業務プロセス変革の実証実験 予算執行業務のDX化を提案

旅費・予算執行業務のクラウドサービスで世界最大、日本の民間企業においてもシェアトップのコンカー。2019年からは、地方自治体向けに予算執行業務のDX化を提案する事業に乗り出している。同社による自治体向けの戦略と、群馬前橋市における実証実験の成果を紹介する。

来る2021年9月にはデジタル庁が創設され、デジタルガバメント実行計画の改訂により、オンライン化、自治体DX、業務システムの標準化の推進が求められるようになる。これに伴って現在多くの自治体が、行政手続きのオンライン化、迅速化をはじめとする住民サービスのデジタルトランスフォーメーション(DX)を検討し始めている。

なお残る紙やハンコに危機感

一方で、「多くの自治体では、内部事務が紙やハンコのままの現状ではDXに対応しきれないという危機感が高まっています」とコンカーのデジタルエコシステム本部ビジネス戦略部公共セクターグループでパブリックエグゼクティブを務める山田浩志氏は指摘する。

山田 浩志 コンカー デジタルエコシステム本部ビジネス 戦略部公共セクターグループ パブリックエグゼクティブ

そこで同社が、地方自治体によるDXを推進するための入口として提案するのが、組織横断的に全職員が携わる予算執行業務のDXだ。そのねらいについて山田氏は「予算執行業務は紙・ハンコの運用からの変化の幅が大きく、短期間でシステム導入できるため業務の省力化と標準化、管理の高度化、デジタル化の成功体験が得やすい。また、請求書の転記といった繰り返しの単純作業が多くルール化しやすい業務なので、デジタル技術との相性が良い。デジタルファーストへと職員の意識変革を促すために予算執行業務のDXは入口としてふさわしいと言えます」と説明する。

同社では2019年に大分県大分市で実証実験を開始したのを皮切りに、2020年には群馬県前橋市ほか3市で実証実験を行った。このうち、前橋市における実証実験の具体的な取り組みとその成果について紹介する。

手作業入力の手間を大幅削減

前橋市は2019年度に総務省の自治体行政スマートプロジェクトに採択されている。2020年度には、コンカーとともに、教育委員会を対象に予算執行業務DXの実証実験に取り組んだ。教育委員会を対象としたのは、教員が様々な業務に追われ長時間労働が問題視された要因の1つに事務仕事の内部業務の負荷が大きいことも挙げられていたからだ。

前橋市教委における予算執行業務は、業者から紙で見積書を受領した後、支出負担行為を作成、印刷し、証跡(証拠となる記録)を紙で添付して決裁を回覧。学校内で教頭、校長の承認を得た後に業者へ発注し、納品を受ける。業者から請求を受領してからは支出負担行為と同様に支出命令書を作成、印刷し、紙で決裁を回覧。教頭、校長のチェック、承認を経てから教育委員会に紙で配送し、ハンコを得て承認を受ける。最後に会計担当者がこれを承認し、業者への支払い手続きの決裁を行うという流れだ。

実証実験でのフローは以下の通り(図参照)。業者から紙で見積書を受領した後、支出負担行為書を作成し電子化した見積書を添付して、電子決裁で回覧。支出負担行為の内容についてはシステムで確認できるため教頭、校長は行為の妥当性のみをチェックするだけで済んだ。業者へ発注、納品した後は、電子請求書を受け取る。電子請求書の内容は自動的に支出命令書に転記され、支出負担行為や納品・検収書との3点照合を自動で行うため、入力、チェック作業も大幅に簡略化された。

図 前橋市での実証実験におけるDX後の予算執行業務フローと効果(校長専決の場合)

前橋市での実証実験の概要。学校の予算執行をデジタル化し、教職員負担を軽減した

 

完成した支出命令書は電子決裁により、リアルタイムで教育委員会へ回付されるため、紙で送る必要はない。最終的に会計担当で承認された支出命令書の内容はデータとして財務会計システムに自動で連動し、財務会計システムから業者へ支払いが行われる。会計担当者も支出命令書の内容チェックに時間を割くことなく、データの分析や改善に注力できるようになる。

業務プロセスの効率化を確認

前橋市未来創造部情報政策課課長の岡田寿史氏は「単純な業務の電子化だけでなく、手入力を減らす、教頭や校長、学校教育課のチェック負荷を軽減する、承認と予算残額の確認を同じシステムで一元化するなどの業務プロセスを総合的に効率化・高度化するというデジタライゼーションの効果を確認できました」と話す。

岡田 寿史 前橋市 未来創造部情報政策課  課長

実証実験の結果、予算執行業務に関する全部門において業務工数が現状の予算執行業務から41%削減できることを確認した。また、この効果に基づき予算執行業務のDXを全庁に展開した場合の削減効果を算定したところ、導入前は1.9万人日要していたところ1.1万人日にまで削減でき、人件費で2億円分の業務量の削減効果が確認できたという。また、岡田氏は「見積書、契約書、請求書をすべて電子化できれば、事業所にとっても輸送費、印刷費、印紙税の節減になる」と述べ、地域の事業所に対してもDXを促す契機になるとの考えを示した。

また、「DXを全庁に展開していくためには、関係者を巻き込みまとめ上げていく熱源が必要」としながら「予算執行業務のDXを体感することでこれまでの制度、組織のあり方を現場の目線で考え直すきっかけになる。業務のデジタル化をきっかけに組織、制度を変革することができれば住民サービスに直結するサービスに資源を振り向けることができる」と、予算執行業務からDX化を進めることのメリット、手ごたえを語った。

 

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