2018年10月号

環境会議

多様なアクターの連携で 包括的な貧困削減へ

徳田 香子(国連本部 人間の安全保障ユニット プログラム・マネジメント・オフィサー)

0
​ ​ ​

貧困・飢餓そして衛生的な水の不足という問題は、持続可能な開発目標(SDGs)の前身であるミレニアム開発目標(MDGs)から通底する最重要課題である。

現在も続く課題の深刻さに鑑み、国連人間の安全保障ユニットは、マルチステークホルダーでのパートナーシップ促進を通じた食料安全保障に関わる施策を展開している。

最重要課題を軸にSDGsを達成するには、どのような連携が必要なのか。

ハイレベル政治フォーラム2018のハイライトとともに今後のSDGsの達成促進に向けた展望を聞いた。

徳田 香子(国連本部 人間の安全保障ユニット プログラム・マネジメント・オフィサー)

 

 

――ハイレベル政治フォーラム2018の要点を教えてください。

SDGsの進捗を正しく測るデータの必要性や人びとのマインドセットの転換を求める声が多く挙がったことが印象的でした。国連開発計画(UNDP)親善大使の女優ミシェル・ヨーは「ファッションはあなたの選択。私たちの選択次第で世界は変えられる」と演説し、環境や児童労働といった世界の課題に配慮した消費行動の重要性を訴えました。SDGsは敷居が高いと思われがちですが、特に日本ではSDGsに関わる楽しみがたくさんあるように思います。よしもとお笑いライブで笑ったり、日焼け止めとして資生堂のアネッサを選んだり、ミスチルのライブでタオルを買ったり、会社でサラヤのハンドソープを導入することからSDGsに貢献しています。SDGsの魅力は、子どもも大人も毎日の生活に取り入れることができる点だと再認識しました。

――飢餓と貧困を対象とするSDGs1・2は、国連本部人間の安全保障ユニットにおいて、どのような重要度を持って位置づけられているのでしょうか。

これまでもこれからも、貧困と飢餓の削減は最優先課題です。ただし、お財布とお腹が満たされていても、差別を受けていたり、戦争や暴力に怯える人びとを置き去りにすることは、人道的観点からだけでなく、テロや紛争の予防の観点からも看過すべきではありません。当ユニットは、国連の三本柱である平和・開発・人権に関わる包括的な視野をもって、貧困と飢餓の根本的な原因を突き止め、相互に絡み合う17のSDGsを連鎖的に解決していくアプローチの導出と、実施の支援をしています。

 

――貴ユニットが運営する国連本部人間の安全保障基金(UNTFHS)は、複数の国連機関による共同プロジェクトのみを支援していますが、その理由を教えてください。

貧困と飢餓は、単一的なアプローチ、例えば、農業訓練だけで解決することは稀です。根源的な問題である不明瞭な土地所有や水をめぐる争い、農民間の不和、読み書き計算といった基本的な知識の不足に伴う農業資材の不適切な使用や販売価格交渉の失敗など、国・地域・コミュニティといった各レベルの課題を捉えて、複数の国連機関が知識を持ち寄り、プロジェクトを実施することが必要です。国連の各専門機関は、食糧、水、保健、環境、子ども、女性など、個々の目標に関する課題を解決するプロフェッショナルですが、課題の相互依存関係を紐解いたり、他の機関とともに中長期的なプロジェクトを計画し、人道援助・平和構築から開発および平和の持続に向けてスムーズに移行することに関しては、まだ試行錯誤の段階です。UNTFHSは、限られた資源の中で国連機関が協働し、効率的にSDGsの達成を支援すべきという国連改革を具現化するもので、その試みを牽引してきたのは、国境および領域を越える課題の重要性に早くから着目してきた日本政府です。

――SDGs1・2に対して、SDGs3から17は具体的にどのような影響を与えているのでしょうか。

MDGsとSDGsの大きな違いは、途上国だけでなく、先進国も同様に、目指すべき指標が示されていること、そして、それぞれの目標が連関していることです。SDGs3から17が欠如していればいるほど、一人ひとりの人生において、貧困と飢餓に陥る「罠」が多いことです。

例えば、今、私たちが自身や家族を食べさせることができるのは、なぜでしょうか。私たちが子どもの頃に栄養のある食事を頂き、適切な医療を受けたことで心も体も成長し、性別にかかわらず学校に通わせてもらい、論理的思考を養ったことで、今こうして対価をいただける仕事にありつけているからです。自然災害の多い日本で育った私たちは、水や電気、交通手段が途絶えて、学校や仕事に行けなくなった経験をしてきたため、それが決して当たり前のことではないと実感しています。

