日本における睡眠不足による経済損失は20兆円 急拡大する睡眠サービス市場を紹介
(※本記事はNTTデータ経営研究所ウェブサイト内の「経営研レポート」に2024年11月25日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
日本人の睡眠不足
日本人の睡眠の問題について、睡眠の量と質の観点から見てみよう。
「睡眠の量」の観点では、日本人の平均睡眠時間は世界的に見ても短い傾向にある。33ヵ国を対象に実施したOECDによる調査1によると、日本の成人の平均睡眠時間は約7時間22分であり、これは調査対象国の中でも最下位と、最も短い部類である(調査対象国33国の平均は8時間28分)。
中でも、日本の子どもや働く成人の睡眠時間は短いことが明らかになっている。NHKが2024年に実施した調査2では、子どもの平均睡眠時間は、小学6年生が7.9時間、中学3年生が7.1時間、高校3年生が6.5時間であり、厚生労働省の推奨する睡眠時間(小学生:9~12時間、中学生・高校生:8~10時間)を下回っている。また、20代~50代の成人では、男女ともに約4~5割が1日当たりの睡眠時間が6時間未満となっている3。そのため、社会人や子育て中の親など、まさに働き盛りの世代を中心に、睡眠不足の傾向が顕著であると考えられる。
次に、「睡眠の質」の観点にも着目したい。日本では、多くの人々が不眠症(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)に悩まされている。2016年の研究4では、日本人の不眠症の割合は、男性が12.2%、女性が14.6%に上ると報告された。
上述のような睡眠の量・質の不足により、人々の健康だけでなく、学業の成績や労働生産性、経済に対しても、以下のような悪影響が生じている。
まず、人々の健康への影響について、睡眠不足は生活習慣病のリスクが高めることが知られている。2016年に実施された研究5では、死亡、糖尿病、高血圧、心疾患、肥満などの生活習慣病のリスクが睡眠不足によって高まることが明らかにされた。
学業の成績への影響については、日本人を対象にした研究ではないものの、睡眠時間と学校の成績には有意な正の相関関係があるとの研究6もあり、子どもの睡眠不足の影響は深刻であると考えられる。
労働生産性の面では、睡眠不足によって眠気を催す、抑うつ状態に陥る、作業遂行能力が下がることが指摘されている7。特に物流・交通産業や建設現場、工場など、眠気が重大な事故につながりうる現場における従業員の睡眠不足が問題になっており、危険な状態だと言える。また、不眠症の重症度が高いほど、生産性が顕著に下がることが報告されている8など、睡眠の量・質の低下により、労働生産性に悪影響が生じている。
経済性の観点では、日本における睡眠不足による経済損失は20兆円、GDP比で2.92%に上るとの試算が出ている。RAND研究所が2016年にリリースした調査9によれば、現在の睡眠時間が6時間未満の日本にいる労働者が適正な睡眠時間(7~9時間)をとるようになった場合、1,380億ドル(1ドル=150円として、約20兆円)の経済損失を防げるとしている。睡眠は全ての国民に関連する営みであり、日本の国家予算の約1/5という巨額の経済損失につながっていることは看過できない。同調査では、諸外国の経済損失も試算しており、経済損失のGDP比は、アメリカ:4110億ドル(GDP比2.28%)、イギリス:502億ドル(GDP比1.86%)、ドイツ:600億ドル(GDP比1.56%)、カナダ:214億ドル(GDP比1.35%)と算出されている。特に、日本の経済損失はGDP比で最大であり、諸外国と比較して睡眠を起因とする経済損失が大きいことが分かる。睡眠・覚醒状態の制御機構に関わる「オレキシン」という神経伝達物質を発見し、睡眠研究の大家として知られ、ノーベル賞候補者になっていることでも知られる、筑波大学の柳沢正史教授によれば、「日本が高度経済成長を遂げたのは、日本人がよく眠れていたからだと考えてよい」とのことである10。近年の日本人の睡眠不足が、経済成長にも悪影響を及ぼしている可能性は否定できない。
図1 世界各国の睡眠不足による経済損失

睡眠サービス市場について
多忙な生活やデジタルデバイスの過度な使用は睡眠障害を引き起こす一因とされている。その一方で、睡眠の質を向上させるための技術やサービスが昨今注目を集めている。特にデジタル技術の進展により、スマートデバイスやアプリを用いた睡眠管理が普及している。さらに、センサーやAI技術を駆使したデバイスやサービスが普及しており、法人向け健康経営サービスとしても採用が進んでいる。
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