東京都の構造改革「シン・トセイ」 デジタルの力でQOSを向上

東京都は2020年から、デジタルトランスフォーメーション(DX)をてこにした構造改革を進めている。今年2月には、都民へのデジタルサービスの質向上を目指した「シン・トセイ2」を公表。ネット上で行政サービスを利用できる「バーチャル都庁」の実現も目指している。

宮坂 学(東京都 副知事)

世界主要都市との比較調査で
デジタル化の遅れが明らかに

東京都は2020年8月に都政の構造改革を開始し、2021年3月には「シン・トセイ 都政の構造改革QOSアップグレード戦略」を策定した。さらに今年2月には、「シン・トセイ2 都政の構造改革QOSアップグレード戦略 version up 2022」を公表し、改革を続けている。

東京都副知事の宮坂学氏は、「都庁では最近、QOS(クオリティ・オブ・サービス)という言葉がよく使われます。『シン・トセイ』はDXをてこにした構造改革を進め、デジタルの力で都政のQOSを向上させます。現在の『シン・トセイ2』では2025年度を目標に、毎年必ずサービスを前年より向上させようと取り組んでいます」と説明した。

都庁では2021年末、世界の主要5都市(ニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポール、ソウル)の住民を対象に、行政のデジタルサービスに関するWebアンケートを実施した。その結果、デジタル化された行政手続の利用率や、行政のデジタル化に関する満足度において、いずれも東京都が主要5都市を下回るとわかった。デジタル化に関する総合満足度は、主要5都市の平均が63%だったのに対し、東京都では25%と低かった。

一方、都庁の職員に対するデジタル環境への満足度に関する調査では、昨年は「不満」という回答が54%に上った。「都庁の職員がデジタルツールを便利に使って働けない限り、質の高いデジタルサービスの提供はできません。そこで様々な改革に取り組み、今年の調査では『不満』という回答が32%まで減ってきています」。

2025年までに「バーチャル都庁」を
作ることが目標

「シン・トセイ」における改革のキーワードは、①スピード(デジタルを駆使し、スピード感を持って課題を解決)、②オープン(民間企業や市民、市区町村など多様なプレーヤーと共創)、③デザイン思考(ユーザー目線に基づく政策・サービスを創出)、④アジャイル(確認と改善のプロセスを絶えず繰り返す)、⑤見える化(指標を数値化し公開するなど改革の達成状況を可視化)の5つだ。

具体的には、まず都政の構造改革を進める上で改革の突破口となる、7つの全庁横断的なコアプロジェクトを進めていく。「デジタルシフト(行政サービスのデジタル化)」に関しては、①行政手続のデジタル化、②ペーパーレス・はんこレスなど「5つのレス」がある。

そして「オープンガバメント(協働による社会課題の解決)」に関しては、③オープンデータ、④スタートアップ・シビックテックとの協働推進がある。さらに「ワークスタイルイノベーション(都庁内部の生産性向上)」に関しては、⑤オフィス改革、⑥内部事務改革、⑦組織・人材改革がある。

他には、各局の事業におけるサービス提供のあり方や、仕事の進め方を改革する「各局リーディングプロジェクト」も実施している。2022年度は都庁全体で、48の取り組みに着手した。例えば、先端技術の社会実装に関する15のプロジェクトでは、5Gを活用したサービス等の早期実現や、島嶼(とうしょ)でのデジタル教育、遠隔医療などに取り組んでいる。

また、防災対策のDXに関する6つのプロジェクトでは、河川監視カメラの増設、人工知能(AI)による水位予測、水防災・高潮防災情報の発信強化などを進めている。このほか、「伝わる広報」への転換に関する7プロジェクトを実施。予算や決算情報のダッシュボード化、都のホームーページの「バーチャル都庁窓口」への再構築などに取り組んでいる。

洪水の被害を軽減するため、河川監視カメラを増設し、映像をリアルタイム配信している

「都民に対する行政サービスでは、まだデジタルを使っていないケースが多くあります。デジタルの力を使えばその分、サービス品質が向上します。例えば、各種証明申請のデジタル化や都有施設のキャッシュレス化を進めていく方針です」。

さらに2025年までに、「バーチャル都庁」を作ることも目標に掲げている。 

「バーチャル都庁構想が実現すれば、都民は都庁の窓口まで行かなくても仮想空間にアクセスするだけで、すべての行政サービスの申請や相談ができるようになります。また、職員も在宅勤務で、仮想空間ですべて仕事ができるようにするのが、おそらく正しい進化でしょう」。

職員が情報環境の改善を
要望できる「提案箱」も

「シン・トセイ」でDXをてこにした様々な改革が進む中、都庁では現在、職員がノーコード/ローコードツールを使って、自らアプリ作成に取り組むことも増えているという。例えば、豊洲市場における水産物の衛生監視業務では、現場の職員とデジタルサービス局の職員が組んでアプリを作成した。

豊洲市場における水産物の衛生監視業務にタブレットを導入した

「従来は現場で紙とペンを使ってメモを取り、事務所に持ち帰って入力していました。今は、タブレットを使った現場での入力によって、リアルタイムでデータをクラウド上に蓄積できるようになっています。誰かが自らデジタル化を進めると、それを見た他の職員も『自分にもできそうだ』と考え、道具を使ってデジタル化を進めるようになります。このようなサイクルが今、少しずつ起き始めています」。

一方、都庁のイントラネットには「デジタル提案箱」のコーナーを作り、職員から具体的に、「情報環境をこう変えて欲しい」という要望が寄せられる仕組みも作っている。すべての要望に応えられるわけではないが、可能な限りの改善を進めることで、都庁の情報環境はかなり変わった。職員に「言えば聞いてもらえる」というという手応えを与え、より多くの提案につながることを期待している。

改革には時間がかかるものだが、特に組織文化の改革は困難が大きい。宮坂氏は「職員の考え方を完全に変えるには、5~10年は必要です。やっていて楽しければ続き、続けば結果が出ます。そのためには職員が『デジタルを覚えると楽しい』、『サービスをお客様に褒められて嬉しい』といったことを、小さくても良いので積み上げていくことが大切だと思います」と語った。

 

宮坂 学(みやさか・まなぶ)
東京都 副知事