2019年3月号

サステナブル・シティの最先端

富山市「SDGs未来都市」 コンパクトシティが示す持続可能性

月刊事業構想 編集部

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「SDGs未来都市」に選定されている富山市は、歩いて暮らせるコンパクトなまちづくりを目指し、s様々な施策を進めてきた。その取り組みから得られる持続可能な社会へのヒントについて、学識者や政策関係者らが研究会を行い、議論した。

公共交通の利用を促進し、
「歩いて暮らせるまち」に

北陸地方の中核的な都市で、人口約40万人の富山県富山市。「平成の大合併」で周辺市町村と合併し、現在は県の約3分の1の面積を占める。その一方で人口減少や少子高齢化が進行しており、市ではコンパクトシティを目指す政策を進めてきた。

その結果、昨年6月には内閣府によって、経済・社会・環境分野での広範な課題に統合的に取り組む「SDGs未来都市」に選定された。同時に、多様なステークホルダーとの連携を通じ、地域の自律的好循環が見込める「自治体SDGsモデル事業」にも指定された。

「市ではコンパクトなまちづくりを基本方針として、次世代型路面電車(LRT)を含む公共交通機関を整備し、社会インフラを集積してきました。そして、住民の方々にできるだけ沿線に居住してもらえるよう、様々な施策を実施しています」

深谷信介 富山市 政策参与

富山市政策参与として、ブランディングやシビックプライド、都市デザインに関する提言を行う深谷信介氏は、市の政策を説明する。住民の高齢化が進む中、市では「歩いて暮らせるまち」を目指してきた。LRTの「富山ライトレール富山港線」をはじめとする公共交通機関などハード面に加え、住民が外に出て、まちを回遊したくなるようなソフト面の事業も推進する。

富山市がコンパクトシティ政策の検討を開始したのは2003年度で、当時は全国で最も人口密度が薄い県庁所在都市だった。住民が広い市域に分散して居住し、全国2位の自動車依存都市でもあった。「このような状況は持続可能ではなく、市では従来の都市づくりを見直し、現在の市長が政策を引き継いでから大きく方向転換しました。同様の課題を抱える都市は全国に多く、他の都市も富山市から学べると思います」と東京大学工学部都市工学専攻准教授の中島直人氏は、市の取り組みを評価する。

中島直人 東京大学工学部都市工学専攻 准教授

市では現在、公共交通沿線の13カ所を「居住推進地域」に指定している。これらの地域には元々、市民の約28%(2005年)が居住していたが、その比率を2025年までに約42%に向上させようとしている。一方で、住民の誰もが行政サービスを利用しやすいよう、市の出先機関を増やし、住民が居住する地点から半径2km以内に何らかの公共施設がある状態を目指してきた。同時に、公民館や図書館などの文化施設も充実させてきた。

「公共交通を利用して、歩いて暮らせるライフスタイルが定着すると、中心市街地、商店街も賑わってきます。それらを実際に体験することが、シビックプライドの醸成になり、まちなかへの移住が進みます。市ではこのような好循環を増やし、持続性の高い都市になろうとしています」(深谷氏)。

マーケティングの視点も
取り入れた「都市経営」

富山市では常に「都市経営」を意識しながら、マーケティングの視点も取り入れ様々な施策を行っている。また、実施した事業については、その結果や効果を量的に測定し、それらを踏まえて次年度の事業を進める。

大規模な投資を伴う公共交通機関の整備は、一般的には赤字経営に陥りやすいが、富山市のLRTは黒字経営を実現している。元は利用者が減少していたJR富山港線に「公設民営」の考え方を導入し、日本初の本格的LRTシステムに変えた。また、2009年に整備した市内電車環状線では、市が軌道整備事業者として下部の線路整備を行い、上部の交通事業は民間が行う上下分離方式を日本で初めて導入した。

富山ライトレールでは、運営における様々な工夫もなされている。ワンマン運転で均一料金(運賃後払い方式)とし、運転士が支払いを確認できない後部ドアからも乗客が降車できる、「信用降車」を導入した。これによって、利用者の車内での移動距離や降車時間を短縮できた。

また、65歳以上の高齢者は、公共交通で市内各地から中心市街地へ出かける際、途中下車しなければ、料金が1回100円となる「おでかけ定期券」を利用できるようにした。さらに、指定の花店で花束を購入し、市内電車等を利用すると、運賃が無料になる「花Tramモデル事業」も実施している。他には、自転車の共同利用システムも早い時期から導入し、環境に優しい移動手段を推進してきた。

