【7月24日鈴木憲和農水大臣会見詳報】早場米急落、コスト指標を下回る水準に
農林水産省は2026年7月24日午前、鈴木憲和農林水産大臣による定例記者会見を本省で開いた。冒頭で福島県への出張予定が報告された後、記者からは米国の追加関税による輸出への影響、農地集約率の算定・公表、太平洋クロマグロの国際交渉、そして早場米の価格動向について質問が相次いだ。
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福島出張、復興拠点を相次ぎ視察
大臣は2026年7月27日、「原子力災害からの福島復興再生協議会」(第33回)に出席するため福島県を訪れると明らかにした。地元関係者と復興・再生の取組について意見交換するほか、浪江町にある大規模畜産施設「シャインコーストファーム」を視察し、先進技術を活用した畜産経営と耕種・畜産の連携を目指す取組について農業者から話を聞く。同施設は浪江町が整備を進めてきたもので、循環型農業の拠点として本稼働している。さらに、「創造的復興の中核拠点」と位置付けられる福島国際研究教育機構(F-REI)も訪ね、研究の進捗状況について意見を交わす予定だ。
米の追加関税12.5%、輸出は前年比13.7%増
福島出張の報告に続き、記者からは米国の通商政策に関する質問が出た。米国通商代表部(USTR)は米国時間2026年7月23日、日本を含む60の国・地域に対する新たな関税措置の発動を発表した。日本時間7月24日13時1分から適用され、日本に対しては本来の関税率と合わせて12.5%が課される仕組みとなる。従来の関税率が12.5%未満の品目は12.5%まで引き上げられる一方、12.5%以上の品目は税率が据え置かれる。牛肉や緑茶など、これまでも追加関税の対象外とされてきた一部の農産品については、今回も対象外の扱いが維持された。
この措置は、2026年2月に米連邦最高裁が「相互関税」を違法と判断したことを受けて暫定的に導入されていた、一律10%の代替関税(通商法122条に基づく150日間の時限措置)が7月24日に失効するのに合わせ、強制労働対策の不備を理由とする通商法301条に基づく関税へ切り替わったものである。こうした通商環境の変化が続く中でも、鈴木大臣は農林水産物・食品の対米輸出が拡大基調にあると強調した。
2025年の対米輸出額は前年比13.7%増の2,762億円に達し、2年連続で最大の輸出先国となった。事業者の努力が実を結んでいるとの認識を示した上で、今後は迅速な情報提供や現場ニーズの把握を進め、商流の維持・拡大や輸出先の多角化を後押しする方針を述べた。
農地集約率、来年度に試算を公表
輸出動向に関する質疑の後、話題は国内の規制改革に移った。政府が2026年7月21日に閣議決定した規制改革実施計画では、農地の集約率を算定・公表する方針が明記された。具体的には、2026年度中に水田を対象とした集約率の算定方法案を示し、2027年度中に市町村ごとの試算結果をとりまとめて公表する。2028年度から2029年度にかけては、算定方法の改良と集約率の見直しを進める計画だ。
大臣は、生産性向上や適正な農地利用の観点から農地集約化は重要な課題であるとの考えを示した。集約の一般的な考え方については、農地が分散せずまとまっており、農作業を効率的に行える状態を指すと説明した。離れた場所に点在する農地ではなく、地続きの状態を意味するとした上で、正確な定義や算定方法は規制改革実施計画に沿って今後詰めていく考えを述べた。
クロマグロ交渉、メキシコへ働きかけ強化
農地政策に続いて取り上げられたのが、太平洋クロマグロの漁獲枠を巡る国際交渉である。今月前半に開かれた漁獲枠拡大に向けた国際交渉が合意に至らなかったことを受け、自民党水産総合調査会長の武部新衆議院議員と水産部会長の船橋利実参議院議員は7月23日、交渉再開に向けた取り組みを求める決議書を鈴木大臣に提出した。大臣はこの場で、厳しい漁獲枠の中で操業する漁業者の声を受け止めたと述べ、適切な枠の設定に向けて関係国への働きかけを続ける方針を示した。
当面の焦点となるのは、8月31日から開かれる全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)までに、合同作業部会を開けるかどうかだという。今回の交渉が不調に終わった主因とされるメキシコについては、建設的な姿勢で協議に応じるよう求める必要があるとし、外務省と連携しながらハイレベルでの働きかけを急ぐ考えを明らかにした。
早場米、コスト指標を下回る水準に
会見の締めくくりとなったのが、新米価格の先行指標とされる早場米の動向である。九州・四国の主産地で相次いで示された概算金は、いずれも生産コストの目安となる「コスト指標」を下回る水準にとどまった。
概算金とは、収穫した米をJAなど集荷業者に出荷する際、生産者に前払いで支払われる仮渡金である。実際の販売実績に応じて後日追加払いで精算されるため、最終的な受取総額はこれだけで決まるわけではないが、生産者が収穫直後に手にする金額の目安となり、当面の経営資金繰りに直結する。
一方のコスト指標は、食料システム法に基づき、生産から流通・販売に至る各段階で持続的な供給に必要な費用を示す数値として、認定を受けた団体が算出・公表するものだ。同法は、資材費や燃料費など生産コストの上昇分が卸売・小売段階の価格に十分反映されず、生産者だけが負担を強いられる構造的な課題に対応するために整備された。ただし、コスト指標はあくまで参考指標であり、価格を法的に拘束するものではない。
米の価格は需給バランスなど民間の取引環境の中で決まるため、この指標が実際の価格形成に影響するかどうかは、生産者やJA、卸・小売といった取引当事者が交渉の目安として実際に活用するかどうかにかかっている。
今回、複数の産地で概算金がこのコスト指標を下回ったということは、少なくとも前払いの段階では、生産を続けるために本来必要とされる費用を賄いきれていない可能性があることを意味し、生産現場の先行きへの懸念材料となっている。
食料システム法に基づく認定指標作成等団体である公益社団法人米穀安定供給確保支援機構(米穀機構)が2026年4月7日に公表したコスト指標は、玄米60キロ当たり2万535円である。これに対し、宮崎県内ではJAみやざきがコシヒカリ(玄米60キロ)の概算金を1万8,000円と通知し、前年の3万2,000円から44%引き下げた。
高知県でも同様にコシヒカリの概算金が1万4,000円となり、前年に比べ約4割安い水準だ。鹿児島県でも同様の下落傾向が伝えられている。いずれもコスト指標を2,500円台から6,500円余り下回っており、全国的な在庫過多や前年産の販売不振が背景にあるとみられる。
鈴木大臣はこうした報道を承知していると述べる一方、概算金はJAなど民間団体が需給動向や販売見込みを踏まえて自主的に設定するものであり、個別の価格水準へのコメントは控えたいとの立場を示した。
その上で、指標に強制力がない以上、その趣旨が生産者から流通・販売の現場まで十分に理解されて初めて取引の目安として機能するとの認識から、丁寧な情報発信に努める考えを述べた。
輸出拡大と国内価格下落、農政運営の行方
今回の会見からは、対米輸出の拡大という追い風と、コスト指標を下回る早場米価格という逆風が同時に進行している構図が浮かぶ。持続的な供給に要する費用を映す指標として導入されたコスト指標が、初年度から実勢価格との乖離に直面した格好であり、輸出先の多角化や農地集約化といった中長期の構造改革をどう両立させるかが問われる。農林水産省の今後の運営方針は、生産現場と輸出事業者の双方から注視され続けることになりそうだ。
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