自治体テレワーク、推進のポイント 総務省
行政のデジタル化やコロナ禍での業務継続に向けて、テレワークを中心とした自治体職員の働き方改革の実現が急務だ。地方行政のテレワークの現状や、推進時のポイントについて、総務省の藤井将邦氏が解説する。
市区町村での推進が課題
専門家無料相談などの有効活用を
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、複雑・多様化する行政ニーズへの対応、厳しい財政状況などを背景に、自治体では職員の多様な視点や発想の活用や、限られた職員数での業務対応が求められている。その際に重要なのは、男女や年齢を問わず優秀な人材を確保し、育児や介護などで時間的制約のある職員も活躍できる職場をつくることだ。自治体は、人事管理面の変革とともに働き方改革を進め、誰もが活躍できる職場を目指す必要がある。
「時間や場所を有効活用できるテレワークは働き方改革の切り札と考えられています。特に、コロナ禍での対策として、出勤を抑制して職場での3密を回避するため、テレワークの必要性・有効性が注目を集めたところです」と総務省自治行政局公務員部公務員課女性活躍・人材活用推進室長の藤井将邦氏は話す。
「自治体がテレワークを推進することで、職員1人1人の多様な働き方の実現はもちろん、当たり前のように行っていた業務をテレワークで見直すことで、業務効率化や行政サービスの質の向上も期待できます。災害発生や感染症蔓延防止における行政機能維持にも有効です」
ただ、全国の自治体でテレワーク導入が十分に進んでいるとは言い難い。総務省の2020年10月の調査によれば、都道府県と政令指定都市は95.5%が導入しているが、市区町村での導入は19.9%に留まっている。「市区町村、とくに小規模団体での導入が課題です。未導入団体へのアンケートによれば、業務がテレワークになじまない、情報セキュリティの確保に不安がある、導入コストがかかるといった課題が挙がっています」
こうした課題に対して総務省は様々な支援を行っている。まず、導入コストの課題では、「地方公務員向けテレワーク導入経費に係る特別交付税措置」により、ICT機器導入などをサポートしている。また、自治体等に対して専門家が無料でテレワークの導入手順やセキュリティについて相談に応じ「テレワークマネージャー事業」を実施している。
2021年4月には、「地方公共団体におけるテレワーク推進のための手引き」を公表。特に市区町村でのテレワーク導入・活用の参考になるよう、導入事例や活用のノウハウを取りまとめた。
スモールスタートから挑戦を
首長のリーダーシップも重要に
自治体がテレワークを推進する際のポイントとして、藤井氏は以下の3つを挙げる。
まず、テレワーク=在宅勤務というイメージから脱却すること。「在宅勤務にこだわると、庁内ネットワークにリモート接続ができないなど、導入のハードルが上がってしまいます。勤務地以外の拠点で業務を行うサテライトオフィス勤務や、外出先や出張先でモバイル端末等で業務を行うモバイルワークも、テレワークの形態のひとつです。例えば、すでにネットワークとPCが整備済みの支所や公民館を本庁勤務職員向けのサテライトオフィスとして活用するケースが考えられるでしょう。それぞれの形態の特徴を踏まえて、導入するテレワークを検討する必要があります」
次に、スモールスタートで始めること。「全組織、全職員がいきなりテレワークをしようとすると大きなコストが発生します。特に、窓口対応や現場業務が多い市区町村ではテレワークができないと諦めてしまいがちです。そうではなく、企画部門や内部管理部門など、対象者や対象部門を限定して試行し、効果と課題を検証しながら本格実施へ移行すべきです」
最後が首長のリーダーシップだ。テレワークの推進では、全庁横断的な推進体制づくりとプロジェクトチームの立ち上げが不可欠であり、首長がテレワークの重要性を正しく認識し、強力なリーダーシップを発揮することが重要である。
テレワーク推進のポイント
「地方公共団体におけるテレワーク推進のための手引き」はテレワーク導入について〈図〉のとおり10のステップに分けて実施すべきことや留意点をまとめている。以下では特に重要なポイントを解説する。
図 自治体におけるテレワーク導入のステップ
ステップ3の「試行段階の環境整備(ハード面・ソフト面)」では、リモートアクセス・Web会議・チャットツール等を組み合わせた方策の検討の必要性に加えて、紙資料の電子化や共有フォルダへの保存を併せて行うことの重要性を指摘している。また、この段階では必ずしもイントラネットへのアクセスを前提とする必要はないこと、支所や公民館などネットワーク環境整備がしやすい場所をサテライトオフィスに活用することなど、スモールスタートでの取り組みを推奨している。
ステップ4の「試行」段階では、実施するテレワークの概要や導入目的、留意事項などを事前に職員に周知することや、課題と効果を検証するために十分な期間を設定することの重要性を強調した。「特に管理職にも試行に参加してもらうことが大切です」と藤井氏。ステップ5の「検証」では、職員の立場(管理職、育児・介護に携わる職員等)ごとにアンケート調査やヒアリングを実施するべきとした。
試行・検証を経てステップ10「本格実施および中長期の展望検討」に至った場合は、職員の声を聞きながらテレワークの制度・ルール(実施方法や対象範囲など)に関する見直しを行うことや、自治体DX推進計画の取り組みの進捗に合わせてテレワークの拡大に向けた中長期的な展望を検討すること、課題と効果を検証しながら不断にPDCAサイクルを回していくことなどが必要である。
また、テレワークの対象とする業務の整理・検討を行う際には、導入のしやすさのレベルに分けて段階的に対象業務を拡大していくことが重要である。「手引きの制作にあたって、先進的な団体にヒアリングを行い、テレワークをうまく活用できた業務とそうでなかった業務や、テレワークを活用するために実施した工夫を調査しました。手引きでは4つのレベルに分けて業務へのテレワークの導入しやすさや推進のポイントをまとめていますので、これも参考にしながら、各自治体で対象業務の精査を進めて頂きたいと思います」
テレワークの実施にあたっては労務管理の方法にも工夫が必要になる。手引きでは、労働時間の管理、業務中のコミュニケーションのあり方、公正な評価のあり方という3つの課題について、どのような工夫が考えられるのか、民間企業の取り組み事例などを紹介しつつ解説している。このほか手引きでは、先進的な自治体の取り組み事例も紹介している。
「コロナ禍を経て、テレワークはますます当たり前になっていくでしょう。総務省では引き続きテレワーク推進に向けて、自治体の取り組みに対する支援を行ってまいります」と藤井氏は語った。