日本の半導体産業復活へ 製造装置と部素材の強みで世界に勝つサプライチェーン戦略

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年6月4日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

稲葉 晶宏:商務情報政策局 情報産業課 デバイス・半導体戦略室。サプライチェーン全体を通じた半導体の産業支援に関する業務に携わる。
稲葉 晶宏:商務情報政策局 情報産業課 デバイス・半導体戦略室。サプライチェーン全体を通じた半導体の産業支援に関する業務に携わる。

【商務情報政策局 情報産業課 デバイス・半導体戦略室】に聞く、日本の半導体産業の強み、そして今後の戦略とは。経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している政策について、現場の中堅・若手職員が説明する「METI解体新書」。今回は、商務情報政策局 情報産業課 デバイス・半導体戦略室で、半導体の安定供給確保、産業発展のための支援に取り組む、稲葉 晶宏さんに話を聞きました。

テレビ、交通系ICカード……便利な生活を支えるレガシー半導体のサプライチェーンを支える

───ご所属の商務情報政策局はどのような部局ですか。

半導体、AI、データセンター、サイバーセキュリティなどデジタル関係の業務を担当しています。最近のニュースや特集でよく耳にするようなテクノロジーに関する産業の支援をしている部局です。

───その中で、デバイス・半導体戦略室はどのような業務を担当しているのですか。

半導体や電子部品について、国内の安定供給の確保や企業の誘致への支援をしています。私は直接の担当ではないのですが、国内に半導体の工場を建設したTSMCへの支援も行っています。昨年11月には米国メモリー大手のマイクロンが広島に新工場を建設し、1.5兆円の投資をするという発表がありましたが、こうした投資の補助も行っています。

また、デバイスメーカーだけではなく、半導体を作る製造装置や原材料、部素材も含めて、サプライチェーン全体を担当しています。半導体関連、電子部品関連の日本企業に、海外の投資家が投資をする際は、法律上審査が必要となりますが、この審査対応も担っています。

───稲葉さんはどのような業務をされていますか。

半導体にも様々な種類があり、ラピダス、エヌビディア、TSMCなどが製造に取り組む最先端半導体もあれば、すでに汎用化されている半導体もあります。私たちはレガシー半導体と呼んでいます。例えば、パソコンやテレビ、自動車、産業機械などにはレガシー半導体が多く使われています。最先端ではないけれども、皆さんの身近にある電子機器に使われ生活を支えている半導体がレガシー半導体で、私はそのレガシー半導体そのものに加え、製造装置、部素材、原料などを含めたサプライチェーン全体を担当しています。

───最先端の半導体とレガシー半導体の違いは?

今後フィジカルAIやデータセンターの需要が大きく伸びていくことが予想される中で、高速かつ複雑な演算・計算が求められる場面が出てきます。そのためには、最先端の技術が必要です。一方で、もう少し簡単な計算であったり、最先端の技術で導かれたとおりに、スムーズに車や機械を動かす時に必要になるのがレガシー半導体です。

例えば、テレビのリモコンを押すとチャンネルが切り替わりますが、その信号を飛ばして、正しくチャンネルを切り替えるのにもレガシー半導体が活躍しています。

また、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードやスマートフォン、スマートウォッチなどもそうです。改札や決済端末にタッチした時に、正しく検知をするセンサーや、検知したデータを処理して、代金がいくらかというのを瞬間的に計測、計算して反映させるのにも多くのレガシー半導体が使われています。

私たちが便利な生活を送る上で、半導体は欠かせないし、その進化は止まりません。レガシー半導体が古いというわけではなく、用途が異なるだけで、レガシーの中での最先端を目指して企業努力により日々進化を続けています。こうした取り組みをこれからも応援していきたいと考えています。

「最先端でなくてもいいけれど、しっかり機能しないとみんな困ってしまうという部分で活躍しているのがレガシー半導体で、最先端半導体と同様に重要なものです」
「最先端でなくてもいいけれど、しっかり機能しないとみんな困ってしまうという部分で活躍しているのがレガシー半導体で、最先端半導体と同様に重要なものです」

戦略17分野に位置づけられる半導体。日本の半導体産業を復活に導く使命感

─── 私たちが便利な生活を送れるのは、半導体のおかげだったのですね。

最近では、ソニーのイメージセンサーへの投資支援を発表しました。イメージセンサーは、一眼レフやスマートフォンのカメラに搭載されているもので、撮影した画像をデジタルの信号に切り替えるために半導体が使われています。これによって美しい写真を手軽に撮影し、例えば、パソコンで画像編集をしたり、みんなでシェアして楽しむようなことできるようになります。

半導体というと、最近よく取り上げられている2ナノなどの最先端の半導体をイメージされる方が多いかもしれませんが、それとは別に様々な半導体があって、むしろ最先端でないレガシー半導体が皆さんの便利で豊かな生活を支えているということもぜひ知っていただきたいです。

