「訪れたくなる価値」の作り方 地域と連携する事業で価値を創出
地方創生では、人々が「訪れたくなる価値」の創出が求められる。ホームセンター「グッデイ」を運営する嘉穂無線ホールディングス代表取締役社長の柳瀬隆志氏と、新江ノ島水族館を運営する江ノ島マリンコーポレーション代表取締役社長の堀一久氏に、その創出について聞いた。
福岡市に本社を置く嘉穂無線ホールディングスは、1949年に電子パーツの販売店として福岡県飯塚市で創業。その後は時代の変化に合わせて事業を変革し、現在はホームセンター「グッデイ」が中核事業になっている。「家族でつくるいい一日」という理念を基に事業を拡大し、地域振興にも積極的に取り組んでいる。
江ノ島マリンコーポレーションは、神奈川県藤沢市の新江ノ島水族館などを運営。地域活性化にも長年取り組み、2003年と2005年には「観光地片瀬江ノ島の玄関口を考える会」事務局として地元の有志らと、駅前整備に関する提言を県や市に対して行った。2014年には、「夜の水族館」を楽しめる世界初の本格的な3Dプロジェクションマッピングを実施。湘南・江の島全体のPRにも貢献している。
地域と連携して湘南海岸の
ブランディングを強化
田中 お二方とも家業を継いで、古くからある事業で革新的な取り組みをされると共に、地域活性化にも貢献されています。
柳瀬 私は三井物産勤務を経て、2008年に家業の嘉穂無線ホールディングスに入社しました。1950年に祖父が創った会社で元は電気屋だったのですが、父の判断で業態転換し、私が入社した時はホームセンターのグッデイがメイン事業になっていました。
柳瀬 隆志(嘉穂無線ホールディングス 代表取締役社長)
グッデイは1978年に事業多角化の1つとして始めた事業でしたが、ホームセンター業界の伸びと共に主力事業として大きく成長しました。しかし、2000年代半ばからは業界としての成長が止まり、私が入社した2008年には当社の成長ペースも鈍っていました。私が入社してからは、事業の変革に取り組み、デジタルの工作機械を使って自分が表現したものを作るファブラボ事業や、モノづくりをお客様に教えるワークショップ等の新しい取り組みを始めました。最近では、DXの推進にも取り組んでおり、2022年には日本DX大賞を受賞しました。
堀 江ノ島マリンコーポレーションは、1952年に私の祖父が創業しました。祖父は映画会社・日活の社長で、当時は映画が娯楽の主流でしたが、祖父は映画に代わる娯楽を探していました。そして湘南海岸をドライブした際、海や江の島、富士山が見える絶景が目前に拡がり、海にまつわる娯楽を事業にしたいと考えました。1954年には江の島水族館を設立し、これは日本における近代的水族館の第1号になりました。私は水族館は、生き物を預かり命の素晴らしさや次世代への命のつながりを伝えることで、お客様の心を豊かにする平和産業だと思います。
堀 一久(江ノ島マリンコーポレーション 代表取締役社長)
設立直後の昭和30~40年代は観光ブームもあり、年間約200万人が訪れましたが、昭和の終わり頃には施設が老朽化、来場者が約20万人に落ち込みました。そこで建て替えを検討し、行政と折衝した結果、公共事業に民間の資金を活用するPFI事業として、新江ノ島水族館が2004年にオープンしました。
私が信託銀行勤務を経て家業に参画したのはその頃です。当時はまだ、個人商店の延長から抜け出せない時期でしたが、組織づくりから取り組みました。また、地域と連携してまちづくりにも関わり、湘南海岸のブランディングを底上げする活動も始めました。
田中 地域全体を見たデザインという視野で色々なことをやっていくのは、地域創生における大切なポイントです。
堀 江の島や湘南海岸の名前はブランドとして確立されており、且つ江の島には歴史がありましたが、それらを活かす際、軸になる組織がありませんでした。また、観光立地では、おもてなし感やお出迎え感が大事で、ソフトやハードでそれを創出する必要があると思います。
そこで、私たちがまず着目したのはハードです。小田急電鉄のロマンスカーでは箱根湯本と片瀬江ノ島が2大終着駅で、箱根湯本駅はお出迎え感満載でしたが、片瀬江ノ島駅はそうではありませんでした。駅は玄関口なので、まずはこれを変えようと「観光地片瀬江ノ島の玄関口を考える会」を作り、商工会議所や行政、自治会の方々に参加していただき、駅前整備に関する提言をまとめました。
まちの価値を語る上では、「えきなみ」という言葉が1つのキーワードになると思います。多様な方々が通る駅づくりをしっかりコンセプトを持って行い、まちの価値を上げていくのは重要なポイントです。
空き家や古い建物の
DIYで地域活性化にも貢献
田中 柳瀬さんは双方向型のコミュニティ作りを大切にされ、ホームセンターの事業も活かし、まちの再生にも取り組んでいらっしゃいます。
柳瀬 私たちは最近、福岡県住宅供給公社と組み、公社が管理する福岡市の名島団地をリノベーションしました。そして住民の方々にも自分でリノベーションしてもらうため、これをショールーム化したのです。そこから発展して、うちの社員が壁や床を貼ったり、塗り替えたりした団地の部屋を売り出したところ、すぐに借り手が付きました。釘もネジも使わずに簡単なリフォームをしただけですが、意外と皆、そういうやり方を知らないのだとわかりました。
ホームセンターにはこういうことができる道具や資材が揃っています。販売だけでなく場所を設定してノウハウも教えれば、潜在的なニーズがあると思います。このように、空き家や古くなった建物をDIYで良くする活動を増やし、地域活性化にも貢献していきたいです。
老朽化した建物を刷新すれば地域に活力が生まれます。日本全体で人口減少が進む中、建替のコストが捻出できないからと、古い建物が放置されるのは良くありません。少し塗り替えるだけ、貼り替えるだけで新しく見せることも十分可能で、そういう方向性で活性化の議論ができればと思います。
グランドデザインや課題の
見極めが事業の構想では大切
田中 まちづくりに関わる事業で次世代のリーダー層を担う志を持つ人たちに、メッセージをお願いします。
堀 事業を構想する際、一番大切なのはグランドデザインだと思います。「木を見て森を見ず」ではありませんが、全体像を描くことなく細部に目を奪われると、その先の方向性も間違ってしまいます。グランドデザインをしっかりした上で、パーツに落としていくことが大切です。
柳瀬 新しい事業の構想では、解決したい課題が何かを見極め、なぜそれを自分たちが解決できるのか、それにはどのぐらいの価値があるのかをしっかり考えることが大事です。さらに、課題を解決することで対価が支払われるという部分を見て、構想を立てるのが良いと思います。
田中 克徳教授より
新しい事業というとスタートアップの話題が多いが、事業承継の課題を抱える企業が日本全体の市場に及ぼす影響力はけた違いに大きい。跡継ぎ経営者による新事業への挑戦や企業変革の姿は地域にわかりやすいメッセージになるだろう。個々の企業の成長に留まらず、雇用、人材、ブランド、コミュニティといった多方面への波及が期待される。お2人のような先導者が各地で跡継ぎがいない企業の支援や人材育成に乗り出すと、地方創生の大きな力になると感じた。