2018年2月号

地域×デザイン2018

「被るだけ」で垣根を取り払う 青森発の馬頭オブジェ、ウマジン

安斉 将(イラストレーター、安斉研究所代表)

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青森県十和田市発のコミュニケーションツール「ウマジン」。ただ被るだけで笑顔になり、人と人の垣根が取り払われてしまう。ウマジンの生みの親、安斉将氏は「ウマジンの目指すところは世界平和」と語る。

安斉将 イラストレーター、安斉研究所代表

街なかに突然現れた、馬頭型オブジェを被った集団。何も語らず派手な動きもしない、ただいるだけなのに彼らの登場で見慣れた景色が白昼夢のように塗り替えられる。人々はスマートフォンを掲げ写真を撮り始める。「ウマジンだ」という囁きとともに――。

2012年に青森県十和田市で生まれた「ウマジン」。秋祭りの企画だったが、その後もイベントやワークショップなど年々活躍の場を広げている

十和田から元気を、ウマジン誕生

ウマジンとは、プラスチック製や紙製の段ボールで作った馬頭型のオブジェ。高さは84cm、組立や解体、カスタマイズが簡単で、主に人が被って使う。デザインしたのは青森県十和田市在住のイラストレーター、安斉将氏だ。

青森県十和田市は近年アートによるまちづくりが進められ、2008年の十和田市現代美術館の完成以降、アートサイトとしての知名度を上げてきた。美術館が面する通り沿いには草間彌生をはじめとした現代アーティストの作品が並び、周辺商店街と連携してさまざまな企画・イベントが催されるなど街全体で盛り上がりを見せている。

東京で雑誌や広告のイラストレーターとして活躍していた安斉氏が、十和田市へ移り住んだのは2010年のこと。妻の故郷であり、市がアートのまちづくりを推進していたことが移住の決め手となった。

十和田市現代美術館を中心にアートが市民に浸透している十和田市。こうした下地があったからこそウマジンが生まれ、親しまれていると安斉氏は分析するPhoto by re-kuma

「イラストレーターの仕事を続けながら、移住先ではこれまでの仕事とは違うアート寄りの活動をしてみたいと考えていました」。移住後は美術館でワークショップの講師を務めるなど市のプロジェクトにも携わりながら地域との関係を育んできた。

ウマジン誕生のきっかけは2012年、秋祭りで東日本大震災の義援金集めを行なうために青年会議所から企画を依頼されたことだった。東北全体に閉塞感が漂う時期、被害の少なかった十和田市だからこそ元気を発信できないかとメンバー達は考えた。

「かつて十和田市は日本有数の馬産地として知られており、地元の伝統芸能『南部駒踊り』では馬の形を模した衣装が使われています。これを現代風にしようという議論から、ウマジンのアイデアが生まれました」

ウマジンはプラスチック製や紙製の段ボールで作った馬頭型のオブジェ。高さは84cm。組立や解体、カスタマイズが簡単

馬産地とアートという十和田市の2つのアイデンティティ、伝統と革新が融合してウマジンは誕生した。出来上がったウマジンを被って仲間と街へ出かけ、その様子をフェイスブックにアップしたところ、不思議な存在感とシュールさで話題に。秋祭りのパレードではウマジンは先頭を歩き、以降2013年からの3年間は「ウマジン100人パレード」を行った。

飲食店でも、学校でも躍進するウマジン

ウマジンはビジュアルのインパクト、SNSでの話題性、参加しやすさといった特徴を持つ。地域おこしやイベント、子供向けワークショップなどと親和性が高く年々活躍の場を広げている。

「地域おこし団体と連携することが多いですね。例えば市内の飲食店にウマジンを置いて『ウマジンのある店』という企画を行いました。お酒とウマジンは相性がいい。あったら被りたくなるし、被ったら写真を撮ってSNSにアップしたくなりますよね」

