いかにして効果を可視化するか 再生医療等製品の評価法を議論

患者数が少なく、従来の方法では有効性評価が困難な再生医療等製品。有効な治療を早期に患者に届けるための治験のデザイン、解析法が模索されている。少数症例でも有効性を検証できる統計手法や、リアルワールドデータの活用など、新たなアプローチをいかに確立するかを議論した。

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困難を抱える再生医療の治験
データ活用深化に解決の糸口か

主に細胞や遺伝子を利用する再生医療等製品は、化学合成された低分子医薬品と比較すると不均一であり、また対象となる疾患の患者数が少ないという特性がある。厚生労働省医薬局医療機器審査管理課 課長の野村由美子氏は、これらの特性を踏まえた上で早期に患者に治療を提供するために設けられた「条件及び期限付承認」制度について説明した。

野村 由美子(厚生労働省 医薬局 医療機器審査管理課 課長)

これは2014年の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」改正法施行時に設けられた制度で、これまでに5製品が条件及び期限付承認されている。ただし、うち2製品は本承認に至っていない。厚労省は、条件及び期限付承認を得るために求められる安全性の確認、有効性の推定についての目安を示したガイダンスを出している。野村氏はそのポイントについて「承認前の試験デザイン、承認後の試験計画をしっかり練ること」「有効性の推定についてバイアスのかからない客観的な指標を設けること」などを挙げた。

同制度の今後については、治験時の少ない症例数を補うためのリアルワールドデータ(RWD、電子カルテやレセプトなどから収集される患者の健康状態などに関する多種多様なデータ全般)の活用を進め、長期の経過、治療前後の比較等を進めていくことが期待されるとしている。

少数例で解析できる、低コストで
迅速な検証システムづくりを

続いて、野村氏が言及した、条件及び期限付承認を得たものの本承認に至らなかった2品目のうちの1つの開発当事者が、その貴重な経験を語った。重症心不全患者に自身の筋芽細胞を培養しシート状にして移植する「ハートシート」の臨床試験に携わった、大阪大学大学院医学系研究科教授の宮川繁氏だ。

宮川 繁(大阪大学大学院 医学系研究科 心臓血管外科 教授)

「臨床試験で採用した有効性推定の評価手法(ハートシート適用60例、比較対象群120例)では、生命予後を主要評価項目としたものの、治療群と対照群に全く差が出ず、本承認されなかった。宮川氏は当時の評価手法について「生命予後を見るには最低数百例、数千例が必要」「治療法に反応する人(レスポンダー)、しない人(ノンレスポンダー)をひとまとめの治療群にしてしまうと正確な解析は難しい」「何を評価項目に置くかで結果が全く変わる」などの問題点を挙げた。

その後検討を重ねる中で、特定の期間における平均的な延命効果を評価する「制限付き平均生存期間(RMST)」という手法を用い、多施設から収集したデータをもとに構築した心不全予後予測モデルとハートシート適用患者の生命予後を比較したところ、明らかな有意差が出たことを報告。「少数例で解析できる低コストで迅速な検証システムづくりに、国を挙げて取り組んでいただきたい」と提案した。

ベイズ流デザインによる
統計アプローチの可能性

臨床統計学の専門家で、東京科学大学大学院臨床統計学分野教授を務める平川晃弘氏は、再生医療等製品を開発する上での、統計学的側面からの困難を語った。特に大きいのが、「症例が少ない、すなわち治験という枠組みで協力いただける患者さんの数が少ないことと、患者間で疾患進行・効果の大きさにばらつきがある“ヘテロな集団”では、集団平均に基づく従来の統計手法だけでは治療効果を正確に評価できないという限界がある」。

平川 晃弘(東京科学大学大学院臨床統計学分野 教授)

創薬の世界では、より少ない被験者数で、より効率的にエビデンスを創出する臨床試験方法論が求められている。米国食品医薬品局(FDA)は選択肢の1つとしてベイズ流アプローチに期待している。そのメリットについては「信頼性のある既存データなど、試験を開始する前の事前情報を、これから行う臨床試験のデータに直接的に取り込んで、治療効果の推定精度を上げ、最終的な結論を導くことができる点にあります」と説明。過去の膨大なデータをもとに予測する天気予報に例えた。

平川氏は、ベイズ流アプローチを使う上で大事なポイントとして「試験前に必ず、どのような文脈で結果を解釈するか宣言してステークホルダーの合意を取ること。そして、どれぐらいの確率があったら『合格』にするかを先に決めておくこと」と解説した。

質や治療効果の違いへの
統計学的な対処について議論

討議では、国際幹細胞学会(ISSCR) 理事長の岡野栄之氏が、「一人ひとり異なる自家の細胞のクオリティの違いや治療効果の違いについて、どう対処していくべきなのでしょうか」と提議し、平川氏は「治療効果の異質性という文脈での解析が、これからは必要だということをFDAも指摘しています」と答えた。例えば、高齢者に絞って部分集団を解析しても、高齢者の中にも多様性がある。多次元的に分類していくと対象となる患者群が小さくなってしまうが、そこで他の人のデータをうまく利用し、関心のある対象者(集団)における有効性を精度良く推定するという枠組みがある。このような分析法により、より高精度な解釈が可能になるという。

また野村氏は、同一製品間での差異に言及した。「ロットごとの振れ幅が大きいものをどう見ていくか。考え方を整理する必要があります。再生医療等製品のどのような特性が振れ幅を大きくしているのか、それが実際に有効性に影響しているか、ということが、今の科学のレベルではおそらくまだ解明しきれていない。これを明らかにするためにも、引き続き基礎研究を進めていく必要があります」と述べた。

臨床試験の設計について、岡野氏は「レスポンダーとノンレスポンダーの違いが予期的にわかれば、層別化による解析が可能になるのでは」と宮川氏に問いかけた。宮川氏は「臨床のデータをみると、ある条件を設定することでレスポンダーの方があぶり出されることがあります。ただ、それが本当に正しいかどうかを改めて検証する必要があります」と話した。ここで有望なのがAIの活用だという。宮川氏は、有効性が期待される人を明確に見極めるためのAIの開発にも取り組んでいる。

再生医療イノベーションフォーラム前会長の志鷹義嗣氏(RealizeEdge Partners 代表取締役社長)は、「レジストリを事前情報として使うことはできるのか、その際にデータの質をどう担保するか」という疑問を提示した。平川氏は「レジストリと、これから実施する治験において、データの取り方や検査の仕方が違っていればレジストリデータを利用できない可能性があります。そもそも多くの過去データについてはその確認のしようもない。その意味では、前向きに収集されたデータが事前情報としての利用可能性が高く、規制当局の理解も得られやすい」と説明した。