あなたの会社の株価上昇は本物か TSR世界首位の日本企業が欧米に届かない理由
ボストン コンサルティング グループ(BCG)は2026年6月11日、日本企業の2021年から2025年の5年間における株主総利回り(TSR)を分析したレポート「『TSR思考』を価値創造につなげる――日本版バリュークリエーターズ・ランキング2026」を発表した。
5年TSRで日本が米国・欧州・新興国を初めて上回る
日本企業(TOPIX)の5年間の年平均TSRはプラス16パーセントを記録し、米国(プラス14パーセント)、欧州(プラス12パーセント)、新興国(プラス7パーセント)を上回った。BCGが本調査を開始した2021年以降、日本企業の5年TSRが地域別で首位に立つのは今回が初めてだ。
2025年の単年でも日本企業のTSRはプラス25パーセントと他地域を引き離した。TSRを「利益成長」「マルチプル(評価倍率)の変化」「フリーキャッシュフロー利回り」に分解したところ、過去5年のマルチプルの変化が調査対象地域で唯一プラスに転じており、バリュエーションの改善が今回の躍進の主因であることが明らかになった。
業種別では「保険」が2年連続首位、「建設」が15位から6位へ躍進
業種別の5年TSR中央値では、「保険」がプラス31パーセントで2年連続の首位となった。次いで「銀行・金融サービス(保険除く)」「鉄鋼・非鉄金属」「商社」「半導体」が続き、「建設」が前回15位から6位へ大幅に順位を上げた。金利正常化に伴う業績拡大と政策保有株売却を原資とした積極的な株主還元、AI・データセンター関連需要、インフラ需要といった要因が各業種のTSRを押し上げた。
フジクラが2年連続首位、IHIと丸紅が新たにトップ10入り
時価総額1兆円以上の大型企業を対象としたランキングでは、独自の光ファイバー技術に強みを持つフジクラが年平均TSR110パーセントという圧倒的な水準で前回に続き首位を維持した。今回新たに上位10社に入ったのは、防衛関連事業への成長期待と事業ポートフォリオ改革が評価されたIHI(14位から6位)と、商社株への再評価に加え新中期経営戦略が高い評価を受けた丸紅(19位から9位)の2社である。順位を上げた企業の多くは、業種共通の追い風に加え、非中核事業の整理・売却や株主還元方針の刷新など、資本コストを意識した経営改革を積極的に進めている点が共通している。
ROEは依然として欧米を下回る 純利益率の低さが本質的課題
一方、株価が好調に推移する中でも、日本企業の本質的な収益力は依然として欧米企業を下回る状況が続いている。2025年のROE(自己資本利益率)中央値は日本企業が8.9パーセントにとどまり、米国(13.5パーセント)、欧州(13.6パーセント)と比較して低水準である。ROEを純利益率・総資産回転率・財務レバレッジの3要素に分解するデュポン分解によると、その差は主に純利益率の低さに起因している。純利益率の中央値は日本が6.6パーセントであるのに対し、米国は12.9パーセント、欧州は10.1パーセントであり、事業の収益力そのものを高めることが本質的な課題として浮かび上がっている。
「TSR思考」を経営に組み込み、持続的な価値創造へ
BCG東京オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナーで共著者の加来一郎氏は、「日本企業のTSRが世界の他地域を上回ったことは大きな成果だが、これをゴールではなく、欧米企業並みの収益力を実現する新たなスタートラインと捉えるべきである。TSRを最上位の経営指標として位置づけ、事業戦略・財務戦略・投資家戦略を一体で設計する『TSR思考』を経営に組み込むことが、次の段階の価値創造につながる」とコメントしている。
レポートでは、TSRを単なる結果指標ではなく経営の意思決定のレンズとして活用する「TSR思考」を持続的な企業価値創造の鍵として位置づけ、経営への組み込み方を6つの要点に整理して紹介している。
調査概要
本調査はTSR(トータル・シェアホルダー・リターン、株主総利回り)を測定指標とし、日本企業817社を対象に2021年から2025年の5年間における年平均TSRを算出・分析したものである。BCGは1999年より25年以上にわたりグローバル規模で同種の調査を継続して実施している。