加賀市×Zoom 庁内・地域間コミュニケーションの未来

自治体は庁内・地域間のコミュニケーションをどのように進化させていくべきか。DXやスマートシティ構想に取り組む加賀市と、行政と市民のコミュニケーションの更なる活性化、ニューノーマルな行政サービスの提供の支援に取り組むZoomがディスカッションした。

加賀市のDXと
スマートシティへの取り組み

セッションはまず、加賀市の宮元陸市長による、「スマートシティ加賀における庁内・地域間コミュニケーションについて」と題したプレゼンテーションから始められた。

加賀市は石川県の南西部、福井県との県境に位置し、東京からは飛行機で1時間30分、北陸新幹線ならば3時間30分でアクセス可能なまちだ。基幹産業は観光とものづくり。観光では全国的にも知名度の高い加賀温泉郷などを擁し、製造業では部品メーカーが集積するほか、九谷焼・⼭中漆器などの伝統工芸も有名だ。

加賀市の基幹産業は観光とものづくり(山代温泉の古総湯)

ただ、市が置かれている状況は厳しい。「現在の人口は約6万5千人ですが、消滅可能性都市の一つに指摘され、2040年には4万2千人ほどに減少すると見込まれています。基幹産業の観光入込客もコロナ禍の影響等でピーク時の4分の1(約100万人)にまで落ち込んでいます」(宮元市長)

宮元 陸 加賀市長

課題打開のために加賀市は、最先端産業の創出や既存産業のDX、スマートシティ推進などに取り組んでいる。

2016年に経済産業省の「地方版IoT推進ラボ」に採択されたことを受け、IoT人材育成と先進テクノロジー導入の推進に向けて、「加賀市イノベーションセンター」の開設(2018年)やイノベーション関連企業の誘致及び連携を進めてきた。2018年にはスマートバリューと共に日本初の「ブロックチェーン都市」の形成を宣言、ブロックチェーン技術を活用した住民ID基盤を稼働している。この他にもドローンの活用や電子投票実現などをテーマに、民間企業との連携協定や宣言を21件行うなど、全国の自治体に先駆けて積極的にデジタルの活用を進めている。

教育分野では、総務省のプログラミング教育普及促進モデル事業に採択され、国の必修化に先駆けて2017年度から全小中学校でプログラミング教育を開始。また、あらゆる子どもがテクノロジーに触れて学べる場をつくるため、マサチューセッツ工科大学の協力のもと世界18か国で展開しているテクノロジーを学べる「コンピュータクラブハウス」を日本で初めて開設した。運営費はクラウドファンディング(ふるさと納税)で調達している点もユニークだ。

エネルギー分野では、「加賀市版RE100」の実現に向けて⾃治体新電⼒を立ち上げ、公共施設に発電施設等を整備しマイクログリッド化を検討している。農業DXも推進し、IoTによるぶどう・梨・いちごの栽培データの見える化を実施。品質と商品化率を向上させ、昨年には加賀市で栽培された県産ブランドの高級ぶどう「ルビーロマン」が一房130万円と高額で落札され話題となった。

通信分野では、2020年にNTTドコモが県内初の5G商用基地局を設置し、新産業創出や教育振興への5G活用を進める。また、北陸先端科学技術大学院大学とは⻑距離通信が可能なWi-Fi技術の通信実験を進めるなど、新技術の実証事業にも精力的に励んでいる。

スマートシティの推進では、2020年に「加賀市スマートシティ宣言」を行い、データ駆動型のまちづくり(デジタルファースト)、創造的なまちづくり(クリエイティブ)、市⺠との共創によるまちづくり(スマートシチズン)の3つの戦略を掲げた。同年にはG20のスマートシティ・パイオニア都市認定(GSCA)を受け、世界のスマートシティコミュニティの仲間入りを果たした。

庁内・地域間の
コミュニケーションを高度化

このようにDXやスマートシティの推進に取り組む加賀市は、庁内・地域間コミュニケーションのあり方も、デジタル活用で大きく進化させようと考えている。

代表的な取り組みが、ユニファイドコミュニケーションプラットフォーム「Zoom」の活用だ。「コロナ禍以前から役所業務の効率化や生産性向上を目指して、Zoomやビジネスチャットツールを活用していました。特に、最近は非接触のコミュニケーションが必須になっているため、加賀市ではZoomのライセンス契約やWeb会議用会議室の整備に取り組んでいます」と宮元市長は語る。

