「人間味」で議論よぶ介護ロボット活用 デジタル時代のケアに必要な再定義とは

(※本記事は『THE CONVERSATION』に2024年7月17日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

90歳のあなたを想像してみてほしい。3人の孫を持つ祖母で、夫も高齢で体調が優れない。椅子から立ち上がることや、トイレに行くこと、服を着ること、食事をすること、薬を忘れずに服用することなど、ほとんどすべてにおいて助けが必要だ。寿命は延びたものの老いは優しくなく、夫や介護してくれる医療従事者に負担をかけていると感じている。

さて、これらのことを助けてくれるロボットが手に入ると想像してみてほしい。トイレへの移動から、医者の予約の管理まで支援してくれる。このロボットは高度な人工知能(AI)を備えており、あなたの好みを学び、誕生日を知り、名前を覚えている。素晴らしくないだろうか。配偶者にかける負担を感じることなく、介護者に頼ることなくシャワーを浴びることができるのだ。

こんな話はSF映画のように思えるかもしれないが、実際にはそれほど遠い未来の話ではない。日本では早くも2018年に、自宅で生活する高齢者の間で、人間の介護者よりもロボットの介護者を好むという調査結果が出ている。

日本の「超高齢化」社会では、高齢者の割合が世界で最も速く増加しており、労働力に大きな負担がかかっている。この問題に対処するために技術は進歩しているが、同時に世界で最も人数が多い医療職である看護師(介護士)にとっても問題を提起している。

ロボット介護士という存在は、人間的なつながりを伴うことが多い「ケア」という概念に基づく職種に対して、懸念を引き起こすのは当然かもしれない。

オーストラリアの最近の研究によると、看護学生に最新技術の活用方法を学ばせたところ、ケアから人間味が失われるという不安と懸念を生み出した。これに対し研究者は、看護師が「看護のアイデンティティを再定義する」覚悟が必要だと指摘し、「デジタル世界における介護のパラダイムシフト」を呼びかけた。

こうした緊張関係は、2024年4月にも明らかになった。病院でのAIの使用に数百人の米国の看護師が抗議したのだ。抗議者たちは、AIツールが未検証で規制されておらず、看護の実践において価値を損なうと主張している。

ある介護士は、「介護士はロボットに置き換えられるべきではない」と述べた。これは、今日の医療における根本的な問題を浮き彫りにする意見である。介護士には、デジタル時代における自分の役割に不安を抱いている人もいるということだ。

この不安が、患者の生活を改善できるはずのAIベースのツールやロボット技術に対して、一部の看護師・介護士が拒否反応を示す原因となっているようだ。こうした緊張が浮き彫りにする重要な問いは、デジタル時代における「ケア」とは何か?ということだ。

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