エネルギー供給都市の意識変革 脱炭素を地域経済活性化の足掛かりに

2022年に環境省による脱炭素先行地域に選定された福井県敦賀市。これまで、原子力・火力発電所を有するエネルギー供給都市であるがゆえの課題と向き合い、様々な政策を進めてきた。ウェビナーにおける講演「北陸新幹線敦賀開業を契機とした脱炭素化へのパラダイムシフト」から、取組を紹介する。

敦賀市は大陸貿易や国内海運の要であった敦賀港とともに発展してきた

古くから、対岸にある大陸諸国との貿易、そして日本国内の流通の要所であった敦賀港とともに発展してきた敦賀市。2024年には北陸新幹線の敦賀開業を控え、「海陸両方の交通の要所として、ますます存在感を高めていくことが見込まれる時期にあります」と話すのが、敦賀市の橋本善仁氏だ。

橋本 善仁
福井県 敦賀市 企画政策部ふるさと創生課
嶺南Eコースト計画推進室 室長

敦賀市と聞いて多くの人が思い浮かべるのが「エネルギーのまち」である。半世紀以上にわたりネルギー供給都市の役割を担ってきた。市内の原子力発電所の4基の炉は運転停止中だが、2基の炉を持つ火力発電所もある。敦賀市は、交通の要、そしてエネルギーのまちという背景を踏まえ、新たな産業エネルギー政策を掲げ取組を進めている。

脱炭素先行地域選定
再エネ電力の地産地消と推進体制を評価

2022年11月、敦賀市の敦賀駅西地区、中心市街地集客施設、シンボルロード(アーケード街)が、環境省の脱炭素先行地域に選定された。その背景にある要因として、橋本氏は2点を挙げた。

1つ目は、選定において敦賀市が作成した提案書に盛り込まれた取組、卒FIT太陽光発電による再エネ電力の地産地消だ。敦賀市・北陸電力・CCCマーケティング(現・CCMKホールディングス)の3者が、「包括的地域連携に関する協定」を締結。固定価格買取制度(FIT)切れの太陽光発電による電力を北陸電力が買取り、敦賀市の公共施設に供給することに同意すれば、1kWhあたり3円相当がTポイントとして交付される。これによって、敦賀市で生産された再エネ電力を敦賀市内で消費するという電力の地産地消が可能になる。

2つ目が、脱炭素推進の要となる「敦賀市脱炭素マネジメントチーム」の結成だ。「脱炭素化には、エネルギー、まちづくり、ファイナンスといった広範な専門知識が必要です。私たちのように小規模な自治体で、それら専門人材を確保することは難しい。地域におけるパートナーとして北陸電力、福井銀行とチームを組み、相互の知見や強みを活かして脱炭素化を進めようというものです」と橋本氏。こういった連携は、行政単独でやるには難しい取組を進めるための解決策となり得ると話した。

エネルギーのまちならではの背景
大震災を機に政策方針を決定

脱炭素先行地域選定以前から、敦賀市ならではの課題と、それに対する様々な政策が進められてきた。

敦賀市は、就業者数で見ると第三次産業が7割を超え、その中で卸・小売・飲食・宿泊サービス業が約2割を占める。一方で、産業別純輸出額で全体の約5割を占めるのが電気業・電気機械業だ。そんな、商業都市であり、かつエネルギー供給都市ならではの産業構造を持つ敦賀市に訪れた転機が、言うまでもなく東日本大震災だった。「この震災は、日本のエネルギー供給体制だけでなく、敦賀市の産業構造の脆弱性を白日の下にさらしたと、今でも認識しています」と橋本氏はいう。そもそも、小売や飲食、宿泊サービス等の産業は、古くは、敦賀港に寄港する人の宿場町として発展し、戦後は、敦賀市がエネルギー供給都市となっていく中で、発電所の作業員の消費需要の受け皿となってきた。ところが東日本大震災以降は、原子力発電所の長期運転停止に伴い、敦賀市に滞在する作業員数が減少し需要が減退した。

東日本大震災が起きた2011年以降、敦賀市の地域経済のベースロードである原子力発電の減退に加え、人口も大きく右肩下がりを続け、現在6万3000人の人口は、2050年には5万人を割り込む見通しだ。

そんな「ダブルパンチ」に危機感を募らせた敦賀市は、2016年に大きな政策方針を打ち出した。2024年春の北陸新幹線の敦賀開業をエポックとして、当分の間は観光客という外需獲得で経済規模を維持。その間に、根本課題である産業構造の複軸化を実現する、というものだ。「敦賀市に多い卸・小売・飲食・宿泊サービス業は、そのまま観光需要の受け皿にもなります。観光と親和性がある既存の産業はそのままに、今の痛みを観光需要で緩和。その間に根本問題を解決する、という二枚看板です」。

「議論の中には、もっと抜本的な産業構造の改革や、原子力発電所依存からの脱却が必要という声もあります。しかし、変革や脱却は、既存の産業が少なからず出血する。既存の産業を守りソフトランディングしつつ、水面下で抜本的なダイナミズムに取り組む。そうしないと、痛みに耐えかねて敦賀市の経済そのものが倒れてしまう。責任ある政策として、この2つの方針を掲げました」と話した。

地域経済活性化に必要な
意識変革と政策転換のドミノ

その後、2019年に「新しい産業・エネルギー政策」を掲げた。敦賀市がこれまでに培ってきた知見を活かしつつ、産業構造の複軸化、原子力だけでなく再エネ由来の水素なども含めたエネルギーの多元化を目指す政策だ。この政策の最終目標はもちろん、敦賀市民の幸せと地域経済活性化。脱炭素はそれらを実現するためのきっかけの一つと話す橋本氏は最後に、最終目標達成までに重視する点4つを挙げた。

1つ目は、脱炭素は重要だが、市民や国民の生活を守るために不可欠なのはエネルギーの安定供給やベストミックスであり、敦賀市と北陸電力は、その価値観を共有するベストパートナーだという考え方への転換だ。「これはすでに実現できています」と橋本氏。

2つ目が、原子力発電との共存共栄によって市民に埋め込まれた「敦賀市は、すでに脱炭素のまちである」という思い込みをなくすこと。「脱炭素先行地域選定を、敦賀市民の意識を変革するきっかけにしたいと思います」。

3つ目が主体性の育成。敦賀市はこれまで、原子力発電所立地地域への交付金を受け取りながらまちづくりを進めてきた。「今回、脱炭素先行地域として選定されましたが、環境省の再エネ推進交付金はあえて申請していません。自分たちで稼ぐお金でやっていきたい。その一つがふるさと納税です。2021年度は全国8位。2022年度も金額では前年を上回り、自分たちで稼ぐことができるという、主体性につながる大きなターニングポイントになりました。いばらの道かもしれませんが、そこをあえて歩きます」。

4つ目が、経済意識や環境意識の高い企業等を誘致し、経済と人材雇用の好循環を創出することだ。

脱炭素先行地域選定をきっかけとして、敦賀市民の意識変革と政策転換のドミノを起こしていきたいと橋本氏は述べ、講演を終えた。