【音声配信連動記事】経理「作業」からあらゆる人々を解放 TOKIUM・黒﨑賢一氏に聞く、経理AIエージェント企業への転換

月刊事業構想オンライン、月刊先端教育オンラインが音声配信するXスペース企画「進化する構想」。2026年6月22日の配信には、株式会社TOKIUM 代表取締役 黒﨑 賢一氏をゲストに迎え、創業から現在に至る事業構想の変遷と、経理AIエージェント企業への転換の内側を語ってもらった。

「お金の使い方は、生き方そのもの」

黒﨑氏が起業を決意したきっかけは、東日本大震災だった。あの震災を経て「お金をどう使うかは、その人の生き方を決めることだ」と感じ、その思いをサービスの着想へと結びつけた。

株式会社TOKIUM代表取締役の黒﨑 賢一氏(同社提供)

2012年6月26日、筑波大学在学中に株式会社BearTail(現・株式会社TOKIUM)を設立。翌2013年8月には一般消費者向けの家計簿アプリ「Dr.Wallet(ドクターウォレット)」をリリースし、個人のお金の流れを可視化するサービスからキャリアをスタートした。2016年には法人向けの経費精算クラウド「Dr.経費精算(現TOKIUM経費精算)」を世に出し、法人の支出管理領域へと軸足を移した。TOKIUMが掲げる志である「未来へつながる時を生む」には、より良い世界を志す人のための時間を生む存在でありたい、という想いが込められている。黒﨑氏はサービスの枠を超え、電気や水道のように「世代を超えて残るインフラ」としてTOKIUMを育てたいという。

8,000名のオペレーターと1,000社への手紙

「私たちがやってきたことはずっと変わりません。お客様の時間を生むために、業務の"作業"を丸ごと引き受けて納品する。そのためには泥臭いことでもいとわずやってきた」と黒﨑氏は言い切る。

その言葉を体現するエピソードがある。TOKIUMが導入企業に代わって請求書の受領とデータ化を担うには、請求書の送り主に、送付先の変更を依頼しなければならない。大手企業ともなれば取引先は1,000社、場合によっては10,000社に及ぶ。TOKIUMはその一社一社に、手紙やメールで変更を依頼してきた。経理AIエージェントの処理精度を最大限に引き出すには、AIが扱うデータが正確かつ漏れなく、基盤となるSaaSに揃っていなければならないからだ。「この泥臭い土台づくりをいとわない姿勢と、それを支えるオペレーション基盤こそが、TOKIUM最大の強みです」と黒﨑氏は話す。

事業拡大の過程で築いてきたのが、AIと8,000名のオペレーターが連携する独自のオペレーション基盤だ。AIの出力を人が確認して精度を高める「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の仕組みを採用し、ミスの許されない経理領域でも高い品質を担保する。こうして経費精算から請求書受領、契約管理など、幅広い領域で顧客の経理業務の代行を担ってきた。その結果、2026年5月末時点で、上場企業250社を含む累計3,000社に導入されている。

AIに渡す前に仕事を極小単位まで切り分け「マイクロタスク分解」

AIエージェント活用の核心として黒﨑氏が語るのが「マイクロタスク分解」だ。業務をそれ以上分割できないレベルの極小のタスクに分解し、「AIが担う領域」と「人間が担う領域」を明確に切り分ける手法で、著書『経理AIエージェント 「デジタル労働力」で仕事が回る』(クロスメディア・パブリッシング)にも詳述されている。AIに任せる判断基準はシンプルだ。例外のないタスクや、それ以上分けられないタスクをAIに割り当て、人間は判断を要する例外処理に集中する。正確なデータをAIに渡すための土台を丁寧に整えることこそが、精度の高い自動化を可能にする。この一貫した姿勢が、TOKIUMの強みの核心といえる。

「AI agentic BPO」への挑戦 3年後に50億円規模へ

2025年5月にTOKIUMは経理AIエージェントの提供開始を発表した。発表から2026年5月末時点までで、既に8つのAIエージェントをローンチし、280社で導入されている。これは単なるSaaSからAIエージェントへの転換ではないと黒﨑氏は強調する。「そもそも創業当初から、SaaSではなくAIエージェントを提供しているつもりでした」。SaaSはあくまで土台であり、TOKIUMが提供してきたのは"業務の成果"そのものだという。多くのSaaS企業がアカウント数に応じた月額課金で対価を得るのに対し、TOKIUMは従量課金制を採用し、処理した業務量=成果に応じて対価を得るモデルを築いてきた。AIの技術が進歩したことによって「これまで以上により高いレベルでお客様の業務を代行して、成果だけを納品する構想が現実になる」と感じたという。だからこそ、これまで以上の顧客体験を提供できると感じた時点で、全社一丸となってAIエージェント企業へと転換する意思決定がスムーズにできたという。

TOKIUMのAIエージェント概念図(同社提供)

次の一手として黒﨑氏が掲げるのが、2026年5月に発表した「AI agentic BPO」だ。クラウドサービスとAIエージェント、そしてBPO(業務プロセスアウトソーシング)を組み合わせ、顧客ごとに業務フローをカスタマイズしながら、経理業務そのものを丸ごと任せられる体制を整える。3年後には50億円規模の売上を目指す。

この発想は自社の組織づくりにも向けられている。これまでは採用を強化して規模を広げてきたが、今後はAIで社員一人ひとりの生産性と業務能力を高める「AIネイティブな組織」を目指す。採用は続け、人員を削ることもしない。既存メンバーの力をAIとともに引き上げていくという。

「未来へつながる時」がAIによって加速

黒﨑氏が語る構想の根底には、創業以来変わらない志がある。「未来へつながる時を生む」ことでより良い世界を志す人が、誰かのために調べ、考え、挑戦する時間を増やしたい。その思いは今も変わらず、AIの進化により、これまでよりはるかに高い水準で顧客の業務を引き受けられるようになった。その結果、TOKIUMが掲げる志を、これまで以上のレベルで体現できている。

社会的な必然性を裏付けるデータもある。パーソル総合研究所と中央大学による「労働市場の未来推計2035」によれば、2035年には日本で1日あたり1,775万時間、働き手に換算して384万人分の労働力が不足すると推計されている。人手不足が不可逆的に進む社会において、AIエージェントは「労働力として欠かすことのできない存在になる」と黒﨑氏は語る。そして「『経理AIエージェント』といえばTOKIUM、と真っ先に思い浮かべていただける存在になりたい」と続けた。経理という、全社員が関与しルールが明確な領域を突破口にAIエージェントを社会実装していく構想は、創業時の原点と一本の線でつながっている。


本記事は、月刊事業構想オンライン・月刊先端教育オンライン公式Xスペース「進化する構想」(2026年6月22日配信)の内容をもとに構成した。