リカレント教育と社会教育の交差点 学びのエコシステムを支える

リカレント教育と
社会教育が交わるところ

現代社会は急速に知識集約化が進み、誰もが人生のさまざまな局面で新たな知識や技術の習得を求められる時代となっている。そのような背景のもとで、社会教育とリカレント教育の接点が、ますます重要なテーマとして浮上している。

リカレント教育とは、スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーンが提唱した概念であり、「教育と就業を交互に繰り返す」ことによって、個人が生涯にわたって社会的・経済的変化に対応し続けることを目指すものである。日本でも文部科学省を中心に、その概念がキャリア教育やリスキリング政策と結びつき、働く人々の学び直しを支える枠組みとして注目されている。

しかしながら、ここで見落としてはならないのは、リカレント教育の実現においては、制度的な支援だけでなく、地域社会に根差した「学びの場」の存在が不可欠であるという点である。そこにこそ、社会教育が果たすべきもう一つの大きな役割が見えてくる。

「学びのセーフティネット」
としての社会教育

リカレント教育は、大学や専門学校における再教育プログラムのみならず、公民館でのパソコン講座、図書館でのキャリア支援講座、NPOによる地域セミナーなど、より身近で柔軟な学習機会によって実現されることも多い。むしろ、子育てや介護などのライフイベントによって時間的・経済的制約を抱える多くの人々にとっては、社会教育的な学びの機会こそが、リカレント教育の出発点になりうる。

たとえば、地元自治体の社会教育施設で開催される「女性のキャリア再構築講座」は、出産や育児によって一度キャリアを中断した女性にとって、新たな職業的選択肢やネットワークを得る貴重な機会となる。こうしたプログラムの背後には、地域課題に即した企画力と、参加者の潜在的なニーズを丁寧に汲み取る社会教育士の存在がある。

また、高齢者に向けたリカレント教育の一環として、地域の学び直し講座や大学の公開講座において「人生100年時代の学び」や「デジタルリテラシーの再獲得」といったテーマが取り上げられている。これは高齢者が社会的孤立を防ぎ、学びを通じて地域社会との関係性を再構築することにもつながる。つまり、社会教育が担う“学びのセーフティネット”としての機能は、単に知識や技術の提供にとどまらず、社会との接点を再び持つ「回復の場」としても重要なのである。

学びのエコシステムを支える
社会教育の可能性

このように、リカレント教育と社会教育は、形式的な制度設計という側面だけでなく、人々の生活に根ざした“生きられる学び”を支える基盤として、深く交差している。社会教育士や社会教育主事には、単に講座を提供するだけでなく、個々人のライフコースや社会的背景に応じた学びの支援設計が求められている。

加えて、こうしたリカレント教育と社会教育の連動によって生まれるのは、単発的な学習機会ではなく、地域社会全体が知識と経験を循環させる「学びのエコシステム」である。社会教育の強みは、制度に依存せず、地域の文化や人材を活かして多様な学びの場を編成できる点にある。この柔軟性と包摂性は、学校教育や企業内教育では担いきれない領域を補完し、誰もが学び直しながら生きていける社会の実現に寄与するものだ。リカレント教育が掲げる「繰り返しの学び」と、社会教育がもつ「生活に根ざした学び」との融合こそが、知識社会を支える実質的なインフラとなるのである。