県内産業活性化に向けた取組 栃木の活性化に向けDXを推進

栃木県は、2021年3月、我が国がめざす未来社会Society5.0を見据え「とちぎデジタル戦略」を策定した。栃木県知事の福田富一氏が、DXによる地域課題の解決、企業の成長促進、庁内業務の効率化について語った。NTT東日本では、共創による実証実験などを通じて、栃木県のデジタル活用を支援している。
※本講演は2021年12月9日に収録しています。

栃木県知事の福田富一氏(中央)、NTT東日本 栃木支店長の小林博文氏(右)。ファシリテーターは事業構想研究所教授の河村昌美氏(左)が務めた

「とちぎビジネスAIセンター」で
県内産業のDXを支援

「とちぎデジタル戦略」では、地域課題をデジタルで解決する仕組みとして「とちぎデジタルハブ」を創設。また、人材の育成、行政手続きのオンライン化などによるDXを推進している。取組の着実な実行に向けデジタル化の司令塔として登用したチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)を中心に、既存の業務プロセスを見直すことなどによって業務の効率化を図る。同時にビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)や職員の意識変革を進めるDX研修にも積極的に取り組んでいる。

さらに、先端技術の実用化では、スマート農業や林業、公共交通における無人運転の実証など様々な分野に挑戦中だ。「まさに栃木県のデジタル化がスタートしたところ」と栃木県知事の福田富一氏は意気込みを語る。

県内産業のDX支援の拠点として2021年5月に開設したのが「とちぎビジネスAIセンター」だ。そのねらいについて「Society 5.0の実現を加速するためには革新的ビジネスモデルの創出や企業の生産性向上に資するAI、IoTなどの導入、そして利活用を促進することが極めて重要であると考えました」と福田氏はいう。これまで県内の50社以上を訪問し、約90件の個別相談に応じるなど企業の状況に応じたきめ細かな支援を実施しているほか、AIなどの技術を直接体験・体感できるよう、常時10種類以上のソリーションを展示している。2021年11月末現在で約1000人が来所したという。

県内産業のDXを支援するため、とちぎビジネスAIセンターは2021年5月に開所した

さらに企業におけるAIなどへの理解促進を図るために、企業の担当者を対象としたワークショップを開催したほか、企業の成長に貢献できる人材を育成するためレベルに応じた研修講座も実施している。利用企業からは「AIやIoTなどの機器の実際の動作が分かるので、具体的にソリューションのイメージが湧くのがよかった」などの評価が得られている。ただし、製造業に比べサービス産業からの相談件数が相対的に少ないのが現状で、「支援機関である県内の商工会議所などと緊密に連携を図りながらより一層の周知、啓発を図っていきたい」と述べた。

地域課題をデジタルで解決する
「とちぎデジタルハブ」も始動

地域課題をデジタルで解決する仕組みである「とちぎデジタルハブ」については2021年10月にホームページを開設。 ネット上で誰もが課題を投稿、閲覧できるようになっている。投稿された課題については市町や企業、団体、大学など多くのプレーヤーが連携協働して課題を深堀りし、デジタルによる解決手法を検討していく。11月末までに投稿された課題は9個。例えば、ユネスコ無形文化遺産に登録されている日本一の野外劇「山あげ祭」の有効活用による地域の活性化、河川などにおける迷惑駐車やごみの不法投棄などオーバーツーリズムへの対応などだ。これらについて福田氏は「なるべく早く解決の糸口を見出したい」と話す。

県内で盛んなイチゴ栽培をはじめとする農業も、DXによる効率化が期待される分野だ

一方、県庁内のDXに向けては、県民、企業がより便利で豊かな社会をめざすコンセプトのもと「とちぎデジタルスイッチ」を策定。これに基づきRPAやAI-OCRなどのICTツールの積極的な導入をはじめ、デジタル県庁の実現に向けた取組を展開している。2021年度に、デジタル技術を活用した最適な業務環境を実現するための調査を行ったところ、年間総業務時間1000万時間のうち約3割にあたる300万時間を定型的な業務に費やしているとの分析結果を得られたという。この定型的業務は、ICTツールなどによる効率化が見込めるものだ。

「まずは照会・回答業務や予算・決算・監査の資料作成業務など、全庁的に波及効果の高い業務から改革に取り組むことで業務の効率化を進めていきたい」と福田氏は意欲を語る。

具体的なDXの取組としては、2022年度末までに県民の利用頻度が高い行政手続のほぼ全てについてオンライン化を進めるとともに、2021年度から県民にとって利便性の高いと思われる業務にチャットボットを導入し今後継続的に拡大していく。

NTT東日本と連携し、実証から社会実装へ

ウェビナーでは、福田氏の講演に続き、NTT東日本 栃木支店長の小林博文氏が同社と栃木県との取組について紹介した。2020年度から様々な実証実験に取り組んでいるところで、その一例が災害時の情報伝達について、オートコールシステムを使って自動的に各家庭の電話や携帯電話に災害時の情報を伝える実証。「今後、社会に実装することで災害時の貢献に取り組んでいきたい」と述べた。

また、全国的な事例として、山梨市における農業の生産性向上の取組や、北海道帯広市での畜産業における課題解決ソリューション事例を紹介。「栃木県にとって重要な産業である一次産業を支える手法についてもこれから連携して取り組んでいきたい」と今後について展望した。

福田氏は栃木県における今後のDXの方向性について、課題をふまえた取組を推進して行くことを明らかにした。県内の自治体からは「既存の業務システムの肥大化、複雑化、ブラックボックス化のためにシステムの標準化・共通化が進まない、各種システム間のデータ連携ができない」などの課題が挙がっており、12月に県と県内全25市町が共同で設置した「デジタル社会形成推進研究会」などの活用により効果的、効率的な取組につなげられるよう検討を進めていく。

民間企業からは、「DXに取り組む機運が醸成されていない」「工程の業務量を削減できた分、別の業務をすることによって企業がより成長できる計画までを作ることが必要」などの課題が挙がっており、「とちぎビジネスAIセンターなどを拠点に個々のニーズに合わせた支援を実施し、課題解決に取り組んでいきたい」と述べた。

今回のウェビナーでファシリテーターを務めた事業構想研究所教授の河村昌美氏は「解決策を作るには問いを作ることがまず大事。それを把握するところから始めていることから、将来の大きな成果が期待できます。複雑多岐にわたる地域の課題を解決するには様々な主体による共創が不可欠であり、共創を具体的に進めるには目的の共有や対話の場、システムづくりが欠かせない。そこまで目を行き届かせているところに可能性を感じます」とまとめた。

 

お問い合わせ先


東日本電信電話株式会社
自治体DX会議事務局
entaku-ml@east.ntt.co.jp

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。