医療はオンラインファーストへ 診療報酬改定でゲームチェンジ

医学・行政・ビジネスの観点から医療・ヘルスケア業界の事業戦略を考える本連載。今年は2年に一度の診療報酬改定の年であり、今後の医療・ヘルスケア事業の展開を考える重要なタイミングだ。改定の方向性からは、医療DXによるゲームチェンジの構図が見えてくる。

診療報酬の仕組みと
そこから見える今後の医療

本連載では医療・ヘルスケアビジネスの本質的な部分をお伝えし、あまり時事的な話は扱わないようにしてきましたが、ヘルスケアビジネスの業界にとってとても大きな変化が起きたので、今回はその変化について解説をしたいと思います。

「中医協」という組織はご存じでしょうか? 少し専門的かもしれませんので、もう少し遡って説明しましょう。病院を受診したとき、同じ診療内容である場合その料金は全国一律であることは読者の皆さんもご存知かと思います。これは、日本の皆保険制度がなせる「保険診療」の枠組みで、「医療行為」の1つ1つに「点数」という形で1点10円の料金が算定されており、病院やクリニックなどの医療提供側はこの点数に基づいて報酬を得、患者さん側はかかった費用の3割(高齢者などは1割)のみを負担することで診療を受けることができる仕組みです。3割負担ということは、70%オフを年中やっているのと同じことで、実質7,000円くらいの医療を受けたとしても、2,000円程度を支払えばよいということになります。この「病気になって病院を受診したときの費用の安さ」が、人々に疾患予防の行動を促しづらいために日本では予防を中心としたヘルスケアビジネスが生まれにくく、マネタイズもしにくい原因となっています。

話を戻すと、この全国一律の料金である「保険点数」は2年に1度改定されることになっています。2年に1回、偶数年の4月が改定のタイミングとなっているため、今年の2022年4月1日はその改定のタイミングです。そしてその「保険点数」の変更は、医療機関にとってみると、「メニュー表とその料金設定」にあたるわけで、点数の変更は収益にダイレクトに跳ね返ってくることになります。医療経営の視点からすると、2年に1回の大イベントだといえるのです。

「料金設定」が制度で決められているため、通常のビジネスで行われるような「需要と供給に合わせた金額調整」ができないことも特徴です。医師として腕が上がり、評判が評判を呼んで患者さんの来院が増え、いくら需要が増えたとしても、保険診療を行っている限りは同じ料金で診療を行わないといけません。そのため、たくさんの人を診察しようとして、1人あたりの診察時間が短くなる…というのが日本の医療の特徴です。制度に乗っかって最適な行動をとろうとしていくと、医療機関は3分診療をせざるを得ないようになっていくのです。

この2年に1回の診療報酬改定の内容を決めるのは「厚生労働大臣」です。しかし、厚生労働大臣は医療機関で行われるすべての医療行為がどのようなものか、そしてそれに適切な金額はいくらかということを自らだけで決めることはできないため、諮問機関として中医協(中央社会保険医療協議会)が存在するのです。

やっと冒頭の話に戻ってきましたが、2月9日に、2022年度診療報酬改定で、中医協からの診療報酬改定案が出されました。前述のように、医療機関はこの「保険点数」に対して最適な行動をとっていくため、この診療報酬改定は実質的に今後の日本の医療の進む方向を決めているといってよいでしょう。

オンラインファーストな医療の
時代が始まる

今回の診療報酬改定で注目すべき点は何よりも「オンライン診療」です。新型コロナウイルスの流行を避けるため、2020年4月に時限措置としてオンライン診療の活用の幅が広がったということは新聞などでも取り上げられていたため、知っている方も多いでしょう。

図 診療報酬改定にみる「オンラインファーストな医療」に向かう流れ

出典:原稿内容を元に編集部作成

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