加賀市はZoomを幅広い業務で活用(G20のスマー トシティ・パイオニア都市認定調印式の模様)

各種打合せや市役所庁内での定期会議に加えて、最も活用されているのは民間企業をはじめとした地域外の団体との遠隔打ち合わせで、市長自身も出張先などからフルに活用しているという。「私自身も出張先などから活用しており、非常にありがたいサービスです。職員の分散勤務を推進するために、普段の業務で職員間のやり取りを遠隔で行うことを奨励しています。今後、Zoomをはじめとしたリモートコミュニケーションはさらに広がっていくでしょう」との見方を示す。

加賀市は市民および地域とのコミュニケーションを変えるために、行政サービスのデジタル化にも取り組んでいる。2019年にマイナンバーカードの認証技術を保有するxIDと「次世代電⼦⾏ 政の実現に向けた連携協定」を締結、スマートフォンとマイナンバーカードを組み合わせた個人認証で、役所に行かずとも電子申請ができる仕組みを構築した。

現在は151の申請が電子化されている。「加賀市民のマイナンバーカードの申請率は76.5%、普及率も65.1%(2021年4月末時点)と、全国1位です。今後の課題は民間企業のサービスの紐づけです。例えば銀行口座との紐づけができれば給付金の一斉給付などが可能になります。また、デジタルIDとブロックチェーン技術を組み合わせ、公職選挙法に則った電子投票の実現に向けた検討を始めています」(宮元市長)

マイナンバーカードを活用し、151の行政申請を電子化

また、関係人口の創出においては日本初のe-Residency(電子市民)プログラムとなる「e-加賀市民制度(加賀版e-Residency)」構想を発表、2021年度内の提供開始を目指している。オンライン上の市民という新たなカテゴリを創出し、加賀市以外の日本中・世界中から関係人口を集める構想で、移住手続きのワンストップサービスや法人登記支援、人材データバンク、割引サービス等のe-加賀市民向けのサービスを提供し、国内外の高度人材の誘致や新産業の創出・産業集積につなげていく狙いだ。

Zoomで乗り越える「3つの壁」

宮元市長の講演に続いて、ZVC Japan社長の佐賀文宣氏が「垣根のないリモートコミュニケーションとは」と題して、コロナ禍の現在、全世界で活用されているZoomの最新事例を紹介した。

佐賀 文宣 ZVC Japan(Zoom) 社長

Zoomは2011年に米国カリフォルニア州で創業し、2019年に日本オフィスを開設。約100名の体制で企業や⾃治体などの顧客を支援する体制を整えている。

ユニファイド コミュニケーションプラットフォーム「Zoom」

ミーティングでは最大1000人の参加者と双方向のディスカッションが可能

Web会議サービスの中でも高いシェアを誇るZoomだが、その人気の理由は、大人数を遠隔でつないでも「繋がりやすく切れづらい」という基本性能の高さにある。ミーティングでは最大1000人の参加者とつながり双方向のディスカッションが可能であり、ウェビナーは最大1万人が参加可能。コミュニケーションの円滑化に重点を置いてサービスが開発されており、投票や挙手、バーチャル背景、トランスクリプトの⾃動生成、ブレイクアウトルーム、同時通訳などの様々な機能を実装してきた。

「コロナ禍の影響で、社会全体のオンラインミーティングへの意識が変わってきていると実感しています。当初は、会議やイベントなどが物理的に不可能になり仕方なく使い始めた人が多かったと思いますが、『オンラインだからこその良さに気づいた』という声も沢⼭届くようになっています」と佐賀氏は言う。

物理空間でセミナーを行うと会場費を含め多くのコストと準備時間が必要だが、オンラインであれば誰でも簡単にセミナーを主催し、参加することが可能だ。また、投票機能を使って参加者の理解を確認しながら議論を進めたり、ブレイクアウトルーム機能でグループごとに議論の場を設け主体的な参加を促したりと、オンラインならではの便利な機能もある。同時通訳も、物理空間では通訳者用ブースや参加者用の端末・イヤホンの準備が必要だが、オンラインならば低コストで実現可能だ。

