【解説編】ライフ・キャリア・レインボーとは? "人生全体"を見渡すキャリア設計の理論

ライフ・キャリア・レインボーとは? "仕事以外の人生"も含めて考える視点
アメリカの経営学者でありキャリア研究者であるドナルド.E.スーパー(Donald E. Super)が提唱した「ライフ・キャリア・レインボー」は、キャリアを「職業」だけでなく、「人生全体における役割の重なり合い」として捉える理論です。「人は人生において複数の役割を、生涯を通じて果たしている」のです。この理論は、5つのライフステージ(時間軸)で、8つのライフロール(役割)が表現されているので、ご紹介します。
人生における5つのライフステージ(時間軸)
• 成長段階(0~14歳):家庭や学校生活で自分自身を知る期間、「仕事」に対する関心を高める時期。
• 探索段階(15~24歳):学校生活・家庭・仕事でトライ&エラーを繰り返し成長、探索をする時期。
• 確立段階(25~44歳):模索を続け、キャリアビジョンが明確になり、専門性を高める時期。
• 維持段階(45~64歳):これまでに得た経験や地位を守る時期。
• 下降段階(65歳以降):精神的、肉体的な衰えから引退する時期。
※図では円の外側に記載されている
人生における8つのライフロール(役割)
• 子ども(Child):自分の親に対してサポートや介護を行う役割
• 学生(Student):学校や教育機関での学びを通じて知識やスキルを習得する役割
• 余暇人(Leisure):趣味やレクリエーションを通じて余暇を楽しむ役割
• 市民(Citizen):地域社会やボランティア活動を通じて社会貢献する役割
• 労働者(Worker):仕事を通じて組織や社会に貢献する役割
• 家庭人(Homemaker):家事や家族のサポートを通じて家庭を支える役割
• 配偶者(Spouse):夫、妻、パートナーとしての役割
• 親(Parent):子どもの養育や教育を行う役割
※「年金受給者(公的年金を受けて生活をする役割)」や「自我(個人のアイデンティティ)」を役割に含める考え方もあります。

引用:文部科学省「高校生のライフプランニング」
ライフ・キャリア・レインボーの重要な特徴 役割の重要度は人それぞれ、時期によっても変化する
重要な視点の一つに、「人生における複数の役割(ライフロール)は、人によって重視の仕方が異なり、それは時間とともに変化していく」という考え方です。
同じ30代でも、「労働者」としての役割を最優先にする人もいれば、「親」としての役割に重点を置く人もいます。あるいは、40代前半までは仕事中心だった人が、40代後半になると「親」や「市民」としての関わりにより価値を見出すようになる、といった変化も珍しくありません。
今の自分にとって何が最も大切か、そのバランスを自ら見極めていくことが、キャリアデザインの核心になります。
人生に普遍的な「正解」はありません。あるのは、自分にとって納得できる「現在の答え」です。ライフ・キャリア・レインボーは、その答えを見つけるための視点を提供してくれる理論なのです。
ライフ・キャリア・レインボーへの批判的視点
ドナルド.E.スーパーが提唱した「ライフ・キャリア・レインボー」は、1950年代に登場したキャリア理論の一つです。先に述べたように、人のキャリアをライフステージや役割(ライフロール)の組み合わせとして捉え、生涯発達的な視点を提示したこの理論は、今なおキャリア支援の現場で広く参照されています。
しかし、その理論的枠組みには批判もあります。まず前提となっているのが、当時の白人中産階級のアメリカ人男性の人生観であるという点です。このため、提示されているライフステージやライフロールの構成が、必ずしもマイノリティや女性、非西洋文化圏の人々の生き方に合致しないという指摘がなされています。
また、この理論を用いる際に注意したいのは、枠組みに自分のキャリアを「当てはめる」ことが目的ではないということです。ライフ・キャリア・レインボーを唯一の“正解”と捉えてしまうと、かえって自分の視座を狭めたり、ある特定のライフロールに固執しすぎたりする危険があります。
私自身は、この理論を「キャリアを多面的に見直すためのヒント」として活用すべきだと考えています。理論の示す構造に自分を無理に合わせるのではなく、自分のキャリアの全体像や価値観に照らして、「見落としている視点はないか」「他の役割とのバランスはどうか」などを考えるための問いを立てるツールとして使うことが重要です。
理論を紹介すると、つい「こうあるべき」という方向に考えがちになります。しかし、そうした“べき論”に縛られすぎると、自分軸から他人軸へとキャリアの主導権が移ってしまいかねません。ライフ・キャリア・レインボーに限らず、すべての理論は自分のキャリアオーナーシップを強めるための道具として、柔軟に活用していく視点が求められるのではないでしょうか。
後編の【応用編】ではライフキャリアレインボーのさらに詳しい解説と活用法について解説します。
個別相談はこちらから受け付けています。リンク先の下段に申し込みフォームがあります。

- 酒井 信幸
- キャリアコンサルタント/社会構想大学院大学 事務局長 兼 先端教育研究所研究員
続きは無料会員登録後、ログインしてご覧いただけます。
-
記事本文残り0%