真のDXとは「やり方」のイノベーション、実行人材をどう育てる

自治体DXの必要性が叫ばれる今、本質的な実践のためには何をすべきだろうか。コンピュータ・サイエンスの界的権威である坂村健氏と、多くの自治体のDXを支援するシスコシステムズ・仁王氏によるトークセッションでは、業務改革DX人材育成の重要性が語られた。

真のDXとはデジタルによる
やり方のイノベーション

コロナ禍という危機的状況において、自治体DXの加速が迫られている。日本ではデジタル化やIT化との誤解もあるが、「DXの本質は技術ではない」と話すのは、コンピュータ科学者でINIAD(東洋大学情報連携学部)学部長の坂村健氏だ。

坂村 健 YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長

坂村氏は「進んだ情報通信技術を活かし、産業プロセスはもちろん、私たちの生活、社会、企業、国家などすべてを見直し、やり方レベルから根本的に変える姿勢こそが真のDXです」と説く。

たとえば、新型コロナの検査件数を報告する際に、FAXから電子メールに移行することは、今までのやり方を電子化したに過ぎない。対して、報告が必要という方法そのものを見直し、すべての検査データをクラウドに集積すれば常時状況を把握できる。

「前者が日本式の『カイゼン』、後者はやり方自体を大きく変える『改革』です。業務プロセスをデジタル技術によって最適化するという意味で、DXはイノベーションに重きが置かれているのです」

日本におけるDXの課題は大きく2つある。1つは人材育成だ。坂村氏によれば、米国では社内でICT開発できる企業が全体の50%を占めるが、日本では10%にも満たないという。

「業務の問題がわかるのは、その業務に従事している現場の人。それゆえ、組織内でIT人材を育成する必要があります」

2つ目は意識改革。DXに成功している国には、デジタル技術を活用して社会をよりよく変えるというマインドが国民全体に浸透しているという共通点がある。その代表例がシンガポールだ。坂村氏は高速道路のETCを例に、日本との違いをこう説明する。

シンガポールではETCのない車が公道を走れなくなったことで社会的コストの低減が実現された。
国民全体のマインドを変え、時代に合わせた人材を育成していくことが重要だ

「日本では全車両にETC搭載を義務づけていないため、いまだに人による料金収受業務が発生するなど、経済的に大きな損をしています。一方、シンガポールでは、法改正でETCを付けていない車は公道を走れないとしたため、料金収受の人員が不要になっただけでなく、量産効果でETCを安く生産することができました。国民のマインドセットが変われば、社会全体のコストを大きく下げられるのです」

日本のDX推進において、最大のキーワードになるのが「オープンの力」だ。日本の組織はとかくクローズになりがちだが、「行政保有のデータをオープンにし、民間にどんどん使ってもらい、イノベーションを起こすことが重要です」と坂村氏。

行政DXには制度面の課題が多いことに触れ、「マイナンバーも、一部の行政サービスだけでなく民間に開放してさまざまサービスに活用できるようになれば、真のDXが進むでしょう」と語った。

デジタル人材育成など
自治体DXを包括的に支援

米国に本社を置き、海外および日本でシェアナンバー1のネットワークベンダーであるシスコシステムズ。DX領域における豊富な知見と経験を元に、自治体の課題に合わせ柔軟なネットワークソリューションを提供してきた。

「京都府のスマートシティ構想では、周遊環境やエネルギー・防犯対策を目的に、スマホやSNSとの連携が可能なデジタルサイネージと、遠隔操作で照度などを調整できるスマートライティングを全15カ所に設置しました。これらの知見を活かし、現在はデータ駆動型スマートシティに向けて加速しています」と公共事業統括部長の仁王淳治氏。東京都のTOKYO Data Highway基本戦略では、スマートポールの実証事業に参画していることにも言及した。

仁王 淳治 シスコシステムズ 執行役員 公共事業統括部長

コロナ禍で顕在化した自治体の課題の中でも、特にシスコが重要だと考えているのが人材育成だ。シスコでは外資系IT企業ならではの働き方や人材育成を知ってもらうため、6年前から自治体職員を受け入れ、デジタル人材の育成を支援してきた。

仁王氏は「シスコでの業務を通じ、所属自治体に何らかの学びや経験を持ち帰ってもらえたら」と思いを語り、「人材育成支援はもちろん、多様なエコパートナーシップ、インフラ技術の提供、利便性と安全性の両立をキーワードに、誰一人取り残さないデジタル社会の実現に向けた取り組みを展開していきます」とまとめた。

マインドを共有し
組織全体を巻き込んだ改革を

続くトークセッションでは、何からDXを始めるかについて意見が交わされた。

坂村氏は、DXを体系的に学べる書籍や講座を活用し、最低限の知識やスキルを習得することが必要だとしたうえで、「トップが強いコミットメントを持ち、目標を提示することで、組織全体の意識を変えていくことが大切」と話した。

仁王氏はこれに頷き、「他自治体の事例など、外から得られる知識は大きな刺激になる」と示唆する。ただし、自治体ごとに課題が異なるため、成功事例を真似るだけでは失敗に終わりやすいとも述べ、「自分たちの自治体に何を取り入れどう進めるべきかを、現場職員から幹部まで含めて議論し、共通理解を形成することも大切なプロセスです」と続けた。

サイバー攻撃が年々増加する中、インシデントを未然に防ぐためにも、CIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)の存在も必要となる。しかし、組織内の上役だからといって、技術がわからない人を責任者に据えるのは本末転倒だ。

坂村氏は「情報通信技術の専門家を育て、責任者とする体制を整えることがベスト。それが難しいなら、ある程度の投資は必要経費として専門家に委託すべきでしょう」と話した。

これを受けて仁王氏は「ネットワークは生き物。トラフィック量やフローを可視化し、状況を常時把握することで、CIOがその責務を果たせるようになります」と述べた。

日本の組織ではIT人材の不足が課題だが、「どんな組織でも1%程度はデジタルに親和性の高い人材がいるもの。新規採用はもちろん、既存職員もリカレント教育でDXの力を身につけることが重要です」と坂村氏。DXの主眼は技術ではなく、業務改革に置くべきだとし、現場の職員が主体的に今までのやり方をどう変えるかを考えなければならないとも語った。

仁王氏も「ベンダーに丸投げでは、ノウハウが蓄積されない」と指摘し、「人材交流を重ねる中で、職員の方が刺激を受けながら技術を学べるよう、私どももサポートしてまいります」と結んだ。

 

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