「ビジネスの世界では、会議やセミナーをオンラインで行うことはもはやスタンダードコミュニケーションになりました。一方、時間をかけて実際に訪問する方法はプレミアムコミュニケーションとして重要度を増しています。今後は、リアルな参加者と遠隔からの参加者の双方がいる場合でも、全員がZoomに入って平等に発言ができる、ハイブリッドなコミュニケーション環境が求められてくると思います」(佐賀氏)。ハイブリッドなコミュニケーションを促進するために、Zoom対応のハードウェアベンダーではAIで参加者一人ひとりを認識し、ギャラリービューで平等に表示する「AIスマートギャラリー」機能などを開発している。

AIで参加者一人ひとりを認識し、ギャラリービューで平等に表示する「AIスマートギャラリー」機能

佐賀氏は「垣根のないリモートコミュニケーションを実現するためには、3つの乗り越えるべき壁があります」と指摘する。それは、地域の壁、時間の壁、言葉の壁だという。地域の壁は、離れた場所とのコミュニケーション。時間の壁は、育児や介護などの事情に伴うコミュニケーションの壁。そして言葉の壁は、外国人等とのスムーズなコミュニケーションだ。「Zoomを活用することでこれらの壁は乗り越えることができます」と佐賀氏は強調した。

会議だけでない
Zoomの可能性

Zoomは会議以外にも様々な活用の可能性を持つ。特に⾃治体では、行政特有の課題や、地域におけるコミュニケーション課題を解決するための有効な手段となり得る。

「行政サービスでは、窓口対応のオンライン化で多くの実績があります。画面を共有して職員の顔も見える状態で市民に説明ができることがポイントです。小樽市では聴覚障害者の窓口対応を行うために、Zoom経由で市の専任手話通訳者が参加する『遠隔手話サービス』を行っています」(佐賀氏)

高度なセキュリティと通信品質を活かして、多くの地域医療機関で遠隔診療にも使われている。高音質を生かして心音を伝えたり、高画質な医療画像データを送受信することも可能だ。

取手市議会は、感染症対策ならびに災害対策の一環として、議会規程を改正してZoomを活用して市議会をオンラインで実行している。

Zoomが包括連携協定を結ぶ大分県では、ドローン撮影とZoomを組み合わせた農地の遠隔観察をはじめ、防災、教育、福祉、医療、観光、スポーツなどの幅広い分野でZoomを活用した地域課題の解決に取り組んでいる。

市民が希望を持てるまちに

トークセッションでは、宮元市長と佐賀氏が、行政のDXやリモートコミュニケーションの可能性について活発な議論を行った。

Zoomの活用について宮元市長は「一般市民と市役所が簡単に繋がれるようになれば、行政サービスは劇的に変わるでしょう。AIスマートギャラリーもすぐに使いたい機能です。同時通訳技術が向上して瞬時に通訳できるようになれば、海外とのコミュニケーションにも手軽に活用できるのではないでしょうか」と期待を述べた。

⾃治体がWeb会議サービスを利用する際に気になるのはセキュリティ面だ。佐賀氏は「Zoomは無料会員を含めてユーザー間の通信はエンドツーエンドで暗号化しています。また、日本では東京と大阪のデータセンターを利用しており、海外へのデータ流出の恐れはありません。安心して⾃治体の皆様に活用してほしいです」と話す。

宮元市長はDXやスマートシティの推進においては「個人情報の保護・管理が最重要事項です」と語る。⾃治体セキュリティポリシーの改定やプライバシー影響評価の導入検討を進め、「あらゆる努⼒を積上げて、個人情報の厳格な保護体制を築き、市民に安心なサービスを提供していきます」と強調した。

また、宮元市長はe-加賀市民について、「場所や国を超えて市民になれる制度を通して、加賀市の魅⼒を発信し、関係人口をつくっていきたい」と語った。佐賀氏はe-加賀市民について地域の壁を乗り越える先進的な構想だと期待を述べつつ、「次の課題は、言葉の壁だと思います。特に海外のe-加賀市民希望者は、加賀の文化に関心が高いはず。Zoomと同時通訳を活用すれば、海外の方に文化を伝えることができます」と提案した。

最後に佐賀氏は「国境さえも飛び越える加賀市のように、従来の手法に捉われず、勇気をもって新しい発想で庁内・地域間のコミュニケーション刷新に取り組むことが大事だと思います」とコメント。宮元市長は「新しいことに次々とチャレンジし、市民が希望を持てるようなまちづくりを進めて参ります」と締めくくった。

 

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