――包括的な貧困削減の具体的なスキームをお聞かせください。

先日、リベリアの国境付近に滞在し、同国で初めての試みとなった国連の共同プロジェクトを視察しました。同プロジェクトは、2011年に行われた大統領選挙の影響で暴力が激化したコートジボワールから、大量の難民がリベリアに流れ込んだことがきっかけで形成され、「難民やホストコミュニティではない」という理由で、国際社会からの支援を受けられずに置き去りにされた人びとを保護し、能力強化(エンパワーメント)するというものでした。女性や若者、子どもが直面していたのは、相互に絡み合う課題でした。土地の所有がはっきりしていないことから農地をめぐる争いが起き、男性が女性と働きたがらないことで農作業の効率が落ち、貧困と飢餓が深刻化していました。食料や水の不足に伴うストレスは、女性や子どもへの暴力を激化させ、HIV/エイズ罹患率が増していました。その悪循環を断ち切ろうと、UNICEF/UNFPA/UN Womenは、水や保健サービスへのアクセスを確保するだけでなく、ピース・ハットという女性の自衛サークルを立ち上げ、近所の揉め事の予防や和解、人権や保健、衛生、HIV/エイズに関する知識を広めましたが、暴力被害者の駆け込み寺の役割を担い、彼らを病院に搬送したり、安全を確保するためには運転資金が必要でした。そこでFAOが、内戦の間に忘れ去られた伝統的知識や気候変動に適応した農業技術を伝授しました。その技術が彼女たちの家族や近隣住民、そして嫁ぎ先に広まることで、米や野菜の収穫量が増加し、男性たちは徐々に女性を仕事のパートナーとして認めるようになりました。

WFPは増加した収穫物を備蓄するための貯蔵庫の設置や貯金と投資を支援し、ILOは女性たちがマーケットに余剰作物を売りに行けるよう道路を整備しました。現在においても、一日に一回しか食べない農民は多くいますが、プロジェクト実施前は、特に5月から9月の雨季における貧困と飢餓は深刻でした。余剰作物や蜂蜜等の換金作物がとれるようになり、備蓄や市場での販売ができるようなったことで、貧困(SDG1)と飢餓(SDG2)が緩和しただけでなく、栄養状態が改善(SDG3)し、ピース・ハットは、暴力の予防と平和維持、そして人権保護とHIV/エイズの予防・対策に大きな役割を果たすようになりました。

ボトム・アップの活動だけでなく、トップ・ダウンのアプローチを組み合わせ、リベリアの中央および地方政府関係者に啓蒙活動を行ったことで、ピース・ハットが全国展開されています。

リベリアにおける国連の共同プロジェクトにより経済的に自立し、土地や水を巡る衝突を予防することでコミュニティの平和維持に貢献する女性たち。
写真提供:徳田香子

――「包括的な貧困削減」には、食のグローバル・バリューチェーン改善も重要であると思われます。何をどのように改善(変革)しようとする枠組みでしょうか。

UNTFHSが、UNIDOおよびロンドン・スクール・オブ・エコノミクスと試みているのが、グローバル企業を巻き込んだリベリア全体の食糧安全保障です。米作に向いた土地にもかかわらず、同国は大量の米をアジアから輸入しており、巨大な外国企業が従業員のために、安くて品質の安定した輸入米を大量に買い取っています。大規模な鉱山やプランテーションを安定的に運営するため、企業はその広大な敷地の中にいる人びとに対して手厚い社会保障を提供していますが、そのバリケードのすぐ横に住む人たちは、企業が使用する農薬や殺虫剤による汚染で飲料水を失い、生計手段である森林や農地に立ち入れなくなったといった問題を抱えています。そのストレスが暴力やネット上での中傷を引き起こし、大きな企業リスクになっています。企業の社会的責任(CSR)は限りがあるので、企業、近隣農民、政府そしてピース・ハット等の市民社会がウィンウィンを目指して対話する場を提供すること、農民が作る米の品質を企業が求めるレベルに至るまで向上することで、企業を農民の顧客とし、取引関係を築くこと等で、平和の持続と企業の経営リスク軽減を図ろうと試みています。当ユニットは、国や国連機関の垣根を越えて、そのベストプラクティスを共有し、広める支援をしています。

国連機関が共同でプロジェクトを行い、国連事務総長が推進する「一つの国連」を実行する国連本部人間の安全保障基金。日本政府が最大のドナー。
写真提供:徳田香子

* 本インタビューの内容は個人的な見解であり、所属機関の見解を代表するものではない。

※1 吉本興業は、2017年から国連広報センターと連携し、SDGsを推進。

※2 国連開発計画(UNDP)は、資生堂によるバングラデシュにおけるソーシャル・ビジネスを「ビジネス行動要請(Business Call to Action、BCtA)」に選出。同プロジェクトで開発された汗や水に触れると紫外線をブロックする膜が強くなる技術がアネッサに搭載された。

※3 小林武史とミスターチルドレンの櫻井和寿らが環境問題を身近に考えてもらう場として2005年に始めたap bank fesでは、BCtAに選出された伊藤忠商事とクルックが推進するプレオーガニックコットンで製造したグッズが販売された。

 

徳田 香子(とくだ・きょうこ)
国連本部 人間の安全保障ユニット プログラム・マネジメント・オフィサー

 

 

『環境会議2018年秋号』

『環境会議』は「環境知性を暮らしと仕事に生かす」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 地域特性でつくる日本型SDGs
特集2 自然資源の利活用で新事業を創出

(発売日:9月5日)

» この号を買う(Amazon)

0
​ ​ ​

バックナンバー

別冊「環境会議」2018年秋号

環境知性を暮らしと仕事に生かす

特集1 地域特性でつくる日本型SDGs

特集2 自然資源の利活用で新事業を創出

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら

最新情報をチェック。

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる