FIRM ドラッグラグ・ロスの克服へ 価格・規制への提言
一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)は、再生医療の産業化の実現を目指す業界団体だ。日本国内でも最先端の再生医療を受け続けられるよう、価格・規制などの変革につながる提言を行う。再生医療のバリューチェーンを担う周辺産業の企業も参画し、切れ目のない体制づくりを目指す。
再生医療の産業化を後押しする
多業種からなる業界団体
再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)は、「再生医療研究の成果を安全かつ安定的に提供できる社会体制をタイムリーに構築し、多くの患者さんの根治と国益の確保、国際貢献を実現すること」を目的に2011年に設立された。現在、企業・法人193社、個人13名が参画(9月1日現在)しており、このうち再生医療等製品を製造している企業が4割で、残り6割は周辺産業の企業で構成されている点が特徴だ。再生医療を様々な角度からサポートする会社が集まる「サポーティングインダストリー委員会」、再生医療等製品の研究・開発・製造を行う企業がメンバーの「再生医療等製品委員会」、再生医療等安全性確保法下での活動や医薬品開発製造受託機関(CDMO)事業における課題を議論する「特定細胞加工物等委員会」などの委員会で構成されている。
再生医療等製品の市場はグローバルで今後20年の間に10兆円を超える規模まで成長すると見込まれる。国内についても、5年前に5つだった承認品目数が20に増えた。今後の市場の伸びへの期待も大きい。
「再生医療等製品をタイムリーかつ持続的に患者さんに届けるため、上流から下流までバリューチェーンを通したエコシステムを国内につくる。そのためのイノベーションをサポートしていくのがFIRMの役割」と代表理事会長の志鷹義嗣氏は述べる。
一方で、再生医療等製品を研究・開発・製造する企業は研究開発投資のサイクルを回し続ける必要があるが、1つ目の製品を上市しても収益化できず、R&Dサイクルが回っていない現状がある。「将来、本邦におけるドラッグラグ・ロスを生まぬためにも価格制度、規制制度などの見直しが急務」と、業界が克服すべき課題を指摘する。
図 グローバル市場規模推計
再生医療等製品の市場はグローバルで今後20年の間に10兆円を超える規模まで成長すると見込まれている
再生医療等製品の特性ふまえ
適切な対価を求める
再生医療等製品の実用化、再生医療の産業化の阻害要因のひとつになっている価格と規制については、低分子医薬品や抗体医薬品とは異なる再生医療等製品の特長・特徴をふまえた適切な価格・規制に改変していくことが求められている。
FIRMでは、「疾患を根治できる可能性、患者さんの家族や周囲の人の介護負担の軽減、革新的なモダリティの実用化が進むことによる将来の国内産業発展への寄与といった社会的価値に基づく価格算定を実装すること」、また「少ない投与回数で効果が長期に渡るため、上市時点では有効性・持続性等のエビデンスを十分に証明することが難しいことから、上市後に明らかになった付加価値も価格に反映できるようにすること」など、再生医療等製品の特長・特徴をふまえた新たな価格算定方式を導入すべきとし、厚労省などに対して提言を行っている。また志鷹氏は、独自の制度の構築に向けて産官学の議論も必要で、再生医療で描く日本の未来研究会でも意見交換を行いたいと話す。
成長に欠かせない
周辺産業の参画
再生医療等製品の市場成長を受け、周辺産業の市場も大きく成長すると見込まれている。その一例として「血清・培地・試薬などの消耗品市場」、「培養装置などの装置市場」、「製造工程中や最終製品の品質を評価する検査市場」、「物流・保管などの物流市場」のほか、「CDMOなどの受託製造市場」などが挙げられる。
また志鷹氏は、「バリューチェーンの上流から下流までどこかに穴があると産業化が困難になる。臨床現場の要望を反映させるリバーストランスレーショナルリサーチに基づき、穴を埋めるためのプロセス開発・改良が再生医療の分野には必要であり、それらの受け手としてのサポーティングインダストリーの参画も欠かせない」と述べる。
例えば、再生医療に用いる移植用細胞を製造する際の品質検査を、画像認識技術やAIなどを組み合わせて行う画像解析装置や、現在は人手で行っている培養操作を代替できるロボットなどの自動化技術の需要が考えられるほか、製造した細胞医薬品を輸送する物流ひとつとっても、現状の液体窒素での輸送から、マイナス80℃で凍結状態を保つ輸送ヘ、コールドチェーンの見直しが期待される。さらに、再生医療等安全性確保法下で行う保険外診療の患者負担を軽減できる、患者向けの民間医療保険商品の開発も再生医療の普及には重要だ。志鷹氏は「成長産業であるヘルスケア産業への参入の足掛かりにもなるので、サポーティングインダストリーにはどんどん参画してもらいたい」と語る。
再生医療の研究は発展途上にあり、さらなる革新的な技術や治療法が今後も生まれてくる。その母体となるのは、大学・研究機関発のスタートアップだ。再生医療に対象を限ったものではないが、各省庁が積極的なスタートアップ支援策を打ち出している。
「そして、再生医療関連のスタートアップの源となるのが各地のアカデミア。研究成果に基づくスタートアップの育成が重要だ。地元の大学を核に地域の振興を目指す自治体によるスタートアップ支援も、この分野の発展に貢献するだろう」と、志鷹氏は大学や公的研究機関、自治体の果たす役割について言及した。
FIRMでは、先端医療で産業クラスターを形成しようとしている自治体やアカデミアなどとも協力する。その一例として、グローバルバイオコミュニティの形成を目指す「Greater Tokyo Biocommunity(GTB)」にも参画した。これをきっかけにFIRMは他の地域のバイオコミュニティ形成への支援にも力を入れていく予定だ。
「再生医療等製品には、既存の低分子医薬品や抗体医薬品では得られない治療効果がある。これを事業として成功させるのがFIRMの使命。成長産業と期待される再生医療の可能性の芽を摘まないよう、価格や規制をはじめとするロードブロックを1つずつ取り除いていきたい」と、志鷹氏はFIRMが果たすべき役割を改めて強調した。