廃石膏を農業資源に転換 町工場アトツギが挑む循環型ビジネスと新事業創出
(※本記事は「関東経済産業局 公式note」に2026年4月7日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

関東経済産業局で毎月開催する記者会見(定例プレス・ブリーフィング)では、関東管内で活躍する企業にご登壇いただき、現在までのストーリーなどをお伺いしています。
令和8年3月23日には有限会社モールドモデルの佐藤賢副社長にご登壇いただき、廃石膏を活用した新事業やアトツギとして描く会社の未来について話していただきました。
廃石膏を活用した新事業のアイデアは、「第6回アトツギ甲子園」(中小企業庁主催、令和8年2月27日)で経済産業大臣賞を受賞しました。
石膏鋳造という、国内でも希少な技術
有限会社モールドモデルは、山梨県に拠点を置く製造業の企業です。
同社の中核技術は、「石膏鋳造」。石膏を型に用いることで、複雑で細かな形状を高精度で再現できる、国内でも担い手の少ないニッチな技術です。
一方で、この技術は大量の石膏を使用します。
使い終わった石膏は産業廃棄物として処分せざるを得ず、同社では毎日約1トン、年間で約240トンの石膏を廃棄してきました。
技術を残せないかもしれないという課題
課題は処分費の増加だけではありません。
廃棄物の受け入れ先が減少し、将来的には「捨てる場所がなくなる」という現実的なリスクがありました。
もし廃棄ができなくなれば、石膏鋳造そのものを続けられなくなってしまう。
「世界に誇れるこの技術を、どうすれば残せるのか」。
佐藤副社長が家業に入って強く感じたのが、この問題意識でした。
家業から一度離れ、戻ってきた理由
佐藤副社長は、物心ついた頃から工場のある環境で育ち、社員からも可愛がられてきたと語ります。
しかしその一方で、後継ぎであることは一旦考えず、自身がやりたい方向に進み、家業とは別の道である、金融の世界で仕事をしていました。
数字とリターンを追う仕事にやりがいは感じつつも、次第に「人間の営みから遠ざかっていく感覚」を覚えたといいます。
転機となったのは、祖母との別れでした。通夜の場に、多くの社員が足を運んでくれたことをきっかけに、「この人たちが家族と会社を支えてきてくれた」という事実を強く実感しました。
その経験が、家業に向き合う決意につながっていきます。
「受け継ぐだけでは、守れない」
現場に入り、日本の製造業が持つ技術力の高さを改めて実感する一方で、その技術を支える仕組みの持続可能性には課題があると感じたといいます。
石膏鋳造も、その一つでした。
毎日捨てていた石膏を、別の価値に変えられないか。
その問いからたどり着いたのが、廃石膏からカルシウムを抽出し、農業用の液体肥料として活用するというアイデアです。
廃石膏を液体肥料へ。新事業の中身
この新事業は、佐賀大学の技術シーズをベースに、廃石膏からカルシウムを抽出するものです。
カルシウムは、作物の生育において重要な要素であり、特に温暖化が進む中でその必要性が高まっています。
実際に、トマトやピーマンでは効果が実証されており、ぶどうでも費用を約1%上乗せすることで、収量が約5%増加する事例も確認されています。
ぶどうの主要生産地である山梨県では、最近の暑さで、ぶどうの実が割れる、しぼむといった影響が出ています。カルシウムは重要要素であり、廃石膏を活用した液体肥料を活用できないかと考えました。
これまで処分コストだったものを、
- 処分費の削減
- 液体肥料としての販売収益
という二つの価値を生み出す事業に転換させる挑戦です。
原料が廃棄物であるため、価格も既存製品のおよそ3分の1に抑えることが可能と考えています。
地域から全国、そして世界へ
その市場規模は、山梨県内のぶどう・もも市場だけでも約5億円、対象作物を全国に広げれば約630億円、さらに世界市場では約13兆円規模に広がる可能性があると、佐藤副社長は語ります。
今後は、液体肥料とドローン散布を組み合わせ、農業のスマート化にも貢献していく構想です。
肥料を入り口に、全国へ普及させていくことを目指しています。
石膏という素材を、再発明する
佐藤副社長が描く未来は、液体肥料にとどまりません。
この取組は、「石膏という素材を再発明するための第一歩」だと位置づけています。
まずは県内での実証、販売体制の整備、プラント構築を進め、その後は全国、さらには海外展開も視野に入れています。
製造業、建設業、農業がつながる、新しい循環を各地に広げていく構想です。
アトツギだからこそ、できること
佐藤副社長は、「アトツギの強みは、すでに地域に根を張っていること」だと語ります。
地域の企業が挑戦し、未来を変えていく姿が、同じ立場の後継者や地域の若者にとって希望になる。
「受け継ぐだけでは、守れない」。
受け継いだものから新しい価値を生み出し、地域から全国、そして世界へ。
モールドモデルの挑戦は、今まさにその途上にあります。
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- 関東経済産業局 公式note