藤田観光vs帝国ホテル 大手ホテル2社のアフターコロナ戦略

旅行や宴会、インバウンド需要の消滅によって、ホテル業界には厳しい逆風が吹き続けている。大手ホテル業界は、いかにコロナ禍と向き合い、いかにコロナ後へ備えているのか。藤田観光と帝国ホテルの動向を見る。

今、そしてこれからのホテル像を模索する2社

収束の兆しも見えた新型コロナウイルスの感染拡大だが、ここへきて第6波を迎え、その先行きはまだまだ予断を許さない。ホテル・観光業界では、渡航制限や移動の自粛要請、イベントや宴会の自粛に伴って業績回復は難しく、過酷ともいえる経営環境が続く。

「椿山荘」、「箱根小涌園」などを展開する藤田観光は、コロナ禍に対応するための事業計画を策定し、事業ポートフォリオの見直しやコスト削減、経営管理体制の強化を進めてきた。

テレワークやワーケーションなど、コロナ禍で高まったニーズに対しては、対象ホテルを30泊利用できるサブスクリプションサービスという新サービスを打ち出した。12万円のパスポートを購入し、2021年5月6日から7月1日の期間中、全国21軒が利用できるというシステムで、ウィークデーは首都圏のホテルでテレワーク、週末は地方のホテルでワーケーションといった使い方を、リーズナブルな価格で実現した。

今後、最も力を入れるのは「箱根小涌園」エリアの再開発だ。2018年に役目を終えた「箱根ホテル小涌園」を建て替えて、客室数を従来の190室から340室に増強、箱根小涌園の事業ポートフォリオにおいて不足していた中価格帯を拡充することで、顧客層を厚くする。2021年8月に着工し、2023年7月に開業予定だ。また、「箱根小涌園ユネッサン」もリニューアルすることで、箱根小涌園エリア全体の再活性化を狙っている。

一方、創業以来、「日本の迎賓館」としての歴史を重ねてきた帝国ホテルでも、従業員食堂の自営化や業務委託の見直しなど全社的なコスト削減を進め、全従業員からコロナ禍での新しいサービスのアイデアを募るなど、グループ一丸で収益の確保と雇用の維持に注力してきた。

そうしたなか、タワー館の一部をサービスアパートメントに改装して、専属スタッフが24時間サービス対応するという、2021年2月から開始した新事業は、ホテルならではのリソースを活用して「ホテルに住む」というコンセプトが好評で、同年12月にはタワー館全室をサービスアパートメントとし、期間も2023年3月まで延長されている。

コロナ後を見据えた大きな事業計画としては、まず、「帝国ホテル東京」の建て替えがある。三井不動産との共同事業として進められ、本館は2031~2036年度、タワー館は2024~2030年度にリニューアルされる予定だ。日本を代表するホテルとしてのブランド価値を、リニューアルによってさらに向上する狙いがある。もう一つは、「京都・祇園甲部歌舞練場」の一部を保存活用しながら、ホテルに再生する事業で、老朽化した歴史的建造物の再生とホテル事業を両立させる、社会的な意義も大きい取り組みといえる。

それぞれが、盤石のブランド力と強みを活かし、かつ強化することで逆風に立ち向かい、ホテル・観光の新たな未来像を提示してくれることに期待したい。

両社概要

藤田観光

設立 1955年
所在地 東京都文京区
代表 伊勢 宜弘(代表取締役)
資本金 1億円
従業員数 1,344名(2021年6月)
主な
事業内容と
施設
●WHG事業(ビジネス・観光ホテル):ホテルグレイスリー新宿、新宿ワシントンホテル本館 など総拠点数35
●ラグジュアリー&バンケット事業(婚礼・宴会施設等):ホテル椿山荘東京、カメリアヒルズカントリークラブなど総拠点数9
●リゾート事業(レジャー施設等):箱根小涌園、下田海中水族館など総拠点数17

出典:ホームページ

 

帝国ホテル

設立 1887年創業(1890年開業)
所在地 東京都千代田区
代表 定保 英弥(代表取締役社長)
資本金 14億8,500万円
従業員数 1,986名(2021年3月)
主な
グループ
会社と
事業内容
●帝国ホテルエンタープライズ:コミュニティホテル、レストラン等運営
●帝国ホテルサービス:ホテル付帯サービス、不動産管理
●帝国ホテルハイヤー:旅客運送、駐車場管理
●帝国ホテルキッチン:調理食品の製造・売買
●ニューサービスシステム:バンケットサービス、不動産管理など

出典:ホームページ、有価証券報告書

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