震災から15年。ドローン、宇宙 … 課題解決は「実証の聖地」福島から
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年3月11日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
東日本大震災の発生から15年。福島は復興を進めると同時にその先の未来へ、歩みを進めている。
少子高齢化、増える過疎地域――。日本は様々な課題にこれから直面していく。いわば震災後の福島は、これから日本に重くのしかかっていく課題が複合災害により加速した地域であり、新しい地方創生のモデルともなりうる新たな取り組みが様々行われ、「実証の聖地」とも言える場である。
若者、現役世代が県外に流出していく中、どうやって地域のつながりを維持し、住民の安全・安心を守っていくのか。「福島イノベーション・コースト構想」の下で、「実証の聖地」福島で進められている試みは、同じ悩みを抱えている全国の地域に「福島モデル」という処方箋を示そうとしている。
同時にこれは、この地で次世代の成長エンジンとなるイノベーションを興し、新しい人たちを地域に呼び込む可能性を秘めている。
県内初のドローン「レベル4」飛行。鉄道上空は全国初
2025年12月9日、1機のドローンがお菓子を入れた箱を抱え、南相馬市の住宅街や道路・鉄道上空を約10kmにわたって飛行した。
産業用ドローンの製造販売を手がける南相馬市の企業「イームズロボティクス」が、「レベル4」の実証実験として実施したものだ。レベル4とは、住宅街などの有人地帯で操縦者の目視なしにドローンを飛ばすこと。本州初のエリア単位でのレベル4実証実験であり、鉄道上空のレベル4飛行は全国初の試みだった。
福島県次世代産業課課長の植田隆太さんは、「ドローンの社会実装に向けて、一つステージが上がったという感慨を覚えました」と、実証実験に立ち会った時の思いを振り返る。
福島県はドローンを使った配送サービスの実現に向け、2024年6月、新技術の社会実装に必要な規制緩和を行う国家戦略特区(通称・連携”絆”特区)に長崎県と共に指定された。従来、レベル4飛行はルート単位で国土交通省の許可を得る必要があり、注文に応じたルート変更などは認められていなかったが、福島県は、エリア単位でのレベル4飛行実現を規制合理化として要望、その実現に向けて、実証の取り組みを後押ししてきた。
県独自に様々な支援。研究開発費補助、マッチング…
福島県は「福島イノベーション・コースト構想※」の下、次世代の日本経済を引っ張っていくイノベーションを生み出す「実証の聖地」として、様々な事業を展開している。
産学官でつくる「ふくしまロボット産業推進協議会」には400以上の企業、研究機関などが参加。勉強会や相互交流によって、ノウハウや技術基盤の集積を目指し図っている。更に協議会の下にコーディネーターを配置し、企業間あるいは企業と研究機関のマッチングなどの活動を進めている。
また、研究開発の支援メニューも県独自で用意し、県内企業や大学の研究開発、共同研究への補助を実施している。実際にロボットやソフトウェア関連の研究などで定評のある会津大学と県内企業とのプロジェクトが進んでおり、企業や大学が抱えるシーズ(種)をいかに商品化するか共同研究を続けている。
※福島イノベーション・コースト構想…福島県の浜通り地域等に新たな産業の創出を目指す構想。「廃炉」「ロボット・ドローン」「エネルギー・環境・リサイクル」「農林水産業」「医療関連」「航空宇宙」の六つを重点分野と位置づけ、産業集積、教育、人材育成、交流人口拡大、情報発信などに、国や福島県、関連市町村などが連携して取り組んでいる。
「チャレンジするなら福島」――。イノベーションの種を呼び込め
様々な事業や実証実験の舞台となっている県太平洋岸の浜通り地域等は、津波被害や原子力発電所の事故の影響で、人口減少、高齢化、産業の空洞化などの課題が大きな問題となっている。
「逆手に取ると言うと言い過ぎかもしれませんが、この地だからできることがあります。ドローンの社会実証ということで言えば、まだまだ多くの規制がある中で、社会課題が加速化した地域だからこそ社会実装を進めやすいという側面もあります。こうした社会実装へのチャレンジを通じて、地域や県民のみなさまがメリットを感じてもらうようなものにつなげていきたい」
植田さんは、県としてドローン・ロボットなど産業創出に力を入れる理由をこう語る。
その上で、「実証の聖地」福島で生まれたモデルが、同じ悩みを抱える全国の地域で社会課題を解決し、その果実が福島にもたらされる未来を展望する。
「チャレンジするなら福島。福島産のドローンが全国の空を飛び、福島モデルが全国展開されるという姿が我々の最終ゴールです。福島の先端産業が力を発揮することで、震災で流出した人口がただ単に戻るだけでなく、『イノベーションの種』になる人たちを呼び込んで、次につなげていく。そういうことを、国と一緒になってやっていきたい」
「ロボット・航空宇宙フェスタふくしま」「ドローンサミット」を開催
