ネオンの輝きとともに観光客も失いつつある香港 景観保存と観光政策は成功するか

(※本記事は『Global Voices』に2024年8月22日付で掲載された記事を、規約に基づき翻訳・掲載しています)

香港・佐敦(ジョーダン)地区にあるレストラン「太平館」のネオンサイン。copyright : Chloe Sze
香港・ジョーダン地区にあるレストラン「太平館」のネオンサイン。copyright : Chloe Sze

香港では、2020年の国家安全維持法の施行、2024年の国家安全条例第23条の施行により、自由都市から権威主義的な規制下へと変貌を遂げた社会政治的な変化の渦中で、香港の遺産を守り、その理解を深めるための人々の願いが強まっている。多くの市民は優先事項を見直し、政治的エネルギーを都市の遺産や消えゆく文化の保護に向け始めている。


何十年もの間、香港のメインストリートは目を惹くカラフルなネオンサインの光に包まれていた。この香港特有の風景は、有名な香港映画監督ウォン・カーウァイ氏の映画『恋する惑星』(1994年)や『天使の涙』(1995年)だけでなく、『ブレードランナー』のような欧米の映画にも不朽のイメージとして刻まれている。

しかし、近年では安全規制の強化や、より安価なLED照明を好む店舗オーナーの選択によって、多くのネオンサインが撤去されている。

香港のネオンサインは近年、政府による規制強化の憂き目に遭っている。しかし、撤去されたネオンサインのすべてが失われたわけではない。
撤去された香港のネオンサインを収集する非営利団体、テトラ・ネオン・エクスチェンジのカルディン・チャン氏はHKFPの取材に対し、看板の撤去は増えていると語った。「看板の撤去頻度が加速しているように感じます」

戦後の繁栄期に英国統治下で築かれた、香港の象徴とも言えるネオンサインが徐々に消えゆく様子は、一部の人々にとってここ数年の社会政治的な変化を視覚的に映し出すものとして捉えられている。住民の政治的忠誠心やメディア、表現の自由への弾圧は、自由主義的価値観や多様な文化を損なっているように見て取れる。

現在、SNSなどで多くの人々が示すネオンサインの取り壊しに対する懐古的な感情が、それをよく表わしている。

「香港・湾仔の最後のネオンサイン。さらばピザバー、さらばネオン。」

また、多くの香港の人々にとって都市の活気が消えゆく悲しみは、ネオンの光が消えることによって最も象徴されている。この現象は、2022年の香港映画『燈火(ネオン)は消えず』で描かれている。

映画『燈火(ネオン)は消えず』トレーラー

この映画は、ネオンサイン職人の未亡人が夫の死後、その技を引き継ぐ姿を描いている。ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、監督のアナスタシア・ツァン氏は、多くの香港市民がネオンサインの撤去を深く気にかける理由を次のように説明している。

「香港の人々は非常に強い喪失感を抱いている。毎日、友人や親族が移住していく。毎日、自分の身体の一部が骨から引き剥がされているように感じる」

2019年の民主化デモに対する政府の弾圧とその後の自由の制約に続き、香港では大量の人々が国外に移住し、数十万人が英国、カナダ、オーストラリア、台湾などを新たな住処に選んだ。これに加え、パンデミックの影響で多くのビジネスが閉鎖され、観光業は依然として回復していない。そのため、喪失感が街に満ちているのは驚くべきことではない。

ネオンサインの景観を守る香港住民の努力

新しい高層ビル建設のために歴史的建造物が次々と取り壊される香港のような都市では、過去の遺産を保存することは至難の業だ。それでも、多くの人々がその努力を続けている。例えば2020年に設立された非営利団体Tetra Neon Exchangeは、政府によって撤去されようとしているネオンサインを「救出」し、収集している。香港フリープレスの2023年4月の記事によると、この団体は設立以来、約60基のネオンサインを収集している。また、廃棄されるネオンサインを収集するだけでなく、「Vital Signs」のような展示会も開催しており、一般に公開するために復活させたアイコニックな看板を展示している。

こういった香港の独特な都市景観の保存に対する関心の高まりは、ソーシャルメディア上でも見られる。20,000人以上のフォロワーを持つInstagramアカウント「@streetsignshk」は、香港の街頭サイン(ネオンに限らず)の保存や展示、撤去に関する情報を追跡し、その保存活動を支援している。また、「@singsimeihok(「都市美学」の意)」というアカウントでは、湿った市場の看板や古いエレベーターのボタンパネルなど、あらゆるものの写真を投稿し、簡潔なキャプションを添えている。アカウントの説明文「アートは私たちの街の至る所にある」が示すように、見落とされがちな街の一部を新たな視点で楽しむことが目的だ。

「6〜7年前に撮影された南昌の質屋(のネオンサイン)。」

ネオンの利用と「ナイトバイブ」キャンペーン

一方で香港政府は、観光客を再び呼び戻そうとする政策の中で、ネオンの魅力を再認識しはじめている。昨年、政府は「ナイトバイブ香港(香港夜繽紛、Night Vibes Hong Kong)」キャンペーンを開始し、夜市や論争を呼ぶアートインスタレーション、音楽イベントなどを通じて、夜の経済を活性化させる試みを行った。この際、屯門地区の夜市など複数の場所に巨大な仮設ネオンサインが設置され、訪問者が写真を撮れるようになっていた。特に、訪問者が写真を撮るために設置された大きな質屋の看板は印象的だった。

「夜の屯門にネオンサインの撮影スポットが設置された。一方で『取り壊してから保存しようとしても遅すぎる』と言う人々も」

合成写真のアート作品で社会風刺するソーシャルメディアアカウント「@Surrealhk」の投稿は、一連の政府のネオンライトに対する政策の矛盾を良く表していると言えるだろう。

「『ナイトバイブス香港』と言いながら、実際には残り少ないネオンサインを取り壊し続けている。例えば一昨日には美都餐室のネオンサインも取り壊された」
クロエ・シー
クロエ・シー(Chloe Sze)