流通を社会や環境に最適な「エコプラットフォーム」に

オフィス用品通販No.1のアスクルは、持続可能な社会の実現に向けて、事業活動の基盤となっている流通プラットフォームを「エコプラットフォーム」に進化させようとしている。気候変動対策をビジネスや発展の機会として捉える企業ネットワーク「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)」のメンバーでもある、流通の様々な段階で、温室効果ガス削減や環境に配慮した取り組みを進めている。

東南アジアで森林保全
本業通じて課題解決目指す

今ある森を守り、壊れた森を直すことを目的とする「20ha project」を実施する。

アスクルは1993年にプラス株式会社アスクル事業部として、オフィス用品のカタログ通販サービスを開始。1997年には分社独立してアスクル株式会社としてスタートした。インターネットによる受注は1997年に手がけるなど先進的な取り組みを進めてきた。2012年には、かねてから展開していた個人向けインターネット通販サービスを、ヤフー株式会社との提携により「LOHACO(Lotsof Happy Communities)」として新たに開始している。

「お客様のひとつのご注文、1回のお届けにかかる環境負荷を最少化していく」という考え方のもと、事業活動の基盤である流通プラットフォームを「最も効率的で、環境に配慮した流通プラットフォーム(=エコプラットフォーム)」に進化させることを宣言している。この「エコプラットフォーム」の実現に向けて、環境方針や2020年をターゲットとした「環境長期目標」を定め、「低炭素」「資源消費」「グリーン購入」という3つの重点分野を中心に取り組みを進めている。

「私たちは社会の中間流通に当たる部分に位置し、スイッチング・ボードのように変換できる機能を持っています」とアスクルの岩田彰一郎社長は考えている。

「例えば、国内で最も多くのコピー用紙を販売していることから、持続可能な方法で供給される原材料を使った製品を扱い、熱帯雨林を守るという責任が出てきます。このため問題意識を持って、原材料調達からお客様にお届けするまでのプロセス全体の管理に努めています」

アスクルでは、2004年に紙製品の調達方針を制定し、コピー用紙から適用を始めた。またトレーサビリティ調査も同年に開始し、現在も継続している。アスクルが販売しているインドネシア製のコピー用紙では、A4サイズ5000枚を作るために、原材料となるアカシヤやユーカリの木が1本必要となる。そこで、2010年にはコピー用紙1箱に対し、2本の植林を確認していく「1 box for 2 trees」のプロジェクトをインドネシアで開始した。このプロジェクトによって、2014年6月までに6830万本の植林が確認されている。

インドネシアではさらに、現地のカウンターパートである製紙メーカーのサポートを得て、植林だけでなく、今ある森を守り、壊れた森を直すことを目的とする「20haproject」も実施してきた。このプロジェクトでは、地方政府や現地の環境NGO、地域コミュニティと共に、国連教育科学文化機関(UNESCO)によって認定された地域で人間と保護地域の共存共栄を支援している。そして、2013年9月からは、ベトナム・ディエンビエン省の森づくり(REDD+実証活動プロジェクト)に参画し、国際協力機構(JICA)や住友林業、ヤンマーと共に、森林の減少や劣化を防ぎ、CO2排出量を削減することで気候変動を緩和する取り組み(REDD+)を進めている。

グリーン商品リスト掲載品のマーク

「コピー用紙の場合、アスクルの流通プラットフォームの上流のインドネシアでは、森林や生物多様性の喪失といった環境問題や貧困、人権の問題など、対処すべき様々な課題があります。さらに、トレーサビリティの確保、化学物質の管理、品質保証など、流通のプロセス全体を社会にとって良いものにしていくことが求められています」

商品の配送段階における環境に配慮した取り組みの例としては、2009年に始めた「ECO-TURN配送」が挙げられる。「ECO-TURN配送」では、顧客に再利用可能なリターナブルバッグ(通い袋)や折りたたみコンテナ(通い箱)によって商品を届け、後日、アスクルが回収し、再び商品の配送に使用している。

