2020年7月号

なぜ、企業のDXには構想が必要なのか

経済産業省が示した「2025年の崖」 DXは業務効率化ではなく、価値創造が鍵

小野 淳哉(事業構想研究所 教授)

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コロナ禍で加速したDX

新型コロナウィルスの感染拡大に伴う人の行動規制は、経済に大きなインパクトを与えた。リアルサービス(飲食・接客・観光・航空・エンタメ等)は受注・需要の蒸発に直面し、サプライチェーンの分断は、製造業にとって大きなダメージとなった。一方で、GAFA及びマイクロソフトは増収を続け、データやソフトウェアといった無形資産を武器にバーチャルなサービスを創造し、企業価値を高めている。

コロナ禍はデジタルシフトを加速させる契機となり、オンラインによるコミュニケーションの実効性が認識され、在宅ワークの定着や、社会インフラである教育、医療の分野においてもオンラインサービスの実現が加速した。

Withコロナの新常態を迎えた現在は、世界が変わる転換期にあり、企業が新たなビジネスシーンを生み出し、DXを活かして事業を創造するチャンスと捉えるべきであろう。

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日本企業の現在地

一方で、日本はIMD(国際経営開発研究所)の2019年度世界デジタル競争力ランキングで23位と大きく遅れており、主要な産業構造も、大量生産・大量消費のビジネスモデルから脱皮できていない。一部のプロセスにデジタル技術を適用し始めているものの、IPA(情報処理技術機構)の調査によると、取り組み状況も業務効率化による生産性の向上に留まっているのが実態だ。また、GAFA等のグローバルプラットフォーマーによる革新的な利便性を追求したサービスの提供により、リアルビジネスが破壊されるという危機感からか、デジタル技術の普及に対して脅威を感じている企業も多い。

経済産業省のDXレポート(2018年9月)では、足元の既存システムの複雑化・ブラックボックス化、縦割り組織による弊害という実態が示され、これらの課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の3倍)の経済損失が生じる可能性がある(2025年の崖)としている。

これらの状況を打破するために、昨今企業内にDX推進本部、デジタル・イノベーション本部等が組織化されDXの潮流にどのように対峙していくかが真剣に検討され始めている。

DXは目的ではない

DXは、2004年にスウェーデンのウメオ大学エリック・ストルターマン教授らが提唱したとされる概念であるが、そこには「IT技術をあらゆる人々の良い生活のために」という目的が言及されている。

デジタルテクノロジーは、スマホ等のパーソナルデバイスを通して顧客接点を生み出し、そこから得られたデータをプラットフォームで価値化し、利便性・豊かさといった顧客体験を提供する。製造・流通等の現場では、センサーデバイスを通して、現場のプロセスをモニタリング、制御、最適化、自律させることにより、オンデマンドの実現、リードタイム短縮、生産性・品質の向上を実現する。(図1参照)

図1

 

事業構想を実現するためにDXを活かす

DXによりデータ駆動型社会が浸透しつつある現在、顧客との直接的なつながり(D2C)、サービス化、シェアリングエコノミー、リモートコミュニケーション、循環型社会等が加速することが予測される。

リアルとバーチャルを区分して考える事の意味は薄れ、シームレスな一貫したサービスとして顧客体験をアップデートし続けるという考え方も求められるであろう。

それでは、DXに対する取り組みの起点をどこに置くか。

VUCA (Volatility「変動性」、Uncertainly「不確実性」、Complexity「複雑性」、Ambiguity「曖昧性」)の時代に企業が未来を見据え、何のために、何をするのかという事業ビジョンを描くことを起点に考えるべきだと思う。特に、何のために『目的』の解像度を上げることで、何を、どのようにしていくのかが具体化される。この事業ビジョンを起点に現状とのGAPをデジタルテクノロジーの活用により埋め、イノベーションを起こしていく。事業構想を実現するためにDXを活かす。このように考えると、自社で構築すべきプラットフォームの姿も明らかになり、GAFAのようなグローバルプラットフォーマーとは対峙する関係ではなく、自社の事業構想の中でどのように活かしていくべきかという発想も生まれてくる。

さらに、その事業構想に共感する様々なステークホルダーが集まり、エコシステムが形成されると社会に大きなインパクトを与えるムーブメントが起き、ポジティブなビジネススパイラルが回りだす。

新常態を迎えている今、DXを活用した日本企業らしいビジネスモデルを生んでいくチャンスだと思っている。

 

小野 淳哉(おの・あつや)
事業構想研究所 教授

 

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