自治体職員が知るべきデジタル活用法 デザイン思考とリテラシー
人手不足が深刻化するなか、複雑化する社会課題を解決するカギとなる自治体のデジタル化と、デジタル技術活用のポイントはどこにあるか。行政情報システム研究所の狩野英司氏が語る。
ユーザーの痛みに着目
日本中の各自治体では、人的・予算的制約が深刻化する一方で、行政課題は多様化・複雑化の一途をたどっている。
「こうしたなか、デジタル技術の活用を無視する贅沢は許されない状況となっています」と狩野氏はいう。
デジタルデータを処理する「ICT(情報通信技術)」に対し、データ処理を通じて多種多様な付加価値を創出するのが広い意味での「デジタル技術」と言える。その役割は、行政事務の合理化や利用者サービスの向上にとどまらず、幅広く複雑な社会課題の解決にまで拡がっていく。
デジタル技術を活用し、イノベーションを通じて新しい解決策を創発する場合、それが行政課題であるなら、「ユーザーの痛み」に着眼する必要がある。
例えば、三重県では「AIを活用した児童虐待対応支援」に取り組む。児童虐待相談対応件数の急増、児童福祉不足の深刻化に対応し、児童の状況を入力すると、AIが最適な対策とそれによる結果を予測するというものだ。
「虐待されている児童を一時保護するかどうかの判断は、経験の浅い担当者には大きな負担となります。この取り組みでは、『児童福祉司の不足』という痛みに着眼し、デジタル技術を活用したソリューションを提供しています」。
また、長岡市ではコロナワクチンの温度管理にAIカメラを導入しているが、これも、ワクチンを管理する職員の心的ストレスという痛みに着目したソリューションとなっている。
課題駆動型アプローチをとる
デジタル技術を活用した解決策の創発には、要素技術を前提にそれを適用できる課題を探索する「技術駆動型:テクノロジードリブン」ではなく、「課題駆動型:課題ドリブン」のアプローチが必要となる。
「課題駆動型アプローチには、課題を発見・特定する『デザイン思考』、解決手段となるテクノロジーを理解・活用できる『デジタルリテラシー』、課題や解決策の確からしさを知る『データサイエンス』の3つの要素が重要となります」と、狩野氏は指摘する。
自治体におけるデジタル技術の特長は、社会課題の解決に貢献できること。つまり、情報部門に限らず、すべての職員に参加の機会が開かれている。
自治体のデジタル化を推進していく上で基礎的な要素となっていくのが『デジタルリテラシー』。デジタル技術の理解として、基礎知識にはじまり、個人認証、クラウドやパーソナルデータを理解していくことが求められる。実際にキャッシュレス、オンライン取引、SNSといったデジタルサービスを使いこなせることが、広く自治体職員にとって重要になる。
「その上で、デジタル技術を活用し、社会課題解決のための付加価値を生み出していくには、ICTという部分に狭く閉じられた知識だけでなく、デザイン思考やデータ活用も含めた幅広い考え方が必要となります」。
起点はあくまでユーザーの痛み。課題駆動型のアプローチでデジタル技術を活用した新たな解決策を創発する。そのために必要な『デザイン思考』『デジタルリテラシー』『データサイエンス』を身に付けていく。これが今後、自治体職員がデジタル技術を活用していく上で必要となる基本的な考え方であり、心構えとなる。