2019年10月号

サステナブル・シティの最先端

「選ばれるまち」富山市、地元企業の力でコンパクトシティを推進

月刊事業構想 編集部

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人口減少や少子高齢化を受け、富山市で15年以上前から進む「コンパクトシティ戦略」の都市経営。変わりゆく地域の中で、企業や中心商店街の事業主たちは、どのような動きを見せているのか。富山市の過去の実績をふまえ、「選ばれるまち」として更に発展するための、事業構想研究会が開催された。

重藤さわ子准教授は「富山市のこれまでのコンパクトシティを軸とした都市経営の実績を踏まえ、市の更なる発展を目指し、産官学が連携し具体的な事業として構想していくことが本研究会の趣旨です」と語る。

富山市のまちづくりの基本方針は、鉄軌道をはじめとする公共交通を活性化し、沿線への居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集積させる、「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」の実現だ。

山本 貴俊(富山市企画管理部 企画調整課長)

公共交通の活性化については、LRTネットワークの形成により、過度に車に依存したライフスタイルを見直し、歩いて暮らせるまちづくりを実現している。現在は路面電車の富山駅南北接続事業が行われており、今後富山市北部地域と中心市街地のアクセスが強化されることで、公共交通や中心市街地の活性化に寄与すると考えられている。また公共交通沿線への居住推進については、中心市街地や公共交通沿線地区への居住を推進するため、良質な住宅や宅地を供給する事業者や、住宅を新築・購入や賃借して居住する市民に対して助成を実施している。中心市街地の賑わい創出のための取り組みも行なっており、賑わいの核となる全天候型の多目的広場「グランドプラザ」、市内の農産物を販売する「地場もん屋総本店」、高齢者向けの「お出かけ定期券事業」実施もこれにあたる。

富山市では、こうした基本的方向性のもとでさまざまな政策を展開し、持続可能な都市構造の構築に向け、誰もが住みよいまちづくりを目指している。

富山型都市経営が
企業の行動変容を呼ぶ

新日本コンサルタントの市森友明代表は「富山市の都市経営に対し、民間企業の行動変容が起こっています」と話し、市と民間の社会課題の共有が、富山市の特徴であると強調する。

市森 友明(新日本コンサルタント 代表取締役社長)

「富山型都市経営」は、従来の都市経営にはなかった先端技術を計画段階で集中導入する「フロントローディング」の考えを取り入れていると話す。例えば国土交通省のモデル事業の先行導入や、高度な技術を有するコンサルタント会社に委託しマスタープランを作成するなど最先端技術の活用に計画段階に重点を置き、成果につなげることで、まず外部からの評価を高めた。その評価の高まりで市民や企業の意識変容が生まれ、富山市の都市経営(課題)に対して地域企業の投資が拡大しているという。この結果、地域企業の価値や経営の質も高まり、都市のサステナビリティ(持続可能性)に寄与するという構造も生まれた。

同社は車を賢く使うモビリティ・マネジメントに取り組んでいる。「多くの地方都市は自動車が多く普及しすぎているせいで、公共交通が衰退して郊外化や中心市街地の衰退が進んでいます。自動車をなくすのではなく、公共交通機関を適切に利用する社会へと変化することで、社会的豊かさを大きくさせることができます」と市森氏。これは富山市が目指す目標とも一致する。

そこで中心市街地の活性化と市民の意識変容が必要になる。2011年には藤井聡氏(京都大学教授、元内閣官房参与)を招き、ローカルタレントとのラジオ番組の放送、日常交通についてのアンケート、フォーラムなども実施し、公共交通の活用を市民に訴求した。社会課題の共有に対し同社が提案を行い、富山市が予算化もした事業だ。

2019年10月、本社を富山駅周辺に移転する。モビリティ•マネジメントを利用した公共交通での通勤誘導を、社員全員に対して行う予定だ。中心市街地居住に対する家賃補助を他地域よりも高くしたり、中心市街地活性化がなぜ必要なのかを社員に対して教育したりもするという。社員の意識、行動、ライフスタイルを変容させ、最終的には企業業績と社員の幸福度を向上させたい考えだ。「富山型都市経営の貢献という壮大な社会実験を、企業独自で進めています。市民の意識・行動変容に関する研究成果としてまとめられればと考えています。」と市森氏。ほかにも同社は地域活性化のための構想を立ち上げており、今後も富山型都市経営に新たなソリューションを提供する。

富山市の政策に呼応し
賑わいを取り戻したい

「若林商店」の若林啓介社長は、2年前から中央通り地区D北街区再開発準備組合の理事長を務めている。中央通り(通称さんぽーろ)は、富山市の中心商店街東側に位置する470mのアーケード商店街で「シャッター通りと化している場所です」と若林氏。昭和50年代は、1日あたりの通行量が平日2万人、休日3万人だったとされるが、現在は1日3,000人ほどと賑わいをみせていたころの8分の1から10分の1に減少している。

若林 啓介(若林商店 代表取締役社長)

この状況を打破するために設立されたのが同組合で、居住人口を増やし、通りに賑わいを取り戻すための市街地再開発事業を計画している。具体的には、商業、業務施設、駐車場、国際規格のスケートリンクを備えた高層マンションの建設である。

「再開発を実施する場所は鉄筋コンクリートや木造などの建物がいくつもある中央通りの入口にあたり、現在は7世帯に12人が暮らしています。富山市のコンパクトシティ政策に呼応、歩いて暮らせるまちづくりに合致する計画で、何とか賑わいを取り戻したいです」と若林氏は話す。居住人口を増やし、通行量を上げたい考えだ。

市街地再開発事業計画の付加施設として、国際規格のスケートリンクを立体駐車場の上に造る計画を立てている。都市再生特別措置法改正にともない創設された立地適正化計画に合致した再開発をするために、従来の商業、駐車場、住宅に加え、付加施設を造る必要があった。付加施設の条件が、文化、教養、健康をキーワードにしており、思い立ったのがスケートリンクだったという。かつて富山県スケート連盟が、行政にリンクの設置を要望して叶わなかった経緯や、グランドプラザで冬に実施している「エコリンク」が好評であることも理由になった。

今後の地権者との交渉に加え、保留床やスケートリンクのホルダー探しなど建設への課題も多い。特にスケートリンクは、公設・公営・指定管理者運営がほとんどで、民設・民営の例は少ない。既に運営会社は設立済みだが、持続性の担保が課題となっていくだろ う。現在、2023年の完成を予定しており、スケートリンクを含む低層階は、これより早い開業を計画している。

重藤 さわ子(事業構想大学院大学 准教授)

 

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