一方、市の中心部で2007年にオープンした、富山市まちなか賑わい広場「グランドプラザ」の稼働率は、休日は100%、平日も80%以上で、成功事例として全国から視察も多い。また、2015年にオープンした複合ビル「TOYAMAキラリ」には、「富山市ガラス美術館」と図書館が入っている。美術館は、富山市によるガラスの魅力を活かすまちづくりの集大成で、図書館は約45万冊の蔵書を誇る。ビル内には、カフェや店舗もある。

一連の投資では、当初は公共投資が中心だったが、近年は民間の投資も増えている。市中心部の総曲輪(そうがわ)三丁目地区では、4年連続で地価が上昇しており、地方都市としては珍しい事例となっている。

トリプル・ウィン関係の
「発信型三方良し」を実践

富山市によるこれらの取り組みは、海外でも高く評価されている。例えば、2012年に経済協力開発機構(OECD)が公表した報告書『コンパクトシティ政策:世界5都市のケーススタディと国別比較』では、オーストラリアのメルボルン、フランスのパリ、米国のポートランド、カナダのバンクーバーと並び、富山市の取り組みが先進事例として取り上げられた。

「この事実は、富山市が既に世界モデルになっているということです。富山市は国のSDGs未来都市にも選ばれています。日本の他の都市にも応用可能性が高いということを認識し、広く伝えていくべきです」 

CSR/SDGコンサルタントの笹谷秀光氏は、このモデルが他の都市にも広がっていくことに期待する。笹谷氏によれば、富山市は「発信型三方良し」を実践するモデルとも言える。かつて、近江商人の心得だった「三方良し」は、「自分良し、相手良し、世間良し」という3つの「良し」を意味する。

笹谷秀光 CSR/SDGコンサルタント、未来まちづくりフォーラム 実行委員長

「三方良しは、自治体にも応用できるスキームです。自分の自治体良し、パートナー企業などの関係者良し、そして市民の世間良しとなれば、トリプル・ウィンの関係が出来上がります。また、これを陰徳ではなく富山市のように効果的に発信すると、SDGsの特性である創造性と革新を呼び込めます。このため、パートナーシップの強化に向けて伝え、広げていくことが重要です」(笹谷氏)

富山市のまちづくりは、創造性とイノベーションのまちづくりで、新しいものと古いものが融合されている。そして一度訪れた人は忘れられない、良さが光るまちになっており、それによってシビックプライドが醸成される。

「富山市の施策には、電車などのハードウェアや孫とお出かけ事業のようなソフトウェアに加え、花Tramモデル事業など、人のハートに響く『ハートウェア』も含まれています。ほとんどの施策が一石二鳥、三鳥、四鳥となっており、非常に良いシンクロ構造ができています。同時に持続可能な開発目標(SDGs)のすべての目標に関し、先駆的な取り組みをしていると言えます」(笹谷氏)

無理ないコンパクトシティで
他の都市のロールモデルに

2012年のOECD報告書で取り上げられた他の4都市と比べると、富山市のコンパクトシティ政策では、中核が1つではなく、複数あるのが特徴だ。欧米型のコンパクトシティでは、中心部に古くからの市街地があり、周囲は郊外になるというのが典型的だ。一方、富山市では市町村合併が行われたこともあり、元々、中心となる地域が複数存在する。

そこで富山市のコンパクトシティづくりでは、13の地域を居住推進地域に指定し、それらの地域を有機的に結びつける施策が進められてきた。また、すべての住民ではなく、住民の約42%程度がそれらの地域に居住することを目指しているのも特徴だ。

この点について東京大学工学部・都市デザイン研究室助教の永野真義氏は、「全員が居住推進地域に住みましょうとか車をやめましょうという極端な話ではなく、皆が受け入れやすく、痛みを伴い過ぎない政策だと思う。多様性を前提にした姿勢が市民にとっても魅力的なのではないか」と述べた。

永野真義 東京大学工学部都市デザイン研究室 助教

また、事業構想大学院大学学長の田中里沙は「富山市は交通の便が良く、市民にも外から来る人にも優しい、きれいなまちというイメージがある。無理のないコンパクトシティ政策というところが、素晴らしい」と評価した。

「『楽しい、おいしい、お洒落』がなければ人は回遊せず、また、それだけでも駄目なので、他の部分でも工夫が必要」というのが森雅志・富山市長の考え方だ。市では今後も公共交通の整備に加え、人々が行きたくなる、そして行く必要がある施設をさらに充実させていく方針だ。

田中里沙 事業構想大学院大学 学長

 

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