持続可能都市へ産学官連携で人材を育成 山形市で研究がスタート

山形市とモリサワ、事業構想大の3者が、「やまがた創生プロジェクト研究」を始動した。研究会を通じ、「山形市の経済の活性化及び創造都市の推進」をテーマに、企業の新規事業創出支援と中核人材育成を行う。モリサワによる企業版ふるさと納税を活用し、事業構想大と連携して研究を進めていく。

持続可能性を支える
2つのビジョン

――佐藤市長には市政運営に当たっての考え方、森澤社長には業態変革の歴史について伺いたいと思います。

佐藤 2015年に市長に就任して以来、人口減少社会における地域振興を最大の課題として、「持続可能性」のまちづくり、すなわち山形市が生き残るにはどうすべきかを常に念頭に置いて市政に当たっています。その前提として、雇用、医療、教育などの都市機能の根幹の維持が欠かせません。市が持つ地域資源を生かして何ができるかを考え、「健康医療先進都市」「文化創造都市」という2本のビジョンを掲げました。

佐藤 孝弘 山形市長

健康医療先進都市を目指すための地域資源としては人口当たりの病院・診療所数の多さと山形大学医学部の人材があります。2019年に中核市に移行したことで市の組織となった保健所をシンクタンクとして活用し、市民の健康傾向を分析し、健康寿命延伸に貢献したいと考えています。具体的には独自の唾液検査による歯周病検診事業などを始めました。

文化創造都市につながる地域資源としては、世界有数のドキュメンタリー映画祭である山形国際ドキュメンタリー映画祭を30年以上に渡り開催しており、東北で最も古い交響楽団の 山形交響楽団があります。東北芸術工科大学はリノベーションによるまちづくりに取り組んでおり、リノベーションによってオフィス、店舗の誘致につなげています。また、2017年には「ユネスコ創造都市ネットワーク」のフィルム分野で加盟認定を受けました。

山形国際ドキュメンタリー映画祭は、市制100周年に当たる1989年に始まった。以降隔年で開催されている

昨日と同じことをしているだけでは前に進みません。地域で行われている文化・芸術活動に価値を見出し、経済を活性化し、持続可能性につなげていきたいと考えています。

業態変革を繰り返し、
フォントメーカーへ

森澤 当社は創業者が1924年、莫大な活字をそろえないといけない活版印刷の業務改善を考え、世界に先駆けて邦文写真植字機を開発したことに端を発する機械メーカーとして始まりました。当初は活字メーカーから文字を提供してもらっていましたが、機械の製造・販売だけでなく自社でも文字の開発をするようになりました。その後、専用のコンピュータと文字を並べるソフトウェアの開発へ業態を変えていきました。

森澤 彰彦 モリサワ代表取締役社長

さらなる転換期は1986年、PDFで知られるアドビの日本進出時に日本語の2書体を提供しました。これをきっかけに、デジタル化した文字(フォント)の開発へ業態を変えることとなります。なぜなら皮肉なことにアドビによって、これまで当社のビジネスの主戦場であった写真植字機に取って代わられたからです。ただ、そのおかげで文字という資産を活かした現在のフォントビジネスに移行することができたのです。

印刷、出版、デザイン会社が従来のマザーマーケットでしたが、現在は文字の技術を携帯電話やカーナビなどの新たなメディアやアプリケーションにも提供しています。文字のフォントに意識を向ける人は少ないかもしれませんが、見慣れた文字が変わると敏感に気づくものです。文字が変わることで読むスピードや可読性の向上にもつながります。誰にとっても読みやすい文字のユニバーサルデザイン化を進め、社会に貢献できる価値を追求したいと考えています

私の座右の銘は温故知新です。過去の経験や出来事があってこそ今の事業があるわけで、今後も自分たちで事業を更新して新しいマーケットを創っていかなければならないと思っています。

佐藤 近年子どもが安心して遊べる施設が少なくなってきていることを受け、市内2カ所目の屋内児童遊戯施設を整備しました。インクルーシブな施設をコンセプトに掲げ、どのようなお子さんも分け隔てなく一緒になって遊べる施設にしています。ユニバーサルデザインを意識した経営をされているモリサワさんにはそのような視点からもアイデアをお借りしたいですね。

多様な連携から生み出される
新しい価値

――今回「やまがた創生プロジェクト研究」により実現した両者の連携に期待することは。

森澤 当社も米国に、ネット上でスタートアップ企業のブランディング支援サービスを行う社内ベンチャーを立ち上げているのですが、新しい事業を起こすにあたって、そのための人材をどのように育て、定着させるかが企業にとって大きなテーマの1つです。我々が機械メーカーから出発して、コンピュータを使ったソフトウェアを作り、文字を中心にしたビジネスに転換したイノベーションの経験を、新事業創出に当たってのヒントとして提供できるのではないかと考えています。

また、世界で科学・技術・工学・芸術・数学の頭文字を取ったSTEAM教育が重視されていますが、その1つArt(芸術)の分野で何か貢献できるのではとも考えています。一方で、研究で知見を得る立場としては、業界や世代の異なる方々との交流の中で、普段得られない事業展開のアイデア、視点が得られるものと期待しています。

佐藤 山形市では近年、移住者が新しい事業を始めるケースが増えています。また、山形県は京都府に次いで2番目に老舗企業出現率が高く、事業承継をきっかけに新しい事業に取り組む事例も目立ちます。このプロジェクトが新規創業や第二創業、社内ベンチャーなどを推進するきっかけになることも期待しています。

――今回の取組を今後どのように生かしていきたいと考えておられますか。

佐藤 行政だけで施策を完結できることは少なくなってきています。山形市においては、これまでも様々な企業と協定を結び、例えば資生堂、リディラバと連携した女性活躍推進の取組などを進めています。今回のプロジェクトもきっかけにしながら企業、市民、大学と連携をさらに強め、最終的に市民の幸福、市の持続可能性を実現したいと考えています。

森澤 「文字を通じて社会に貢献する」という社是を実践し、世の中の皆様の幸せに貢献することが当社の最終目的です。新たな視点を持つ皆さんと連携することで我々自身も成長し、社会貢献につなげていきたいと思っています。

※文字のかたちがわかりやすく、読みやすく、読み間違えにくいことをコンセプトに開発したモリサワの「UDフォント」に関する詳細はこちらhttps://www.morisawa.co.jp/products/fonts/ud-public/