広報の定義から考える 広報・コミュニケーションの学びのあり方

広報プロフェッショナルを養成する社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科。今回は、日本広報学会が6月に発表した「広報の定義」のポイントと共に、研究科で学修する内容について解説する。

日本広報学会の「広報の定義」

広報・コミュニケーション戦略を専門とする国内唯一の専門職大学院「社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科」の社会人院生は、日々「コミュニケーションの本質」を捉えるための学びに取り組んでいる。この分野では最近大きな出来事があった。

日本広報学会は2023年6月に「広報の定義と解説」と題した文書を発表した。

情報化の進展に伴い社会課題が複雑化し、業務が拡大しつづける現状においてなお、広報・コミュニケーション担当者の専門性はOJTを通じて組織ごとに醸成されることがほとんどだ。したがって、組織ごと、場合によっては部門ごと、個人ごとに「広報」の定義や考え方が異なる状況があったが、そのなかで最大公約数的な考え方が示されたのは画期的なことといえる。同学会が定義の発表までに2年もの期間を要したことは、国内においていかに「広報の定義」が拡散していたかを示唆している。

経営機能としての広報

結果として同学会は広報を「組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である」と定義づけた。ここに至った経緯は前述の文書をご参照いただくとして、ここで明らかに重要なのは、「経営機能である」という箇所だろう。この定義は「組織の事業遂行や持続発展に不可欠な要素」として広報の仕事を位置づけているのである。「経営」というと民間企業だけを念頭に置いているように思えるかもしれないが、もちろんこれは公共セクター等の主体にも当てはまる。

そしてこのことは「広報・コミュニケーションの学び」に対して2つのことを暗示している。すなわち、それが「テクニックを身につけることとイコールではない」こと、そしてそれが「経営者目線の修得と不可避的に結びつく」ことだ。

前者について、これまではたとえば「魅力的な社内報をつくるための技法」や、「SNSをうまく運用するためのノウハウ」といった事柄こそが広報担当者が学ぶべきテーマだと考えられてきた。しかしながら、広報が経営機能なのだとすれば、「広報上の課題」とは「経営課題」であるはずだ。つまり、「社内報をつくることでどのような経営課題を解決したいのか」、あるいは「SNSを使うことでどのような経営機能を果たすことができるのか」という視点があってはじめて、これらが有効に機能しうるということである。広報・コミュニケーションの担当者は従来より1つ高い視座からの「課題認識」ができるようになる必要があるのだ。

そうだとすると後者の考え方─常に経営者の目線で自らの業務を大局的に捉えること─もまた、広報業務を進めるうえでは必要不可欠といえる。これは別の言葉でいえば「組織の理念を社会と共有するために広報がどのように貢献できるか常に自問すること」とも表現できるだろう。また、一般的に広報と経営を結びつけて考えられる経営者が必ずしも多くない実情に鑑みると、「組織内で対話を図るなかで広報業務の重要性を納得してもらう」こともきわめて重要だ。広報・コミ ュニケーションの担当者は、その仕事が自組織の経営上なぜ重要なのか、自らの言葉で説明できなくてはならないのである。

図  コミュニケーションデザイン研究科の「学位授与の方針」

具体的な学びのあり方

コミュニケーションデザイン研究科は、その「学位授与の方針」において、2年間の学修のなかで図に示す4つの到達目標を達成することを求めている。これらはまさに「経営機能としての広報」を理解し、実践するための礎となる能力といえる。

第一の「現代社会の動向や情報メディアの発展状況」については、多くの方がこれまでにも様々な形で学修を進めてこられたかもしれない。しかし我々のみる限り、「理論と実践の両面において」学んだ経験がある方は多くないと考えられる。本研究科のカリキュラムでは「現代社会論」、「デジタル・コミュニケーション」、「現代社会と人的資本」をはじめとする科目が、理論的な視座から実務や発想をアップデートする可能性を担保している。

第二は「理念を社会と共有する」ための前提となる能力だ。理念(ミッション、ビジョン、パーパス)とはいかなるものか、そもそも「会社」とはなにか、といった事柄を学ぶことが広報・コミュニケーション担当者にも求められていることは前述の通りだ。「経営学基礎理論」、「企業理念・経営哲学」、「組織論」、「コーポレート・コミュニケーション」といった科目は、経営と広報を接続する視点を修得する助けとなるだろう。

もちろん第三に掲げるように、具体的な広報・コミュニケーション戦略を身につけることも欠かせない。一方で、「インターナル・コミュニケーション」、「リスク・マネジメント」、「ブランド・コミュニケーション」、「サステナビリティ・コミュニケーション」といった科目はそれぞれ、前述の第一・第二の能力や視点を前提としてはじめて効果的に学ぶことができる分野であると考えられる。

そして第四に、本学ではこの分野のプロフェッショナルとして活躍するために欠かせない「課題発見・解決策提言能力」を修得するための科目を整備している。デザイン思考・アート思考・論理的思考や知識生産の技法を身につける「実践研究法」の授業や、多様な業種・業界の社会人が学び合うコミュニティとしての役割を担う「コミュニケーションデザイン演習」(ゼミ)での継続的な他者との対話は、日々の業務のなかで凝り固まった価値観を解きほぐしつつ、自社における広報の役割や自らの仕事について言語化するための一助となるだろう。

本研究科は、こうした一連の体系的な学びによってはじめて「テクニックを超えた広報・コミュニケーションの能力」、そして「経営者の目線で自身の業務を捉えるための視座」を身につけることができると考えている。ぜひ本学のホームページを参照いただき たい。

参考文献:日本広報学会(2023)「広報の定義と解説」

 

橋本 純次(はしもと・じゅんじ)
社会構想大学院大学 専攻長・准教授

 

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
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