eスポーツの社会的側面を分析 『eスポーツ社会論』

コンピュータゲームをスポーツ競技として捉える「eスポーツ」。ゲームを遊ぶだけでなく、観戦するという新しい楽しみ方は世界中で広がっており、今年6月には国際オリンピック委員会(IOC)がeスポーツ大会をシンガポールで開催、「オリンピック競技入り」さえも囁かれる。

日本eスポーツ連合及び角川アスキー総合研究所の推計によれば、国内eスポーツ市場規模は2021年に78.4億円(前年比115.5%)となり、2025年には約180億円まで成長する見通し。国内eスポーツファン数(試合観戦、動画視聴)は2025年には1200万人を超えることが予測されている。

また、興行型ビジネスとして広まったeスポーツは、地域活性化、教育、福祉など社会性を帯びる分野へと広がりを見せている。本書はそんなeスポーツの社会的側面にフォーカスし、その現在と今後への影響を分析したものだ。

編著者の川又啓子氏(青山学院大学総合文化政策学部教授)は、文化とマーケティングの研究者であり、近年はeスポーツなどのスティグマ製品の社会的受容に関する研究に注力。2020年には『eスポーツ産業論』を上梓している。

本書の前半ではeスポーツを取り巻く現状やビジネス動向、メディア・コンテンツとしてのeスポーツの展望、メタバースなどの新テクノロジーによるeスポーツへの影響などを解説。国際大学GLOCOM主任研究員の菊地映輝氏による「文化のDX」論や、神奈川大学経済学部助教のクォン・スンホ氏によるeスポーツ先進国である韓国の現状や研究動向の紹介など、読み応えのある内容となっている。

教育・自治体・医療での活用

そして後半では、学校教育、自治体、医療機関におけるeスポーツ活用を分析している。

例えば教育分野では、セガによる「高校eスポーツ部応援プロジェクト」や岡山県共生高等学校や桐生第一高等学校での部活動としてのeスポーツ推進を紹介しながら、子どもへの教育やキャリアデザイン面での効果を分析する。自治体でのeスポーツ活用では愛媛県の取り組みを分析。同県が推進する「ユニバーサルeスポーツ」を事例に、地域活性化に対するeスポーツの貢献や、eスポーツを行政が積極的に推進することの意味について論じている。医療分野では、北海道医療センターを事例に、重度障害者などにeスポーツを通して社会参画の機会を創出することの重要性や、推進に向けた課題分析などを行っている。

アメリカや韓国に比べ、「eスポーツ後進国」といわれる日本だが、本書で取り上げられた幅広い事例からは、日本独自のeスポーツの進化の可能性が浮かび上がってくる。新規事業や地域活性化に関わる多くの人に手にとって欲しい一冊だ。

 

『eスポーツ社会論』

  1. 川又 啓子 編著
  2. 本体1,800円+税
  3. 同友館
  4. 2023年7月

 

今月の注目の3冊

多拠点ライフ

  1. 石山 アンジュ 著
  2. クロスメディア・パブリッシング
  3. 本体1,480 円+税

 

多拠点ライフとは、2ヶ所以上の地域に住まいや滞在先の選択肢を持ちながら、複数の拠点を行き来するような暮らしのスタイル。リモートワークなどの働き方が登場し、デジタル化も加速する今、誰でも今すぐ始められる時代になったと言える。

本書はシェアリングエコノミー協会代表理事で、多拠点生活実践者でもある石山アンジュ氏が、多拠点ライフが形づくる新しい生き方や、今から始められる実践方法を提示したものだ。

多拠点ライフで得ることができる暮らしや働き方を、自身を含む多様な事例を交えながら、いきいきと解説する。また、定額制で全国の家やホテルに住めるサブスクリプション、外泊すると家賃が下がる賃貸、家電・家具のレンタル、仲間と車を所有できるプランなど、多拠点ライフを実現するためのシェアリングサービス等も紹介している。

 

DBS
世界最高の
デジタル銀行

  1. ロビン・スペキュランド 著
  2. 東洋経済新報社
  3. 本体2,200円+税

 

かつて顧客満足度最下位だったアジアの元政府系銀行、DBS銀行(シンガポール開発銀行)は、DXによって最先端のテック企業に生まれ変わり、2019年には「ハーバード・ビジネス・レビュー」からビジネストランスフォーメーションを実現したトップ20社の1つに選定された。

本書は、DBS銀行の2010年来のDX戦略とプロセスを緻密に解説し、その教訓とベストプラクティス、成功の秘訣を明らかにしている。具体的には、アジアNo1の銀行を目指した2014年まで、バンキングの顧客体験の向上を目指した2018年まで、サステナビリティ経営を推進する現在までの取り組みを解説している。

DBSはDXを通じて業務やビジネスはもちろん、組織文化や職員、そして顧客さえをも変革していった。本書はDXの戦略ガイドとして、多くの企業の取り組みに役立てることができるだろう。

 

ゼロカーボンシティ
脱炭素を地域発展につなげる

  1. 諸富 徹、藤野 純一、稲垣 憲治 編著
  2. 学芸出版社
  3. 本体2,300 円+税

 

政府による2050年カーボンニュートラル宣言を受け、自治体のゼロカーボン政策が加速している。ただ、脱炭素への取り組みがなぜ地域にとって重要なのか、脱炭素は地方創生にどのように繋がるかを、正しく理解できている自治体はまだ少ないだろう。

著名な環境経済学者である京都大学の諸富徹氏や、IGESサステイナビリティ統合センタープログラムディレクターの藤野純一氏らによる本書は、脱炭素と地域課題解決、暮らしの質向上を同時に実現する「ゼロカーボンシティ」を実現する方策について、政策と現場の両面から解説したもの。脱炭素先行地域における産業、交通、家庭、建築物など多分野にわたる具体的施策、自治体の役割を先進的な事例とともに紹介し、シナリオのつくり方や、脱炭素を地域発展につなげるポイントを明示している。自治体の政策立案者におすすめしたい。