デジタル社会実現へのアーキテクチャ設計 変化に強いシステムを作る

誰1人取り残さないデジタル社会実現のため、各分野における取り組みを進めるデジタル庁。分野横断的な相互運用性の高いシステム構築に重要な役割を果たすアーキテクチャの設計について、内閣官房・IT総合戦略室の住田智子氏が解説する。

住田 智子 デジタル庁 統括官付

デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDXを大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを、今後5年で一気呵成に作り上げることを目指す。

新たな技術の浸透で複雑化するデジタル社会において、総合的な信頼性や安全性を確保するには、システム全体の見取り図となるアーキテクチャが不可欠だ。データに関わる国内の全てのプレイヤーが、国全体のデータ構造=「アーキテクチャ」を共有し、それぞれの取り組みの社会全体での位置づけを明確化、連携の在り方を模索するとともに、無駄な重複の排除、欠落部分の保管を行っていく必要がある。アーキテクチャを共有することで初めて、有機的・一体的かつダイナミックなデジタル社会の構築が可能となる。

デジタル庁のデジタル社会共通機能グループ・アーキテクチャチームでは、ガバメントクラウドやネットワーク・クラウド環境など、システム全体の方向性を検討する。

アーキテクチャチームに所属し、ワクチン接種記録システム(VSR)などを担当する住田氏は「行政デジタル化におけるアーキテクチャの重要な要素は、『平常時・緊急時ともに品質・コスト・スピードを兼ね備えること』だとしています」と話す。

平常時の行政サービスの品質:Quality、平常時・緊急時のシステム整備のコスト、緊急時の政策実現のスピード:Deliveryが、システム全体のアーキテクチャ設計における、3つの大きな要素となる。

将来の技術の進歩を想定して設計

3つの要素について、アーキテクチャ設計において目指す姿と、現在の課題、今後の方向性をまとめる。

品質においては、技術革新の成果を享受することを目指す姿とする。「技術革新を継続的に取り入れられるような構造を目指すことで、国民・職員のUXが継続的に向上するところを目指していきます」。

行政サービスの品質を高める技術革新で言うと、これまでは、紙で受け渡ししていた習慣をそのまま電子化していた。これだけでは、即時に情報が反映されず、ワンストップ、ワンスオンリーの実現が難しい。また、法制度を含む制度設計で、論理設計=物理設計とすることが多く、制度変更が起こるとシステムも変更しなければならず、コストやスピード面での対応が難しい構造となっている。

こうした課題を踏まえ、今後は、データ主体による「1事象1保管」を原則にしたデータ管理を行い、E2E(エンドトゥエンド)の自動化や効率化を図る。また、官民のAPI連携・利活用を加速するためにも、「クラウド・バイ・デフォルト原則」を踏まえたデータ配置やAPI整備を推進。論理設計と物理設計を分離したアーキテクチャを目指していく。

「現実的、物理的には、集約・統合・共通化が望ましいので、データに関しても、できるだけ同じ形で持っていることが重要かと思います。ただし、制度設計が変わった時に、システム自体を変えなくてすむ形でのデータ管理ができるようなアーキテクチャを持つことが重要です」。

システムの無駄・重複を排除
緊急時には全方位の備えを

コストを最小化するためには、コンポーネント化と共通機能のスタック化を徹底しながらシステム整備を進めることが重要だ。

「1つのベンダーがそれぞれのシステムを作る形になると、システム自体がサイロ化し、お互いの連携が難しくなり、システムの変更はそのベンダーしかできないといったベンダーロックインの原因となります」。

また、個々の行政機関がインフラ・アプリを別々に調達するため、システム機能の重複によるムダが発生していることも想定される。

これに対し、今後はガバメントクラウドの整備により、アプリとインフラの調達分離を実現。その上に公共サービスメッシュ(連携基盤)や民間タッチポイント基盤などの共通機能をコンポーネント化(部品化)しつつ整備を進めていく。

「システム機能の無駄や重複を避けながら、柔軟性、円形性の高いプラットフォームの構築を目指していくところが、アーキテクチャチームの1つの重要な目標です」。

緊急時のための「全方位の備え」

緊急時、システムをゼロから作るのは得策ではない。例えば、「一週間で行政サービスを立ち上げられる」ためには、各アーキテクチャ層で「備え」の徹底が重要である。ありものを工夫して活用・転用し、目的志向で柔軟に応用できるようにしておく

出典:住田氏講演資料を一部抜粋し編集部作成

 

最後に、緊急時の政策実現のためのスピードについては、緊急時のための全方位の備えを整備していく。例えば「1週間で行政サービスを立ち上げる」ことを想定した場合、各アーキテクチャ層での備えの徹底が重要となる。法制度の備え、業務の備え、データの備え、アプリの備え、インフラネットワークの備え。どれが欠けても1週間でのサービス展開は難しい。

制度設計に緊急対応を織り込む

そこで、例えば行政サービスを法制度を含め体系化し、目的に照らして応用が利くようにする。平時や点でしか使えない制度設計はやめ、緊急でやるべきことをパターン化しつつ準備する。また、応用の余地を残すことも重要で、法改正なしに必要な緊急対応ができる制度設計にしておく必要がある。

「法制度そのものを、システム実装を前提に策定し、制度とシステム両面で考えた場合に、どうすれば一番効率的に動けるのか。そういったところの考え方をしっかり持ちながら検討を進めることが大事だと考えています」。

データの備えで言えば、行政機関の全データをクラウド上で利活用可能な状態にしておくことが必要となる。アプリ機能に関しては、法制度の制約をアプリ使用制約まで落とし込まず、論理設計と物理設計を分離しておくことが重要だ。また、インフラネットワークではクラウド・バイ・デフォルトを推進。ガバメントクラウド、ガバメントネットワークの整備・利活用を推進していく。

「こうした形で現在、品質・コスト・スピードを考えながらアーキテクチャを設計しているところです。広く皆様からの意見もいただきながら、2021年から2025年までにアーキテクチャを整えていく予定です」。