2015年7月号

環境会議

どんな地球を残すのか―今こそ世代間対話を

根本 かおる(国連広報センター 所長、国連広報センター所長)

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潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は1月8日、国連総会で193の加盟国に対し、2015年の優先課題について説明を行った。Photo by UN Photo/Eskinder Debebe

地球の将来を決める2015年

2015年は二度にわたる世界大戦の反省から国連が生まれて70年という節目の年です。それと同時に、この地球の将来を左右しかねない様々な枠組みについて合意しなければならない期限の年です。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は、1月8日、「2015年をグローバルな行動の年に」と強調しながら、今年の優先課題について国連加盟国に説明しました。事務総長を支える私たち国連事務局も、「2015-Time for Global Action」をスローガンにしています。

今年が最終年となる「ミレニアム開発目標」にかわる、2016年以降の新たな開発アジェンダは、途上国のみならず先進国にもあてはまる、尊厳や正義、地球といった課題にも果敢に取り組む内容を目指します。9月のニューヨークでの首脳級会合で採択することになっています。そして、11月30日からパリで開かれる国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)では、京都議定書にかわる温室効果ガス削減の新たな法的枠組みについて合意することを目指しています。3月に仙台で行われる第3回国連防災世界会議から、7月の開発資金国際会議、9月の首脳級会合、そして年末のCOP21に至るまで、今年びっしりと予定されている重要国際会議は、いずれも相互に関連する持続可能な開発という課題に取り組むものです。防災、開発アジェンダ、気候変動という地球規模課題が今年はニュースで頻繁に取り上げられると思われますが、すべて密接不可分のものとしてとらえていただければと思います。

世界中で頻発する異常気象に「2050年の気象情報」

見回してみると、気候変動が一因と見られる異常気象が、日本のみならず世界中で頻発しています。昨年も関東甲信の記録的な大雪に始まり、夏は広島の豪雨による土砂災害など、記録続きの年でした。国連の世界気象機関によれば、2014年は観測史上最も気温の高い年でもありました。国民にとって「近い」存在にあたる気象予報士の力を借りて、気候変動のリスクを人々に自分事として感じてもらおうと、昨年9月の国連気候サミットにあわせて、国連は「2050年の気象情報」キャンペーンを行いました。日本、アメリカ、ドイツ、アイスランド、ブラジル、フィリピン、ザンビア、南アフリカなど13 カ国から気象キャスターが参加し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告に基づきながら、もし今のままで二酸化炭素が排出された場合、2050年にはそれぞれの地域がどのような気象になるのかを予報してもらったのです。

日本から参加したのは、NHK「ニュースウオッチ9」の井田寛子気象キャスター。井田さんが伝える2050年の気象は、「熱中症などの暑さの影響で亡くなる人が急増。猛烈な台風による10メートルにも及ぶ高潮の発生。クリスマスに見頃を迎える京都の紅葉。さらに沖縄の美しいサンゴの姿がいずれ見られなくなる」などと、あらためて突きつけられると耳をふさぎたくなるような厳しい状況ばかりでした。

「近年の気象の異変、予報の難しさは各国のキャスターも同様に感じていて、どうしたら人々を災害から救えるのか、その難しさに悩んでいました。すでに極端な気象現象は始まっていて、発展途上国は食料問題や感染症に直面しています。今後さらに影響が拡大することについて、どうすれば危機感を持ってもらえるのかを議論しました。私たち気象と気候の専門家は連携を深め、国民の皆さんに働きかける義務があるということ。そして、先進国、発展途上国とも国をまたいで行動していく時代にきているのだと感じました」。

国連気候サミットにあわせて開かれた気象と気候の専門家らによるワークショップにも参加した井田さんは、キャンペーンに関わった経験を振り返り、このように国連広報センターの私たちに語ってくださいました。

昨年9月に国連本部で開催された気候サミットでは、世界の気象キャスターが行う「2050年の気象情報」も大きな注目を集めた。井田寛子キャスター(中央)をはじめ、参加した気象キャスターらがワークショップを行った。(「2050年の気象予報」キャンペーン

