長瀬産業×ゼロボード 地域脱炭素を推進するCO2算定ツール
長瀬産業は、CO2排出量算定・可視化クラウドサービスを提供するゼロボードと業務提携し、Scope3の排出量算定に対応した安価なツールの提供により、地域や民間企業の脱炭素支援に取り組んでいる。2社の取り組みや、小田原市との協業事例を解説する。
長瀬産業 サプライチェーンの
排出量削減に本腰
化学品専門商社首位で、自社で製造・研究開発拠点を保有するなどメーカー機能も持つ長瀬産業。100社超のグループ企業を擁し、連結売上高は8300億円に達する。NAGASEグループは2021年2月にサステナビリティ基本方針を策定、本年1月には「カーボンニュートラル宣言」を発表した。
「気候変動と資源不足は、グループおよびステークホルダー双方にとって最重要の経営課題のひとつです。サステナビリティ基本方針では、企業活動を通じて社会・環境課題の解決に貢献し続けることを、経営理念を含むすべての理念体系に共通する考え方として位置付け、朝倉研二社長のオーナーシップのもとグループ全体でサステナビリティ推進体制を構築しました」と、長瀬産業サステナビリティ推進室統括の相澤康之氏は語る。
カーボンニュートラル宣言では、2050年までにGHG排出量を実質ゼロにすること、さらに2030年までにScope1・2を46%削減(2013年比)、Scope3を12.3%以上削減(2020年比)するという目標を掲げた。
「TCFDが開示を推奨するScope3(サプライチェーン)での排出量可視化・削減は、自社努力のみでは効果は少なく、サプライチェーンへの削減目標の連鎖が必要です。こうした中でNAGASEグループは商社やメーカーとしての国内外のネットワークを活用したサプライチェーンの情報収集や対話の促進や、低炭素製品・削減ソリューションの提供、環境対応型設備の導入などを通じてサプライチェーンに働きかけを強めていきます」
ゼロボード 地域・中小企業の
排出量削減を支援
こうした中で、長瀬産業は2021年9月、CO2排出量算定・可視化クラウドサービス「zeroboard」を開発するゼロボード社と業務提携し、同サービスの販売・事業展開を開始した。
ゼロボード代表取締役の渡慶次道隆氏は「企業は金融市場や政府、消費者から脱炭素経営へのシフトを強く求められており、もはや脱炭素に取り組まないことが経営上のリスクになっています。企業には、国際基準『GHGプロトコル』に基づいた排出量の算定・報告が求められますが、この基準ではScope3、つまり自社以外のサプライチェーンからの排出量を含めて開示する必要があります」と話す。
しかし、サプライチェーン排出量は一次データ(サプライヤーの製品・サービスごとの排出原単位)の入手が難しい。既存のCO2排出量算定・可視化ツールはScope3の算定に対応していないことが多く、また、上場企業をターゲットに開発されたツールは高価で、中小企業には導入が難しかった。
「zeroboard」は自社のCO2排出量算定の効率化だけでなく、サプライチェーン上のCO2可視化を目的として開発されており、一次データを用いたScope3の算定が可能で、サプライチェーン上の企業間でCO2排出量データをAPI連携し、共有できる機能を有していることも大きな特徴だ。また、中小企業でも導入しやすい低価格帯のエントリーモデルも展開している。
「国内の大手上場企業は長年に渡って工場や拠点の省エネ・脱炭素化を進めており、自社内での取り組みはもはや限界です。脱炭素経営に向けてサプライチェーンを含めた取り組みが避けて通れません」
ただ、サプライチェーンを構成する中小企業は、脱炭素への意識は高くない。これらの企業に変革を促すには、高機能・低価格なツールの提供だけでなく、脱炭素に取り組む自治体や、脱炭素を進める中小企業向けに融資条件優遇を行う金融機関などと連携したインセンティブ付けやエコシステムの構築が必要だと渡慶次氏は指摘する。
「例えば自治体とは、地域脱炭素に関する協定を弊社と結び、自治体の支援のもと地域の中小企業にCO2排出量算定・可視化クラウドサービスを提案するケースを想定しています。自治体は地域企業とCO2排出量データを連携することで、地域内の実情を正確に把握し、より地域特性にあった脱炭素施策の立案も可能になります。こうした取り組みで、中小企業および地域の脱炭素に貢献していきます」
小田原市 民間との連携で
カーボンニュートラルへ挑戦
ゼロボードが連携する自治体のひとつが小田原市だ。神奈川県西部に位置する人口約19万人の小田原市は、2021年9月、ゼロボードおよび湘南電力、エナリスと「CO2排出量及び環境価値の可視化並びに価値化の試行に関する協定」を締結した。
「小田原市は地域特性上、再生可能エネルギーを太陽光発電に頼らざるを得ません。太陽光発電と蓄電池、EVの導入拡大など、面的なエネルギーマネジメントの高度化に継続して取り組み、脱炭素に向けた挑戦を加速しています。ただ、脱炭素化は自治体単独で実現するとは考えておらず、民間事業者との連携が重要だと捉えています」と、小田原市環境部エネルギー政策推進課の倉科昭宏氏は話す。
連携協定では、民間3社が再生可能エネルギーの自家消費相当分が生む「環境価値」を活用し、市民や地域の飲食店などの活動の脱炭素化を促進する。具体的には、住宅に再生可能エネルギーの導入を図りつつ、使われた電気の環境価値を、これを必要とする店舗などに提供する。市民は対価として地域活用クーポンを取得できる仕組みで、店舗側は自らの活動や商品、サービス提供に伴うCO2排出量の見える化を行いながら、地産の環境価値で脱炭素化を図れるという仕組みだ。
これにより、小田原市は環境価値とクーポンを活用した地域好循環の創出効果を検証し、行動変容施策を検討したり、地域事業者の排出状況の把握を目指す。ゼロボードは地域飲食店などに「zeroboard」を提供し、商品・サービスのCO2排出量の可視化を図る。
「2050年のカーボンニュートラルへの挑戦を、自治体はネガティブなものではなく、より良い社会への転換に向けたチャンスと捉えるべきです。その際は地域の固有資源である再生可能エネルギーや環境価値を最大限に活かすことが重要です。また、CO2排出量の見える化は、市民や事業者の行動変容や最適配置の前提となるものであり、そのための民間との連携は重要です。小田原市のカーボンニュートラルに向けた取り組みは試行錯誤と手探りの連続ですが、引き続き、民間とのさまざまな連携を図っていきたいと思います」と倉科氏は語った。
お問い合わせ
長瀬産業株式会社
サステナビリティ推進室
nagasesustainability@nagase.co.jp
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