─── 半導体産業において、日本が強みを持っているのはどの部分ですか。

日本が半導体の分野で強いのは、半導体そのものに目が行きがちですが、実は、半導体製造に必要な装置や部素材です。例えば、半導体を作る時には、シリコンの円盤のようなウエハの上にレジストという薄い膜を引き、そこに目に見えないぐらいの細い回路を書いて、それを洗ってまた回路を書いて……といった作業を何度も繰り返していきます。このレジストは日本が世界シェアのほとんどを占めています。また、電気を通してはいけないところに敷く絶縁のための膜なども日本が多くのシェアを持っています。

半導体を製造するのに必要な製造装置や部素材は、世界の半導体産業にとって欠かせないものです。エヌビディアやTSMCの業績が伸びているのも、日本企業のこうした支えがあるからと言っても過言ではありません。現政権でも、半導体を日本の産業の一丁目一番地と位置づけ、重点投資対象と位置づける戦略17分野にも名を連ねています。半導体産業は裾野がとても広く、経済を牽引していく産業です。レガシー半導体の分野でも強みがあるので、最先端の半導体の分野にも切り込んでいくとともに、レガシー半導体の分野でもしっかりとシェアを伸ばしていくことに取り組んでいきます。日本の半導体の良さを世界に示し、日本の半導体産業の復活につなげていくことが私たちの目標としているところです。

─── デバイス・半導体戦略室での業務はいかがですか?

私は文系なので、着任当初は半導体ってなんだっけという状態で、今も勉強が大変です。また、私の班のメンバーはほとんどが出向者です。民間企業や地方自治体、特許庁から来ている方もいて、色々なバックグラウンドや知識を持った人と一緒に仕事をするという経験はなかなか得がたい貴重なものだと思っています。多様な人材が集まって日本の半導体産業を大きくしていこうとワンチームで取り組める環境にあるのは、とても魅力的だと感じています。

「調整においては、自分が知らないことの方が多いので、まずはフラットに意見を聞いてきちんと議論することを心がけている」と語る、稲葉さん
「調整においては、自分が知らないことの方が多いので、まずはフラットに意見を聞いてきちんと議論することを心がけている」と語る、稲葉さん

過去には地方税のとりまとめ担当も経験。多様な仕事を通じて幅広い視野が養える

───これまでのキャリアを振り返って印象に残っている仕事はありますか。

前ポストは、経済産業省の税制改正要望のとりまとめを行う課室で、私は地方税のとりまとめ担当をしていました。当時は、インボイス制度が始まった時期で、地方税においても大企業に対する課税のあり方を見直す大きな議論がありました。重大な変革の場面に携われ、貴重な経験だったと思います。税制というとなかなかとっつきにくい印象があると思いますので、地方経済産業局向けに説明会を積極的に開催するなど制度周知にも取り組みました。また、各地方経済産業局の管区に所在する企業にそのまま渡してもらえるような説明資料を作成して、経産省全体の取り組みとして周知活動に協力をしてもらいました。省内向けに課室の業務内容などを紹介をするパンフレットを作成したり、税制に関する専門人材の育成に向けた制度を検討するなど、税制担当部局では様々な仕事ができ、印象に残っています。

───経済産業省ならでは仕事の魅力を感じるのはどんなところですか。

例えば、一般的なメーカー企業では、ある特定の製品を作って、それを商材として売っていくというパターンが多いのではないかと思います。これは国家公務員に置き換えても似ていて、例えば、教育や農林水産業など特定の分野を担当するのが基本です。その中で経済産業省は、担当する領域がとても広いので仕事が無限に広がっていて、それはとても贅沢なことだと思いますし、その中で自分の専門性を見つけることができます。私はもともと大学では国際政治学の延長で水ビジネスの研究をしていたので、この分野に興味があって入省を決めたこともあり、実際に早い段階で水ビジネスの業務に携わらせてもらいましたが、現在担当している半導体の業務や先ほどご紹介した税の業務も含め、今まで携わったどの仕事もとても興味深いものばかりでした。今後のキャリアパスとしても、在外や自治体出向という選択肢もあり、様々なキャリアパスが描けるのも魅力です。幅広い視野を養いたい、様々な業務に携わってみたいという方にはお薦めしたい職場です。

───日々忙しく業務に向き合っていると思いますが、ご自身なりのリフレッシュ方法はありますか。

同期と2人で、ギターの弾き語りバンドをやっています。社会人になって気の合う友達ができたのもよかったですし、私は高校からバンドをやっていたので、社会人になっても続けられるのは嬉しいことです。職場の人を呼んでライブを開催したり、別のバンドをやっている職場の方と対バンをしたこともあります。業務外でのコミュニティーも広がり、リフレッシュにもなっています!

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