三者鼎談・公民共創で進めるまちづくり 新しい農業を常総市から

常総市の基幹産業である農業を活性化するまちづくりを目指す「常総市アグリサイエンスバレー構想」。子どもたちが農業の将来に夢を抱けるようにすることを目指し、構想を実現する公民共創の取り組みを、神達岳志市長、戸田建設・植草弘氏、SBプレイヤーズ・藤井宏明氏が鼎談した。

――常総市のアグリサイエンスバレー構想における戸田建設、S Bプレイヤーズとのパートナーシップについて、まずは神達市長からお話をお聞かせください。

神達 岳志 常総市 市長

神達 アグリサイエンスバレー構想では、構想段階から戸田建設とパートナーシップを組んで進めてきました。

通常、インターチェンジ周辺の開発というと、物流施設やアウトレットモールが多いのです。しかし、常総市の基幹産業である農業に着目して周辺を開発するというご提案をいただき、常総市らしさを発揮できる事業になったかと思います。また、かなりの先行投資となる、宅地開発・造成を行っていただきました。行政のコストメリットはもちろん、何よりも貴重な開発にかかる時間を短縮できたことは、公民連携でなければ成し得なかった成果ではないでしょうか。

SBプレイヤーズに関しては、新たに農業に参入し、「たねまき常総」といった会社まで設立いただきました。「新しく農業にチャレンジするなら常総市」という先行事例を作っていただいたことは、未来において大きな意味を持つかと思います。

公民共創で実現する
都市近郊農業の新しい形

植草 弘 戸田建設 取締役常務執行役員/戦略事業推進室 室長

植草 私が室長を務める戦略事業推進室では、国内外の投資開発事業、環境関連事業など、戸田建設の本業である建設業を離れた分野で活動を行っています。中でも地域創生は大きなテーマです。今回のアグリサイエンスバレー構想は、農地をなくす開発ではなく「農地と共生し地域のためになる開発を進めたい」という想いで、常総市と取り組みをスタートさせました。

藤井 宏明 SBプレイヤーズ代表取締役社長、たねまき代表取締役社長

藤井 S Bプレイヤーズでは以前より、地方が輝くために必要な産業の1つとして農業に注目してきました。戸田建設から常総市のアグリサイエンスバレー構想を伺い、農業法人「たねまき常総」を設立しました。農業の抱える課題、その本質を理解した上で農業を新しい産業へと進化させるチャレンジとして、アグリサイエンスバレーは、この上ない機会と考えています。SBプレイヤーズの役割は、安心して働ける就労環境を持続可能な農業として実現すること。それを通して、まちづくりに貢献できればと思います。

農業で雇用創出
子供たちの将来の夢をつくる

――今回の構想における雇用創出について、それぞれのお考えをお聞かせください。

植草 地域創生を行っていくにあたり、どのように雇用機会を創出するかは重要な課題です。アグリサイエンスバレー構想について言えば、農業の6次産業化の中で、1次産業、2次産業、3次産業といった広い分野に関わることで、新たな雇用機会を創出できると期待しています。

藤井 事業においては現状の無理・無駄を減らし、効率的かつ持続的な状態へ改善することが大切です。農業分野でも、IoT、AI、DXを活用したソリューションが開発されていますが、それらの多くは断片的な業務の改善にとどまり、全体最適な状態を実現してはいないと感じます。

「たねまき常総」としては、働く人が輝けることを理想として業務改善を進めてきました。それにより、全体最適化された持続可能な農業を実現できると考えています。

神達 地域としては、雇用と言うより、子どもたちの将来の夢ができればありがたいと思います。農業は大きく変わっていく時期に来ているかと思います。「スーツを着て農業をする時代が来る」と言われることがありますが、それを、ここから実践できれば。「農業は格好いい」と思ってもらえるような変革を、アグリサイエンスバレーのプレイヤーの皆さんに期待しています。

――公民連携に関して、自治体と民間企業が関わることで、どのような変化、価値が生まれているでしょう。

神達 民間の力をしっかりとまちづくりに活かしていく共創の流れが強まっています。行政と民間の役割分担が様々な事業を通じ明確になってきているかと感じます。

官と民が連携することで、私が一番価値があると感じるのは、市の職員の目が輝きだすことです。民間の企業と関わることで、様々な可能性や自分の役割を認識する。これは、本当に大きいものだと感じます。

植草 アグリサイエンスバレー構想については、おそらく日本初のモデル事業になると、常総市と力を合わせて進めてきました。縦割行政に横串を刺すこと、法令や制度の縛りを乗り越えることは大きな難題で、民間だけでも常総市だけでも解決することができない。その中で、お互いの持つ力を合わせ、県や国に働きかけ、事業への理解を少しずつ得てきたと感じます。

藤井 我々としては、常総市の職員の皆さまに大変助けていただきました。外から来た新参者として、我々自身が地域から信頼を得る努力は当然積み重ねますが、最初の一歩を自治体の皆さまと踏み出せることは大きいです。

民間企業は、まちを変化させる変革者になれるかもしれません。しかし、変革者だけでは、地域の人々が安心して暮らせる持続的なまちづくりは達成できません。自治体と一緒にはじめることで、安心で持続的なまちづくりが可能になると考えています。

全国の地方創生のモデルに
横展開で農業のまちを増やす

――最後に、今後の構想、展望について、それぞれお聞かせください。

神達 常総市には色んなフィールドがあります。耕作放棄地も空き地も、全てマイナスではなくプラスに捉え、市の宝としていきたい。

アグリサイエンスバレー事業の45へクタールから、常総市全体をフィールドとして、戸田建設、S Bプレイヤーズはじめ、様々な企業と連携し、耕していきたい。可能性をどんどん広げ、今後10年20年、地方創生のモデルになるような取り組みをしていきたいです。

植草 重要なのはCSV(共有価値の創造)だと考えています。誰もがWin-Winの関係になることで価値が生まれ、事業が永続的になっていく。そして、得られた利益を地域に分配していく。常総市との事業を確実に進めていく中で、全国に展開できるようなものになればと思っています。

藤井 アグリサイエンスバレー構想を成功させるためにも、まずは「たねまき常総」の事業を軌道に乗せていく。生産から販売まで一気通貫で行う農業を実現していきます。戸田建設はじめ、同構想に関わる様々な企業と協働で常総の特産品開発も行っていく予定です。

そして、今回の常総市での農業事業をモデルケースとして全国展開し、持続可能で効率的な農業のカタチを日本中に創り出していきたい。新しいカタチの農業に興味を持った都市部の人々が、我々の事業に参画するために地域に移住・定住する。そんな未来を創っていきたいと思います。

また弊社は農業だけでなく、その地域の特性、地域の課題に応じた、様々な事業にチャレンジしたいと思っています。そこに事業領域の枠はありません。水産業でも林業でもエネルギー事業でも、地域の活性化に貢献できる機会を常に模索しております。

 

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