ビジネスチャットが行政業務を刷新 ICT活用で行政サービスの質向上

アフターコロナの新常態を見据え、スマートな自治体変革への取り組みが加速している。今までのオンライン手続きやAI・RPAといった自動化ツールに加えて、ビジネスチャットを導入し、庁内外のコミュニケーションの向上を通じた業務改善が急増している。先進自治体の導入事例を聞いた。

新型コロナウイルスの感染対策として緊急事態宣言が出されたことで、自治体でも「三密」になりがちな対面会議や業務の一部がオンライン会議やチャットに置き換えられた。従来もツールの導入が試みられたが、インターネット環境でしか使えないものでは業務で本格的に使うには限界があった。しかし、LGWAN環境でも、インターネット環境からでも使える自治体専用のビジネスチャット「LoGoチャット」の登場が変化を起こした。

『LoGoチャット』は新型コロナ禍で、迅速な情報共有と意思決定が迫られる自治体業務において効果を発揮し、さらに自治体間の連携を加速させた。

兵庫県伊丹市では、危機管理室や市民課など複数の部局が横断的に関わる特別定額給付金の事務に関わるチームで『LoGoチャット』を活用している。

「時間や場所に制約されず情報の発信と共有ができるので、報告・連絡・相談が滞りません。また、古いやりとりが次々と流れてしまう電子メールよりも、テーマ毎に履歴が蓄積されるチャットのほうが後からキャッチアップしやすく、必要な情報を探すのも簡単でした」と、同市情報管理課の大田幸正氏は振り返る。給付管理や全体調整など10前後のトークルームを使い分け、対話、資料回覧、情報共有といった用途で業務を進めた。さらに今では庁内利用だけでなく、地域内の介護事業者にゲストアカウントを発行し、三密を避けながら連絡会を実施した。

大田 幸正 兵庫県伊丹市 総務部総務室情報管理課 課長

ICT先進都市としてデジタル行政に積極的に取り組んできた千葉県市川市は、すでに職員2,500人近くが『LoGoチャット』のアカウントを保有している(2020年5月末現在)。本人から希望次第で個人保有のスマートフォンとの連携も可能と伝えたところ、アカウント保有者の約7割から希望が寄せられた。情報政策課の中村祐太氏は、「大きく変わったことは離れていても3人以上で活発な議論ができるようになったことです。今までは打ち合わせを1つするにも日程調整、会議室の予約、資料の印刷、機材の手配と準備に時間がかかっていました。LoGoチャットを導入してからは、今からチャット上で30分打ち合わせをしましょうとすれば、すぐに始めることができます。仕事の仕方に大きな変革が起こっていますね」と語る。

中村 祐太 千葉県市川市 情報政策部情報政策課 主任

埼玉県北本市では、コロナ禍での対策としてLoGoチャットを全庁展開した。今後は、災害時に避難所を開設した際の連絡手段として、利用する計画もある。同市情報政策課の朝比奈功氏は、「従来は緊急時の緊急連絡手段というとメールと電話でしたが、チャットを導入したことで、避難所や災害現場からの写真や位置情報をリアルタイムに情報共有できます。また、緊急時にしか使わないICTツールだと、いざ使おうと思った時に使えないことがあります。日常的に使い慣れていれば、緊急時も慌てることなく、落ち着いて使え、迅速な対応が可能になります」と、平時でも緊急時でも使えるLoGoチャットの有効性を語る。

朝比奈 功 埼玉県北本市 行政経営部情報政策課 主査

図 コロナ禍での自治体におけるLoGoチャット活用事例

1.庁内・課内の情報共有
・ 執務室分離や在宅勤務に伴い、職員同士のコミュニケーションが取りにくい状況で、対面会議や打ち合わせをLoGoチャットで実施。
・ 出勤連絡用ルームを作り、子供の送迎や家族の状況などによる遅参連絡や、体調不良時の対応フローの共有。

2.迅速な意思決定の支援
・ 対面を避けるため、コロナ対策チーム連絡用トークルームを作成し、施策検討から迅速な意思決定。新型コロナ対策本部会議もLoGoチャット会議を採用。

3.全国の自治体とつながるコミュニティ
・ 迅速な対応が求められる中、他自治体の状況などをユーザー専用のトークルームで情報共有。国の動向や支援施策への対応状況の共有に加えて、WEB会議システム等の活用方法などテレワークに備えたデジタルの活用事例を共有。

 

利便性と安全性の両立で進む
BYOD

大田 セキュアなLGWAN環境で、庁内や他自治体とテキストやファイル、写真などの送受信ができる『LoGoチャット』はPCだけではなく、セキュリティを高めた上でスマホからも使えることが大きなメリットです。今後は全庁へ展開予定ですが、市川市の導入率の高さを見習いたいです。

中村 緊急事態宣言の前後から、執務室分散や在宅勤務が開始され、職員間のコミュニケーションの問題が顕著となったとき、情報政策部で試験運用し効果を確認していたLoGoチャットを拡大運用するのが早いだろうという判断で、全職員にアカウントを配布した結果です。各自のスマホでも使いたい(Bring Your Own Device、BYOD)という職員が想像以上に多くて驚きました。

朝比奈 モバイルツールを使うと、24時間365日拘束されそうだと捉える人もいるでしょうが、緊急時の連絡や在宅勤務時の職員間の連絡がスムーズになるメリットに魅力を感じます。個人のSNSではないLoGoチャットでは情報漏洩防止のための複数のセキュリティ機能があり、安心して使うことができます。

チャットで広がる
個別最適から全体最適へ

大田 今回の定額給付金の事務において、LoGoチャットがなければ乗り切れなかったかもしれません。庁内での連携強化もですが、LoGoチャットで全国の職員の皆さんとつながる「LoGoチャットユーザーグループ」の存在が大きいです。トークルームでは、「給付金の申請に誤りがある住民への最適な連絡方法は?」「新型コロナ対策窓口の体制や役割は?」などと新型コロナへの対応で生まれた課題や疑問を全国で同じ課題を抱える職員の皆様とリアルタイムに相談しあいました。

中村 私もユーザーグループで他の自治体とつながり、ウェブ会議の運用について成功例も失敗例も知ることができて参考になりました。伊丹市さんのように庁内に横串を通す連携はもちろん、全国で同じ業務を担う自治体担当者が横連携して、デジタル活用のナレッジを共有しあいながら、外から得た情報を庁内にプロットする流れを作れたら理想的です。

朝比奈 チャットには、住民サービスに関わる部門同士が連携することでノウハウの共有や業務の標準化が進むという直接的な効果と、他府県との連携で業務の最適化が進むことで創出した時間を住民サービス向上のための政策立案などに充てられるという間接的な効果があると思います。

大田 さらなるチャットの活用により「縦割り」と揶揄されるセクショナリズムや、数年ごとの異動によって個人に蓄積された知識やノウハウを組織力として発揮されないといった課題を解決できるかもしれません。私は全国の職員の皆さんから得た最新の情報をもとに、人事部門などと連携して、テレワーク対応についての専用ルームを作って議論を進めています。

中村 大雨や地震など災害への対策、マイナンバー制度、新型コロナ対策など、ここ数年だけでも共有しておきたい暗黙知が数多くあります。前例のない対応が求められるアフターコロナの時代には、自治体が単独で取り組むよりも、他自治体とデジタルを通じて互いに協力し、共に創るプロセスを経て、よりよい未来が拓けると思います。