岩田社長によれば、「様々な社会的課題の解決に向けた活動は、プラスアルファで行うのではなく、本業を通じて行っていくのがアスクルのポリシー」だ。

岩田 彰一郎 アスクル 取締役社長 CEO

個人向けの「LOHACO」で働く女性や高齢者を顧客に

アスクルがヤフーとの提携によって2012年にスタートさせた個人向けインターネット通販サービス「LOHACO」は、「第2世代のEコマース(電子商取引)No.1」を目指している。第1世代のEコマースは、嗜好品をインターネットで購入するという購買スタイルの新しさによって普及してきた。一方、「LOHACO」は特に、働く女性や高齢者を顧客として想定し、家庭で必要なあらゆる商品「日用品」が購入できる日常の利便性を提供する。

2014年2月には、市場に広がる膨大なデータ(ビッグデータ)の活用による新たな電子商取引マーケティングの迅速な実践を目指し、サプライヤーと共に「LOHACOEC マーケティングラボ」も設置した。アスクルでは、これらの取り組みによってEコマースの普及による効率的な社会システムの実現や、生活者の日常をより豊かにすることを目指している。

「これまでのEコマースは、安い価格の商品を探して購入する場で、ある種のデフレ・マシーンのようになっていました。しかし、これでは社会が豊かになり、皆が幸せになることはありません。商品を一生懸命作っている人たちの想いや商品の価値をしっかりお客様に伝えていくことも、Eコマースの大きな役割だと思います」

LOHACOでは、例えば、トキが生息できる環境を維持するために、新潟県の佐渡で作られている無農薬栽培の米を紹介している。ウェブサイトでは、多数の写真や映像を取り入れ、佐渡の美しい自然や生産者の想い、無農薬栽培での努力を伝えている。また、消費者がこの米を購入すれば、売り上げの一部が「佐渡市トキ保護募金」に寄付されることになっている。

「1 box for 2 trees」はコピー用紙1箱に対し、2本の植林をしていく取り組み。

革新による社会的課題の解決は企業の本質的な役割

アスクルは、気候変動対策に取り組む企業ネットワーク、Japan-CLPのメンバーでもある。Japan-CLPは、持続可能な低炭素社会への移行で先陣を切ることを自社のビジネスや発展の機会として捉える企業によって、2009年に設立された。メンバー企業と政策立案者、産業界、市民などとの対話の場を設け、日本やアジアを中心に地球温暖化対策の推進や低炭素社会の実現に向けた活動を展開している。

経済同友会の社会的責任経営委員会で2度にわたって委員長も務めた岩田社長は、「気候は確実に大きく変化していますが、日々の生活の中では『今日は暖かい、今日は寒い』といった日常的な差異に消され、大きな痛みとして感じることはなかなかできません。経済界でも気候変動がどれだけ深刻なものであるかをしっかり理解している方々は、まだ少ないと思います」と指摘する。

岩田社長は気候変動対策について、企業活動のベースに置き、継続的かつ骨太な対応をしていくことが必要と考える。そのような姿勢で取り組まなければ、「経済活動どころか、地球や人間の生活自体が崩れてしまいます」と懸念している。

その一方で、「企業の本質的な役割は、社会的課題をいかにイノベーションによって解決するかであり、それによって新たな事業の機会も生み出されます。国や個人にできることもありますが、企業は組織としての対応が速く、できることも大きいので力があります」と企業の役割に期待する。

そして、経営者に求められるのは、「企業家精神ある経営の実践」だ。「従来の企業は資本市場に対し、いかにきれいな姿を見せるかということに重きを置いていましたが、本当にそれだけで良いのかと、経営者が自ら議論すべきです」と話す。

経営者には、顧客をベースとした上で、「資本市場(株主)」、「従業員(雇用)」、「社会」という3つの価値に焦点を当て、これらの価値に自らの行動を照らし合わせる経営が求められている。3つの価値を重視した経営のバランスや全体像は、1つの鏡では映し切れないことから、これらを適切に映し出す「三面鏡」が必要となる。この「三面鏡経営」の実践が、気候変動をはじめ、地球規模の環境破壊が進行する時代の要請となっている。

商品の高さにあわせてケースの側面を折り畳み、外蓋で封函する自動梱包システム「I-Pack」を取り入れ、梱包資材の削減も行う。

岩田 彰一郎(いわた・しょういちろう)
アスクル 取締役社長 CEO

 

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