第2期の新政策の流れを理解する 人材の確保・育成に重点
地方創生は、新たな政策や潤沢な予算、練り上げた計画があったとしても、実際にそれらを担う人材が必要不可欠だ。東京圏に集中する専門人材を各地とマッチングし活かすとともに、リーダーとなる地元人材の育成も欠かせない。内閣府 地方創生推進事務局長 内閣審議官の海堀安喜氏に話を聞いた。
「関係人口創出」で
都市圏から地域へ人材補充
第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、第1期の課題「東京圏一極集中」と「地方の人口減少」の解決に向けて、新たに「多様な人材の活躍推進」と「新しい時代の流れを力にする」という横断的目標が加えられた。
「多様な人材の活躍」は、1期では東京圏の仕事を地方に移す「移住」の推進に取り組んできたが、2期では「移住」に加えて敷居が低い「関係人口の創出・拡大」に注力する。(図)
図 地方へのひとの流れの強化
その狙いを、内閣府地方創生推進事務局長 海堀安喜氏は、「地方が抱える課題を解決するうえで、その地域に不足するスキルやノウハウを持った人材を東京圏から送りこみ、地方の取組への応援を強化します」と説明する。
2つ目の目標の「新しい時代の流れを力にする」には2つ柱がある。それは、Society5.0を先行実現する「スーパーシティ」構想と、SDGsの達成に向けた地方における持続可能なまちづくりだ。内閣府はこの2年間、SDGsを標榜とする都市を60都市を選出し、その内より先進的な施策に取り組む20事業に財政支援を行ってきた。第2期では、総合戦略に目標として6割の自治体が「地方創生SDGs」に取り組むことを位置付けた。
「SDGsの理念は持続可能で多様性と包摂性のある社会を目指すというものです。地方創生をこの理念に沿って進めれば、政策全体の最適化や地域課題解決の加速化という相乗効果が期待できるでしょう」。
政府は、2020年度から2024年度で、SDGsの達成に取り組む地方公共団体の割合を60%に引き上げるKPIを設定している。
企業と自治体をつなぐ
マッチング支援を拡充
第2期の柱「関係人口の創出・拡大」では、新しい時代の流れを力にするためのノウハウやスキルを持った人材や、地域の産業を活性化する「プロフェッショナル人材」を都市圏から地方に送り込むための支援制度を拡充し、人々が集い、安心して暮らせる「稼げる地域」の構築を目指す。
「例えば、IoTを活用したスーパーシティを実現しようとしても、町役場の人たちだけで実現するのは難しいでしょう。一方で、民間企業にはそういう分野を得意とする人たちが大勢います。そのような専門人材を、必要とする自治体とマッチングして送り込む支援制度を拡充しました」と海堀氏。
1期で行ってきた、企業が寄附を通じて地方創生の取組を応援する「企業版ふるさと納税」についても、税額控除割合を最大9割へ拡大するとともに、寄附時期の制限を緩和した。企業版ふるさと納税は、寄附金だけでなく、企業と地方公共団体のつながりをつくり、寄附企業が積極的にその地域の創生に参加している。
さらにマッチングを行う中間組織を公募して、プロフェッショナル人材に向けたセミナーやフォーラムを開催するなどの支援事業を強化する方針だ。また、マッチングがうまくいき、地方での副業・兼業に通う人に対しては最大3年間150万円の移動費支援も行う。
「地元を熟知している地方銀行に人材マッチングを担っていただこうと考えています。銀行の議決権保有制限(いわゆる5%ルール)が緩和され、これからは資金だけでなく人材やノウハウも提供していただいて、地方創生をしっかりと支援していただければと思っています。地方銀行にとって、大きなビジネスチャンスになるでしょうね」。
また、スーパーシティについても、新たにFacebook上に「スーパーシティ・オープンラボ」を新設した。ラボには、今年3月9日時点で85の団体が登録している。登録企業はラボ上に得意分野の記事を投稿、自治体がそれを見て連携先を検討するという、いわゆる公開プレゼンの場だ。
地方創生をけん引する人材を
産学官連携で育成する
このようにラボやマッチングの組織ができて、現場が動き始めたからそれでいいのかというと、「それだけでは十分ではありません」と海堀氏は言う。「その地域が自走するための人材教育が必要です。そうでなければ、3年たって東京圏から来ていた"助っ人"がいなくなると、とたんに立ち行かなくなる可能性があります」。
地域の産業振興や、専門人材を育成する取組は、既に「地方大学・地域産業創生交付金事業」として着手しており、2018年度は広島県・広島大学・マツダが連携した「ひろしまものづくりデジタルイノベーション創出プログラム」など7件を、2019年度は2件を交付対象として認定している。2020年度は早い段階でも申請できるよう制度改善を図り、意欲的な取組の掘り起こしや採択を行うこととしている。
「地方創生では公共団体の中の人たちの発想の転換も重要です。実際に首長がそうしたことに長けている地域は地方創生を先駆的に進めています」と海堀氏。
計画の策定はあくまでも公共団体主導なので、創生計画を作り、そこに国の支援策をあてはめて活用できる、創生計画を引っ張ることができる人材が地域の中に求められる。
「そうした人材育成の機関として、リカレント教育担う教育機関はポイントになると考えています。まずは、どのような支援制度があるのかしっかり理解していただくといいと思います」。
地方創生推進交付金の対象事業には、先駆的な取組、横展開する取組、Society5.0に関する取組など、タイプによって上限金額が異なる。また、内閣府のみならず、総務省をはじめ、関係各省庁において様々な支援制度が用意されている。
「リカレントの場で意識が高い人たちが横でつながっていけば、相乗的にさまざまな取組が進んでいくのだと思います。例えば、スーパーシティの実現では、同じような課題を抱える自治体があります。『中山間地域の医療』という課題を抱えているのであれば、同じ課題を持つ自治体が複数の民間企業と協力して解決しましょう、という新たな流れができるかもしれません。また、お互いに刺激を受けたり、よそのやり方を学んだりすることで、新しいアイデアや課題の解を見つけられるかもしれません。そのような場としてもリカレント教育は、非常に重要だと考えています」。
(取材日:2020年3月6日)スーパーシティ構想など新政策により地方創生を強化/片山 さつき(前内閣府特命担当大臣)
https://www.projectdesign.jp/202005/point-of-localstrategy-2nd/007723.php
地銀の商社化で新事業に挑戦/石田 晋也(金融庁監督局 参事官)
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地域商社・企業の人材支援/田川 和幸(内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部 事務局次長)
https://www.projectdesign.jp/202005/point-of-localstrategy-2nd/007806.php