「モバイル空間統計」による災害対策 データ活用で未来に備える

ドコモ・インサイトマーケティングの「モバイル空間統計」は、「いつ」「どこに」「どんな人が」いたかがわかる人口統計だ。ドコモの基地局位置情報をもとに確かな技術で推計した統計情報で、防災のほか観光施策や広告にも活用できる。

ドコモ・インサイトマーケティング 星合 秀宣氏

内閣府の「デジタル・防災技術ワーキンググループ」の「社会実装チーム」と「未来構想チーム」は2021年5月に提言を公表した。その提言では「デジタル技術をフル活用し、災害対応力を飛躍的に向上させる」ことや、災害時には「短時間で現在状況の的確な推測や被害推計を行い、不完全な情報から可能な限り全体像を把握していく」ことの必要性が指摘された。

圧倒的なサンプルサイズで信頼度の高い統計を可能に

「内閣府の提言は、データを普段から運用し、その取り組みの中で災害に備えるというものです。そして有事には、短時間で全体の状況や被害の規模を把握します。このような平時と有事における対応は、私たちの『モバイル空間統計』が得意とする分野です」。

ドコモ・インサイトマーケティングの星合秀宣氏は、こう語る。同社が提供する「モバイル空間統計」は、「いつ」「どこに」「どんな人が」いたかがわかる人口統計だ。人口に対するドコモ携帯電話端末利用者数の割合から、対象エリアの人口を推計するサービスで、国内約8200万台(2021年3月時点。法人名義の契約データを除く)や、訪日外国人のモバイル端末の運用データを活用している。サンプルサイズが非常に大きく信頼度の高い人口統計であることから、官公庁や民間企業で広く利用されており、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)対策のウェブページにも掲載されている。

図1 官公庁などで利用が広がる

内閣官房 新型コロナウイルス感染症対策のウェブページで「モバイル空間統計」が活用されている

出典:内閣官房ホームページ

「圧倒的なサンプルサイズで人口を推計するため、データの精度は非常に高いです」と星合氏はいう。

災害発生時の対応や防災計画の策定に

防災に関するこれまでの活用事例では、2018年6月18 日午前8時頃に発生した大阪府北部地震がある。この時間、平常時は大阪駅に滞在する人口が増えるのに対し、発災時はその数が大きく下がり、他のエリアに分散したことが把握された(下図2)。

図2 大阪府北部地震の際のモバイル空間統計による人口推計

内閣官房 新型コロナウイルス感染症対策のウェブページで「モバイル空間統計」が活用されている

大阪府北部地震発生日の14時(右図)の大阪都心部の人口は、平時と比較して少なかったことが明らかになった

 

一方、同日午後2時台には大阪北部に人口が滞留しているとわかり、通勤・通学ができない人が多いという実態が明らかになった。「モバイル空間統計ではさらに、それらの人たちの居住地データを使って深掘りすることも可能です。その結果に基づき、各地域における対策や支援の必要性が見えてきます」。

他方で、モバイル空間統計は将来、発生が予想される災害の被害想定の分析にも活用できる。例えば、首都圏直下型地震が起きた場合、どれだけの帰宅困難者が発生するか、どの地域で発生するかといった予測もできる。

内閣府による帰宅困難者の定義では、「自宅から10km以内は帰宅可能」「10km以降は1kmごとに10%ずつ帰宅困難者が増加する」「20km以上自宅が離れている人はすべて帰宅困難者」とされている。この定義に従い、モバイル空間統計を使って推計すると、例えば、埼玉県内で発生する帰宅困難者数は74.7万人になる。また、主要駅の大宮駅周辺では3.4万人が、県外の東京都千代田区で帰宅困難者となる埼玉県民は11万人と推計される。

モバイル空間統計を活用すれば、内閣府が定義する帰宅困難者よりも、更に緻密に想定することができる。例えば、性別や年代の情報を活用すれば、若者は自宅までの距離が遠くても帰宅ができるが、高齢者は近くても難しいなどの想定だ。更には、モバイル空間統計は、居住地以外に勤務地の情報も持っているため、被災者の滞留しているエリアと居住地/勤務地の距離から、被災者のうち自宅に帰る人だけでなく、勤務地に戻る人をも分けた帰宅困難者数の推定が可能である。

被害想定は24時間・365日どの時間においても把握することができ、推計に基づき食料や飲料水、毛布などの備蓄場所と必要量、一時滞在施設の必要数、徒歩帰宅ルートの整備や迂回路の設定といった様々なシナリオを想定した対策の策定が可能になる。

観光施策の効果測定や広告のエリア選定にも

スマートフォンユーザーの位置情報を把握する方法はいくつかあるが、正確な分析や的確な対策のためには、それぞれの特徴を知る必要がある。「位置情報は大きく2種類のデータソースがあり、モバイル空間統計の基地局位置情報と、GPS位置情報がある。特に防災分野ではどこにどれだけの人がいるのかという統計的な精度の高い正確な情報に基づき計画を策定する必要があるため、モバイル空間統計による分析が必要とされています」。

その主な理由としては、第1に、GPSの位置情報はスマートフォンのアプリをダウンロードした人たちの情報となるため、サンプルは多くても数百万と、基地局位置情報に比べ1桁少ない。また、アプリやスマートフォンの利用が少ない高齢者の存在が把握しにくくなる。

第2に、アプリの利用者が位置情報へのアクセスを「許可しない」、または「アプリの使用中のみ許可する」という設定にした場合、位置情報の把握は難しくなる。さらに端末の電力消費を減らすため、GPSの使用をオフにする機能もあり、これを利用している人たちもいる。これに対し、

「モバイル空間統計は、携帯電話の電源が入っているだけでサンプル対象になり、圧倒的なサンプルサイズを基に確かな手法で推計できます。さらに、モバイル空間統計で提供される人口マップではリアルタイムで推計人口を把握でき、新型コロナウイルス感染症の影響で日々、変化する生活様式にも合った防災計画や災害対策に活かせます」。

このような、防災に活用できるデータは、平時には観光施策の効果測定や広告宣伝のエリア選定などに使うことも可能だ。特に今後、新型コロナウイルス感染症の収束に向けて観光誘客を考える際に、有効な情報をモバイル空間統計から取得することもできる。

「例えば、あるエリアに他県からどのような人たちが訪れていたのかというボリュームを見て、数が多い層の誘客を図ることも可能です。さらに、そういったエリアの選定や効果測定にも十分、ご活用いただけます」。

 

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