国際公共財の地球環境を守る

地球環境は、世界中の人々全員の「国際公共財」です。世界中の人々が享受する権利を持つと同時に、それを守る義務を負います。私たちが今のままの生活を続けていけば、地球温暖化により世界で深刻な被害が起こるリスクが高まり、その結果、飲料水、食料生産、健康、環境など、生活の基盤がことごとく脅かされることになります。そのしわ寄せは脆弱な国々にほど集まり、ツバルやキリバスといった小さな島嶼途上国は、自分たちが排出する二酸化炭素は少量でも、温暖化の被害に直撃され、国の存亡がかかっています。一昨年11月にフィリピンを襲った台風30号(ハイヤン)も、ここまで巨大化した背景には気候変動もあると見られています。

コロンビア大学のジェフリー・サックス教授を中心に主要排出15カ国の研究チームが参加するDeep Decarbonization Pathways Project(DDPP)の2014年報告書によれば、現在、一人当たり二酸化炭素排出量は、世界全体で見るとおよそ4・4トンですが、日本は9・3トン、アメリカは16・9トン。報告書は、産業革命前に比べて、世界の平均気温上昇を摂氏2度未満に抑えるという目標を達成するためには、2050年度時点で一人あたり二酸化炭素排出量を1・6トンに削減する必要があると主張しています。

気候変動は「生存の問題」

一昨年11月にフィリピンを襲った台風30号(ハイヤン)は甚大な被害をもたらした。Photo by UN Photo/Evan Schneider

温暖化を防止するためには、個人の善意や、暮らしの中の省エネなどの、自主的な取り組みに頼るだけでは不十分です。温室効果ガスの排出を大幅に削減するためには、社会の中に「炭素を排出するにはお金がかかる」という、経済的な仕組みを作り、低炭素社会に転換することが不可欠でしょう。世界全体のエネルギー供給の方法を、根本的に変革する必要があります。エネルギーの効率を飛躍的に高め、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーの供給を、世界各国で大幅に増加しなければならないのです。このことは、気候変動問題担当の国連ピース・メッセンジャーに任命されたレオナルド・ディカプリオ氏が、昨年9月の国連気候サミットでの演説で鮮明に語っています。

「この問題は、電球を替えよう、ハイブリッド車を買おうと呼びかけるようなものではありません。この危機は、個人の選択をはるかに越えるまで大きくなっているのです。世界の産業界、政府がスケールのより大きな行動を取るということです。今こそ行動を起こす時なのです。私たちは二酸化炭素排出に課金する必要があります。そして、精錬、石炭、ガス会社に対しての補助金を停止する必要があります。(中略)生態系が破壊されれば、経済も死んでしまうのです。良い知らせは、再生可能エネルギーは達成可能であるばかりではなく、効果的な経済対策でもあります。(中略)きれいな空気、生存可能な気候は譲ることのできない人権なのです。気候変動の解決は政治的問題ではありません。私たち自身の生存の問題なのです」

パリCOP21に向けた各国目標

パリでのCOP21という枠組みを決定する会議を控えた、昨年12月のペルーの首都リマでのCOP20。

気候変動問題担当の国連ピース・メッセンジャーに任命されたレオナルド・ディカプリオ氏。気候サミットでは総会議場の演壇から、世界各国のリーダーに向け、「今こそ行動を起こす時」と呼びかけた。 Photo by UN Photo/Cia Pak

会議直前に、EUに続いてアメリカと中国がそれぞれ、2020年以降の気候変動対策を発表したことで期待が高まりましたが、交渉は会期を延長するほどに厳しいものでした。

UNFCCC事務局のクリスティアーナ・フィゲレス事務局長は、2週間の会議が実際のところ「大いに難航」したことを認めつつ、「森林や教育に関する行動とともに、適応の規模拡大と資金確保のあり方を含め、幅広い重要な決定に合意が見られ、行動アジェンダが発足した」として、会議の成果を強調しました。潘基文事務総長は、リマ合意で、各国が自主的に決定する行動計画、いわゆる「約束草案」を策定、提出する必要性の明確化と、被害と損害に関するメカニズムの制度的体系の最終的なとりまとめにおいて、重要な前進が見られたとして、各国代表団を称えています。

リマでまがりなりにも国別目標案に含むべき情報が決まったことを受けて、今年3月までの目標案提出が促されており、各国とも、いよいよ国別目標案の準備を本格化することになります。既に目標を発表しているアメリカ、中国、EUは、それらを正式に提出する国内手続きに入るでしょう。