2026年11月には、「ロボット・航空宇宙フェスタふくしま」と「ドローンサミット」が郡山市で同時開催される。ビジネス向けの展示や商談会、企業や研究者らによる多彩なトークセッションなどが行われるほか、一般向けにロボットやドローンのデモンストレーション、子どもたちを対象にした体験イベントなど多彩なプログラムが用意されている。「実証の聖地」の今が詰まったイベントになりそうだ。
東日本大震災からの復旧・復興は、2025年度で「第2期復興・創生期間」を終え、2026年度から「第3期復興・創生期間」に入る。東北経済産業局は「福島の復興なくして東北の復興なし、東北の復興なくして日本の再生なし」として、施策を展開している。
J-Startup TOHOKUに福島から6社
経済産業省のスタートアップ育成支援プログラム「J-Startup」の地域版、「J-Startup TOHOKU」が始まったのは2020年。東北地域の有望なスタートアップを選定し、東北地域から挑戦する企業群に脚光を当てるとともに、政府施策の優遇措置やJ-Startup TOHOKU地域サポーターズをはじめとした官民の連携による支援などを実施している。
2026年1月には、福島県から新たに3社が選定され、県内の選定企業は合計6社となった。これまでの選定企業はさることながら、新たに選定された3社についても、それぞれ大きな可能性を感じさせる。
大熊町の「OKUMA TECH」(李顕一・代表取締役)は、「革新的な水素技術によって水素エネルギーの社会実装を加速させる」をミッションに掲げている。同社は、水素燃料電池発電装置など水素に関わる製品の研究開発・製造を行う中で、「粉体水素」の特長に着目。「粉体水素」は、水素エネルギーを推進する際に障害となっている貯蔵・運搬のコストを大幅に引き下げる可能性があり、現在はその実用化を目指し、水素製造装置の開発などを手がけている。
また、南相馬市の「Zip Infrastructure」(須知高匡・代表取締役CEO)は、交通渋滞の解消と移動利便性の向上を目指し、よりスムーズな移動を実現するため、自走式ロープウェイ「Zippar」の開発を進めている。同じく南相馬市に拠点を置く「ハマ」(金田政太・代表取締役)は、福島イノベーション・コースト構想に共感し、東京から浜通り地域等へ拠点を移した。世界でも珍しい水上発着可能な飛行艇型のドローンを開発し、能登半島地震の際には沿岸部の被災状況の確認などで力を発揮したという。
東北経済産業局産業技術革新課新規事業係の丁子カレンさんは、「選定企業が東北におけるロールモデルとなって、全国、世界に羽ばたき、大きく成長してほしい」と話す。福島県を含む東北地域は、2025年6月に内閣府の「スタートアップ・エコシステム拠点都市」において「グローバル拠点都市」に選定された。今後、東北地域と海外エコシステムとの更なる連携が期待される。
「宇宙スタートアップの挑戦の場」、広域連携で更に強化
福島イノベーション・コースト構想では、福島県浜通り地域等を「宇宙スタートアップの挑戦の場」とすることを目標の一つとして掲げている。東北経済産業局もこれに呼応し、様々な施策を進めている。
力を入れているのが宇宙関連産業の振興を図るための広域連携の取組だ。南相馬市にはニュースペース企業をはじめ関連企業が多く集積しており、地元企業との間で取引も生まれている。ただ、宇宙関連産業に求められる技術水準は極めて高く、一地域だけで全てを賄うには無理がある。そこで広域連携が重要になってくる。
宇宙関連企業が集積する南相馬市と宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケットエンジン開発・燃焼試験の拠点が整備されている宮城県角田市、秋田県能代市を結んで、宇宙開発人材の確保・育成、実証試験の環境を整備するとともに地域経済への波及効果拡大を目指そうというのだ。
「航空宇宙産業を地元にしっかりと根付かせ、サプライチェーンを構築する。これによって、地域経済への波及効果のみならず、福島を含む東北地域が、日本の宇宙開発・利用を支えるという姿を目指しています」
東北経済産業局製造産業課製造企画係長の工藤佳樹さんはこう語る。
2026年春には、JAXAの「官民共創推進系開発センター」が角田市に開設される。東北経済産業局としても、センターはもとより地元の企業や人材を巻き込んで、宇宙開発のエコシステムを構築していきたい考えだ。
「末永くこの地で操業を」。浜通りで支援施策説明会を開催
東北経済産業局は2026年3月、新年度の中小企業支援施策、被災地向け支援制度を紹介する「補助金等企業支援施策説明会in浜通り」を18日に楢葉町、19日に南相馬市で開催する。
東日本大震災復興推進室長の安藤智広さんは、「浜通り地域等には、既存の事業者も新たに立地した事業者も、スタートアップもあります。こうした事業者がこの地域で長く操業を続けていただくことが復興を進めるうえで重要です。」とした上で、「経済産業省では設備投資に使っていただける補助金や、経営課題のご相談に対応する「よろず支援拠点」など、多くの支援策があります。福島県でも補助金などさまざまな支援策を用意しています。そういった支援策を説明会を通じて知ってもらい、必要に応じて使ってもらうことで、事業活動にお役立ていただきたい」と話す。
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