改革にもつなげられるのが、スマート化の大きなメリットです」。

市では、2025年度末までにスマート化カバー率を70%に向上させるという目標を立て、手続きの集中的なスマート化に着手している。一方、新型コロナウイルス感染症( COVID-19)への対応では、職員が自らアプリを作成し、受診先相談チャットボットや特別定額給付金の申請状況検索サイト、音声通話による申請状況等の自動案内ができるようにした。

庁内では現在、クラウドサービス「kintone(キントーン)」の利用者が増加している。キントーンはドラッグ&ドロップ等の簡単な操作で、職員自ら業務アプリを開発し、スピード感や柔軟性を持って業務改善に取り組めるサービスだ。これを利用することで、ペーパーレス化や業務効率化も進められる。

今後はさらにデジタル技術で業務改革できる人材を育成し、増やしていく方針だ。職員のレベルアップを促進するため、民間から「デジタル化専門官」も採用した。また、人材育成の戦略として、職員を民間企業に派遣し、全体のリテラシーを底上げする取り組みも来年度から集中的に行う予定だ。

変化に迅速に対応できる
他者と連携したDX推進

「DXの推進では、デジタルの部分よりもトランスフォーメーションの方に本質があるべきと考えています。現在のような変化が激しい時代には、今後の変化を予測し、多様なニーズにきめ細かく対応することが求められます。市民の年齢や性別、家族構成、国籍、趣味趣向などは多様で、そのニーズも細分化しています」。

また、役所が行政や地域のあらゆる課題を解決するのは難しく、多様な担い手と共創し、より良い公共サービスで市民に新たな価値をもたらすことが求められている。さらにデータはできるだけ公開し、市民にはデータに基づく適切な判断や行動を、主体的にとってもらうことも重要だ。

神戸市職員だけでなく、近隣の自治体とも協力し、業務の可視化やアプリをつくる活動を実施している

「特に災害時は、市民の方々には自分の命を自分で守っていただくことが重要になります。そして職員は、公務員にしかできない仕事に専念すべきです。デジタルの徹底的な活用で、その可能性は飛躍的に拡大します」。

一方、DX推進では、以下の点も重要になる。まず、DX推進は皆の仕事で、トップダウンとボトムアップの双方のアプローチが必要だ。また、データや課題はオープンにして皆で共有し、議論する。さらに、課題の本質の見極めは必須要件だ。

「課題が曖昧だと、どんな技術を入れても成功しません。本当の課題が見つかった時、それに最適なソリューションを見つければ、テクノロジーが解決に導いてくれます」。

そして民間人材を受け入れ、その知恵を活かしていくことも不可欠だ。庁内だけでなく庁外でも仲間を増やし、共に取り組みを進めていけば、DX推進への道は開かれる。