11月1日までに条約事務局が各国の目標案をまとめ、足し合わせた削減目標が世界全体の温暖化防止にどのような効果を持つかについて、統合報告書を準備することになります。

日本の人々の意識の低さ

翻って、日本。世界第5位の二酸化炭素排出国である日本は、2020年以降の国別削減目標をまだ公表していません。2020年までの排出削減についても、「25パーセント削減」から「3・1パーセント増加」に目標を後退させてしまっています。リマ会議2日目には、日本政府は、その日の議論で温暖化対策に後ろ向きな国を批判するために市民社会が贈る「本日の化石賞」を受賞しました。日本が気候変動対策支援の名のもと、途上国で二酸化炭素の大排出源となる石炭火力発電所の建設を支援している、として非難されたものです。

国連事務局や様々な国連機関が発信する気候変動に関する様々なニュースに日々触れていて感じるのは、安易に一般化して捉えることは避けたいとは思いますが、気候変動によって甚大な被害を受けている国々や議論を牽引する様々なアクターたちと、日本の人々の意識との間に、大きな温度差があるのではないか、ということです。

みずほ情報総研は、熱波や洪水の増加など、地球温暖化の悪影響に備える意識を持っている人の割合は、ロンドン、上海、ムンバイ、ニューヨーク、そして東京の世界5都市中、東京が最下位で、顕著に低かった、という調査結果を今年はじめ、発表しました。温暖化の影響に対し、自分が備えておこうと「考えている」と回答した人は、ムンバイ81パーセント、上海55パーセント、ニューヨーク54パーセント、ロンドン48パーセント、そして東京は30パーセントで最も低く、意識の差が明確に表れています。

京都議定書が採択された国でありながら、東日本大震災を境に、日本では温暖化対策に関して世の中の関心が薄らいでいるのではないでしょうか。だからこそ、私たち国連広報センターがより積極的に日本の方々にこの課題をめぐる世界の動きや最先端の議論についてお伝えすることが、一層重要だとも言えます。

気候変動は大きな経済リスク

効果的な対策を取れば、将来世代への被害を防ぐことになりますが、負担と効果が現れるまでに時間差があることから、目の前の負担と将来的なメリットと、どのように世代間でバランスを取るのか、という問題があります。だからこそ、より多くの若い方々に、真剣にこの問題を考えていただきたいし、声を上げていただきたい。

イギリスの経済学者であるニコラス・スターン教授が2006年に発表した「スターン・レビュー」では、温暖化対策を講じなかった場合の気候変動のリスクとコストの総額は、現在および将来における世界各年のGDPの少なくとも5パーセントに値し、より広範囲のリスクや影響を考慮に入れれば、損失額はGDPの20パーセントもしくはそれ以上に達する可能性がある、としています。

これに対して、早急に対策を講じた場合の費用は、世界のGDPの1パーセント程度で済む、と主張しています。スターン教授は、次のようにも指摘しています。すなわち、ここ10〜20年間における投資が21世紀後半と22世紀の気候を大きく左右し、現在およびこの先数十年間における人間の活動が、経済と社会的行動に大混乱をもたらし得るが、そのスケールは、2つの大戦および20世紀前半の世界恐慌に匹敵し、いったん起きた変化を元に戻すことは、非常に困難もしくは不可能だ、という警告です。

ラスト・チャンス

IPCCは昨年11月、第5次評価報告書の完結編として、7年ぶりに統合報告書を発表しましたが、IPCCのラジェンドラ・パチャウリ議長は、「気候変動は取り返しのつかない危険な影響を及ぼすおそれがある」と警告する一方で、その影響を抑える選択肢も残されていることを強調しました。「温暖化を2度以内に抑えるチャンスが潰えるまで、残された時間はほとんどありません。

対応可能な費用で、温暖化を2度以内に抑えられる可能性を十分に保つためには、2010年から2050年までに全世界の排出量を40〜70パーセント減少させるとともに、これを2100年までにゼロとすべきです。私たちにはそのチャンスと、選択の余地が残されているのです」と。さて、あなたは、どんな地球を次の世代に残しますか?

昨年12月にペルーのリマで開かれたCOP20にて。潘事務総長の右隣はフィゲレスUNFCCC 事務局長。Photo by UN Photo/Mark Garten

根本 かおる(ねもと・かおる)
国連広報センター 所長

 

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