ウマジンのワークショップは、作るだけでなく被って街を歩くパフォーマンスアートの性質を持っており、表現者としての体験ができる。

「市内の中学校では、ふるさと学習の一環でウマジンが採用されました。地元のことを修学旅行先の東京でアピールするのですが、生徒たちは東京へ向かう新幹線の中や停車駅のホームでウマジンを被って歩いたのだそうです。後から写真を見せてもらって驚きました」

誕生から6年、市民にはすっかり定着している。

「十和田市の方々はアートに対する理解が深く、ウマジンもすぐに受け入れてくれました。最近はウマジンで歩いていると『ご苦労様』と言われるほどです」

年齢も肩書も国籍も超え
コミュニケーションが生まれる

「ウマジンには仮面を着けた時のような効果があります。いつもの自分じゃないような特殊な精神状態で、普段見ている世界が違って見えます」と安斉氏は楽しそうに話す。

着ぐるみとは違い、ウマジンはあくまで『中の人』が主役であり、日常の感覚を少し曲げる手伝いをするのだという。大人と子ども、仕事、役職などの垣根を取り払う力がある。初対面の人が集まる交流会でもウマジンが置いてあれば誰かが被る。するとその場にある種の連帯感が生まれ、隣の人に手渡したり、写真を撮り合ったりと自然とコミュニケーションが発生するそうだ。

「ウマジンの目指すところは世界平和。ウマジンになってしまえば皆平等で、年齢も肩書きも国籍も関係ない。あれを被って難しい話なんてできないですから。こういう視点もあるんだなと一人ひとりが気づいてキャッチし、アンテナを増やすきっかけになるツールだと思います」

なぜウマジンは、単発のイベント用ツールで終わらず、これほど十和田市民に受け入れられたのだろうか。

「ウマジンは地域の気質とタイミングが合わさって生まれたのだと思います。十和田市の場合、特に美術館周辺では外から来たものを受け入れる体制ができていて、人と繋がろうとする意欲が高いと感じます」

変わった活動や変わった人を後押しできる地域かどうか。これは地域活性化の重要なポイントであり、今の十和田市にはそれができている。

例えば商店街のお茶屋「松本茶舗」では、店主の松本柳太郎氏と安斉研究所の主催で、月に一度「シャベリバ屋台」が開かれる。店の前に置かれた屋台に料理を持ち寄る飲み会で、移住者や通りすがりの人まで誰でも参加でき、ざっくばらんに語らう。地域住民と外から来た人が混ざり合う開かれた交流の場は、アイデアやプロジェクトが生まれやすい環境と言えるのではないだろうか。

市外でも増殖、目指すは世界平和

十和田市内はもちろん、県内全域、そして全国に増殖するウマジン

ウマジンが活動を続ける中、交流を持った他の町から新たな「○○ジン」が登場し始めた。白鳥の飛来地である平内町では「トリジン」、大鰐町では「ワニジン」、イカが名物の八戸市白金町では「イカジン」と言う具合である。

「平内町から『トリジンを作りたい』と打診があったときは、デザイン料を町の名物であるホタテで払っていただく『うまいもの契約』を結びました」。報酬が県内各地の美味しいものだったらいいなと考えた安斉氏の遊び心であり、ウマジンと各地域との信頼関係が伺える。

「理想としてはこちらが何かを仕掛けるより、自然発生的に勝手に広まってくれればいいと思っています。すでに秋田や淡路島、四国にもウマジンがいます。今後の野望としては、各地の○○ジンを集めてジンサミットを開催したいですね。ウマジンの目指すところは世界平和ですから、海外進出も視野に入れています。どの国でも暮らしの中に馬はいますので、例えばモンゴルに持って行って乗馬してみるとか」

ウマジンの増殖は止まらない。平和の使者ウマジンが世界を席巻する頃には、当然我々もウマジンになってしまっているのだろう。

安斉 将(あんざい・まさる)
イラストレーター、安斉研究所代表
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