2018年2月号

地域×デザイン2018

宿泊者の7割は外国人 職人に弟子入りできる宿、人気の理由とは

山川 智嗣(建築家、コラレアルチザンジャパン代表)

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日本一の木彫りの町、富山県南砺市井波地区にオープンした職人に弟子入りできる宿「BED AND CRAFT」。空き家を活用して旅人と職人の新しい関係性を構築、まちを活性化するプロジェクトだ。

職人に弟子入りできる宿「BED AND CRAFT」。宿泊客の7割が外国人で、特にクリエイティブ職に就く人が多い Photo by Kosuke Mae

宿に泊まりながら工房に通い、職人から直接手ほどきを受けられることがBnC最大の特徴

富山県・南砺市には、約200人の木彫り職人が伝統技術を次代に継承している井波地区がある。その町に2016年9月、「BED AND CRAFT(以下BnC)」というゲストハウスがオープンした。コンセプトは、「職人に弟子入りできる宿」。宿泊客は、空き家を改修したゲストハウスに宿泊しながら、町にある職人の工房に通い、直接手ほどきを受けながらクラフトのワークショップを体験できる。

オープンから1年で1000人泊を達成。宿泊客の約7割が外国人で、その約6〜7割が欧米人の個人旅行客であり、映画監督やゲームデザイナー、インテリアデザイナーなどものづくりに携わる人たちが多いことが特徴だ。

もともと井波にあるものを上手に生かして町に賑わいを創出しているBnCだが、このゲストハウスを運営している建築家・山川智嗣さんは「最初はBnCの構想はなく、南砺市で猫と一緒に生活をするために空き家を購入しただけなのです」と笑う。

山川 智嗣(建築家、コラレアルチザンジャパン代表)

職人、古民家、町を生かすために

富山県富山市出身の山川さんは、南砺市に移住する前、中国・上海で働いていた。2011年に建築・インテリア・グラフィックデザインをトータルでコーディネートする「トモヤマカワデザイン」を立ち上げ、デザインの仕事に情熱を注いでいた。

上海でのものづくりは、テクノロジーよりも人の手が主役だ。そうした環境の中で「より人の生活に近いものづくりをしたい」という思いを募らせていた頃、日系企業とのつながりから「日本でも仕事をしないか」という誘いが増え、帰国を決意。向かった先は、ものづくりへの思いを実現できそうな南砺市だった。同市には親戚の家があり、幼少期によく遊びに来ていた思い出の地だったことも移住を後押しした。

奥さんと猫とともに暮らすアパートを探し始めたが、成り行きで知人から紹介された空き家を購入することになる。自宅となった古民家は、延床面積が約60坪と、1階だけですべてが事足りるほど大きい。2階の活用方法を考えていたとき、南砺市には空き家が多く存在していることを知る。「状態の良い空き家をリノベーションして誰かに貸すことができれば、新たな事業展開ができるかもしれません。空き家を壊すという選択も減らせるのではないかと思いました」

当初は、空き家問題に対する地域へのプレゼンテーションのつもりだったが、誰かに貸す、つまり誰かに宿として場を提供するにしても、井波は交通インフラが不便な地であるため、一般的な宿泊施設では人が来る見込みは少ない。

「魅力的な宿泊施設にするには、地元の伝統工芸職人と空き家をうまく合わせたらいいのではないか」とひらめいた山川さんは、いろいろな職人に会い始める。

そこで知り合ったのが、木彫刻作家の田中孝明さん、漆芸家の田中早苗さんのご夫婦。2人の作品に感銘を受けた山川さんは、「2人を多くの人たちに知ってもらえれば、職人に憧れる若者が井波に集まってきて本格的に弟子入りをするという好循環を生み出せると思いました」と話す。

空き家問題から人と職人をつなぐ場、そして技術を継承する場として、山川さんのアイデアは広がりを見せていく。その考えに賛同した地元工務店の山秀木材や前述の田中孝明さんとともに自宅をリノベーションして、2階をBnCとして開放した。

BnCは素泊まりのため、宿泊客はおのずと周辺のレストランや居酒屋を回遊。地域全体が利益得られる Photo by Kosuke Mae

宿泊者と飲食店の言葉の壁を取り払うために、多言語アプリを開発

回遊を促し、町の賑わいを創出

今、BnCのゲストハウスは全3棟。「ONEゲストハウス+ONE職人」をコンセプトに、ゲストハウス1棟につきメイン作家を1人迎え、宿泊者だけが楽しめる作品づくりを行っている。

「作家の方には、リノベーションの工事段階から関わってもらい、一緒にアイデアを出し合いながら空間デザインを決めていきます。そして、その空間からインスピレーションを受けたものを自由に作ってもらっています」

ゲストハウスに泊まった客は、その翌日に職人の工房に行き3時間のワークショップを行う。ワークショップの職人は田中孝明さん、田中早苗さん、仏師の石原良定さんの3名で、それぞれの内容は木彫りのスプーン、漆の箸、木彫りの豆皿。宿泊客は、3種類の中からwebでの予約時に好きなコースを選べる。

「実際に自分も木彫りのスプーンを作りましたが、すごく難しくて全然うまく作れませんでした。だからこそ、体験後に作家の作品の価値に気付くことができます。ファンになりますよ」

BnCは、地域経済の活性化にも貢献している。ゲストハウスは素泊まりで食事は一切提供していないため、宿泊客はおのずと周辺のレストランや居酒屋などへ赴くことになる。

山川さんは、宿泊客と飲食店が互いに言葉の壁を乗り越えるために、日本語・英語・中国語に対応した公式アプリを作成。このアプリをダウンロードすれば、自分の好きな店を選び、自分の足で歩いて行ける。メニューの画像を見せて注文することもできるため、意思疎通がスムーズに行える。今ではアプリへの登録を求める飲食店が増えているようだ。

2018年にオープンする中長期滞在向けのバケーションレンタル「BnC taë」は漆芸家の田中早苗氏をメイン作家に迎えた

作家の創作意欲を高める工夫
「マイ職人」と出会えるまちに

2018年1月には、中長期滞在向けのバケーションレンタルとして「BnC taë(ベッドアンドクラフト タエ)」がオープン。このゲストハウスも地域の方から空き家の相談を受けたことが誕生のきっかけだ。

寺社の石垣を借景とした施設内では、やわらかく丸みを帯びた漆の新たな魅力にふれられる。メイン作家を務める田中早苗さんは、「展示のために作品を作るのではなく、自由に表現できることが有り難いですね。旅人を優しく包み込むような気持ちをイメージして、あえて壁から浮き出ているような作品を作りました。作品が居心地の良さにつながるといいなと思います」と微笑む。

オープンに伴い、宿泊費の一部をメイン作家に還元する「マイギャラリー制度」を新たに導入するとともに、作品を販売できるように変更した。作家の創作意欲を高めつつ、宿泊客に常に新鮮な出会いを提供するためである。

職人、宿泊客、飲食店と、あらゆる人々のモチベーションを保ち続ける仕組みを取り入れながら進化していくゲストハウス。山川さんが目指す最終地点は何なのだろうか。

 「昔、この地域には子どもや孫が生まれたときに木彫りの天神様を贈るという文化がありました。家族代々お願いしていた職人さんがいたのだと思います。その文化を現代に変換して、海外に住んでいる人のマイ職人(お抱え職人)が南砺市井波にいるという文化を作っていきたいです」

宿泊客と職人との新たな関係性を創造していく山川さんの旅は、私たちに初めての世界を見せてくれるかもしれない。

 

山川 智嗣(やまかわ・ともつぐ)
建築家、コラレアルチザンジャパン代表
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