デジタル庁の民間人材活用と組織づくり 司令塔が示す新しい働き方

デジタル庁創設に向けた準備室段階からかかわり、組織づくりを担ってきたデジタル庁企画官の津脇慈子氏。DXの本質と、それをふまえたデジタル庁の創設に当たって取り組んできた民間人材採用と組織づくりについて語った。

経済産業省で企業のIT活用やキャッシュレス化推進に携わった後、デジタル庁で仕事を開始した津脇氏。企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位を確立すること」と解説する。中でも「顧客や社会のニーズ」に照らし、「組織や企業文化」までを変革するという2点が、単純なIT化とは異なるDXのポイントであることを説いた。

津脇 慈子 デジタル庁企画官

多様性と効率性の両立に
DXは不可欠

また、人生100年時代に入り、それぞれのライフステージに合わせた「多重的」かつ「多様」な生き方・働き方が浸透していくなかで、そうした人たちが共感できる小さな単位で迅速に動ける組織が求められていることを強調。そのうえで、多様な人が力を発揮できるような組織や社会をつくれるかどうかが良いサービスを生み出すために欠かせなくなっていることを指摘した。

そうしたDXの特性と社会の変化をふまえ、行政と企業、市民を包含したデジタル社会を形成するための、強力な司令塔としての役割を果たすべくデジタル庁は創設された。デジタル庁は、基本方針策定などの企画立案、国などの情報システムの統括管理、重要なシステムを自ら整備し、運用していく役割を担っているという特徴がある。

デジタル庁が率先して社会のDX化をけん引していくにあたっては、「担い手・意思決定のあり方を変える必要がある」と津脇氏は言う。その前提に立ち、①多様な分野の一流のプロフェッショナルを獲得する「採用」、②プロジェクトベースの機動的な人材配置を行うための「リソースマネジメント」、③官民が一体となって多様な働き方・専門性の人材が成果を最大化できる環境を提供できる「組織文化」、という、組織運営の3つの柱を立てた。

優秀な人材を採用するために
民間リクルーターを登用

デジタル庁の人材採用では、「外部人材である民間リクルーターを登用したことが成功のポイントだった」と津脇氏は振り返る。2021年1月から7月にかけて4回に分けて民間人材、専門人材の募集を実施。その際、従来の中央官庁の採用では前例がなかった取組として、専門人材を採用するために職種名、業務内容を詳細にわたって明確に定義した。また大手IT企業から応募があることを見越し、そうした企業からの調達などにおける利益相反ルールをあらかじめ明確にしておくことで、優秀な人材が安心して応募できるようにした。

その結果、プロジェクトマネージャーでは35人採用のところ1432件、セキュリティストラテジストでは43人採用のところ469件、幹部クラスでは10人採用のところ336件、プロダクトマネージャーの採用では40人のところ450件の応募がそれぞれあったという。そして、600人で発足したうち250人を民間人材が占める形でスタートした。

官民混成メンバーだからこそ
重要な理念の共有

組織づくりの面においては、「違うカルチャーの人たちが集まって何かを決める際にはよって立つものが必要で、目的を常に意識する政府機関であるべき」との考えからミッション、ビジョン、バリューを定めた。特に「だれ1人取り残さない、人にやさしいデジタル化を。」をミッションとして掲げた。

図1 デジタル庁の組織体制

 

組織体制は、デジタル社会共通機能サービスグループ、国民向けサービスグループ、省庁業務サービスグループなど、縦割りにならないようプロジェクトごとに柔軟に離合集散できる組織体制とした。また、チーム構成は、例えばサービスデザインチームであれば、民間出身のデザイナー、プロダクトマネージャー、省庁出身者、自治体職員といった官民混成メンバーで構成されている。このように「チームメンバーの半数以上がデジタル人材でかつ非常勤(兼業)だからこそ分かった組織運営のポイント」として4点を挙げた。

最も重要だと感じたのが「開発環境の改善」で、「セキュリティを含め明確なルール設定とその範囲での運用が必要」と指摘。2つ目が「チームを超えた情報共有の仕組みづくり」で、「情報共有、意思決定はオンラインで行うが、縦割りの壁はおそろしく高い」ことに気づかされたといい、「違うチームの情報をのぞき見できる仕組みを作り、そこから生まれる新しいコラボレーションに期待している」という。

3つ目は「不文律の言語化」。「だれ1人取り残さない、というミッションがあっても、民間企業では費用対効果を考える。「国の組織として、誰もないがしろにしないというポリシーは丁寧に共有しています。また官独特の意思決定プロセスについては、変えたほうがよいと思う点を議論の俎上に載せれば理解を得られることが多い」という。4つ目が「心理的安全の確保」で「完ぺきでなくても批判されない、違うと思ったら口にできる雰囲気づくりが大事」と述べた。

求められるのは
インタープレナーな人

最後に「行政とデジタルの向き合い方」について言及した津脇氏。「デジタル改革の波は、縦割り組織の限界から来ています。まず情報共有、透明化を徹底することが重要です。そして、リリースしたら終わりではなく、国民目線で、ユーザーと対話しながら改善していくことが大切」と、あらためてDXの到来にあわせ視点を変えることの重要性を強調した。

津脇氏は、デジタル人材に求められる条件として「目的・意味を優先して多様な知識やリソースの結合を推進する人や、さまざまな人をつないで共創に導く人」すなわち「インタープレナーな人」であると話した。デジタル庁の人材は、「理念や価値観を共有し、新しい組織文化やデジタル改革推進に向けた機運を一緒に形作っていく想い、覚悟のある人」を重要な採用基準としているという。