産学官連携の要「ブリッジ人材」 共創イノベーション創出に向けて

人口減少が進む中、活気ある地域をいかにつくるか。その鍵の一つが「地域プロジェクトマネージャー」だ。地域の人や資源をつなぐ人材に必要な資質や知見とは何か。自治体総合フェア2022の会場で行われたセッションの様子を紹介する。

基調講演を行ったひたちなか市長の大谷 明氏(中央スクリーン)

主体間をつなぐ「ブリッジ人材」
産官学連携で新たな価値を創出

地域活性化の推進には、あらゆるプロジェクトにおいて産官学連携が欠かせない。その際に求められるのが、行政と民間の違いを理解し、さまざまなステークホルダーをつなぐ『ブリッジ人材』だ。そうした人材を地域に呼び込むための支援策として、昨年度から『地域プロジェクトマネージャー』制度が設けられた。社会構想大学院大学は2021年10月に『地域プロジェクトマネージャー養成課程』を開講し、その第1期生が各地で活躍し始めている。

本イベントは、ひたちなか市長の大谷明氏による基調講演から始まった。『ひたちなか市第3次総合計画後期基本計画』において、「UIJターン先として選ばれるまちづくり」を重点プロジェクトの1つに掲げる同市は、地域プロジェクトマネージャー養成課程と協働し、関係人口の拡大、および移住定住促進事業案というテーマで研究生から政策提言を募集。女性活躍のチャンスを創出しビジネスにつなげるコミュニティ地域商社の創設や、将来のUターン人材につなげる中学生向けキャリア教育などが寄せられたという。

こうした提案を新たなまちの価値創出につなげるため、大谷市長は「外部人材の知見活用が欠かせない」と強調する。「就任以来、民間では当たり前でも行政ではまだ定着していないマーケティング推進事業に積極的に取り組んできました。その発想を生かすうえでも、ビジネス視点でのアドバイスが必要です」。

外部人材活用の一環として、同市では現在、『地域おこし協力隊』の導入を検討している。「業務上のミスマッチや、任期終了後の定住にはつながらないなどの課題もあると聞きます。どのような人材をどの分野に必要とするのか、あらかじめ明確にしておかなければ」と大谷市長は言う。「ブリッジ人材なしでは産官学連携は立ち行きません。まちの新たな価値をともにつくり上げるパートナーとして、ぜひ多くの方に参画いただきたいです」。

アイデアだけでは変われない
ビジネスモデル構築が必要

左写真/コーディネーターを務めた地域活性コンサルタントの高橋 恒夫氏(右)と事業構想大学院大学事業構想研究所教授の河村 昌美氏(左)、
右写真/パネリストとして登壇した地域プロジェクトマネージャー養成講座第1期生の成田 朱実氏(右)と荒井 祥男氏(左)

基調講演に続き、地域活性コンサルタントの高橋恒夫氏をコーディネーターにパネルディスカッションが行われた。冒頭、事業構想研究所の河村昌美教授から、「地域の課題は複雑化しており、これからの地域創生には、構想力がより求められる」という視点が提示された。そこで強調されたのがビジネスの視点の重要性だ。「地域活性化のアイデアはよく聞かれるが、アイデアのまま終わってしまうことも多い。的確なビジネスモデルを構想できなければ、補助金頼みの体質から抜けられません」。

河村教授の問題提起を受け、パネルディスカッションでは地域創生人材の意義、求められる役割、今後の展望という3つの論点で意見交換が行われた。まず、地域創生人材の意義について大谷市長は「地元の人にとってはありふれたものに、新たな価値を見出していただける点に大きな意義がある」と指摘した。

地域プロジェクトマネージャー養成課程第1期生を代表して登壇した荒井祥男氏は、ひたちなか市に対して女性活躍をテーマに政策提言を行った。その際に痛感したのは、アイデアを形にする難しさだったという。「真に実効性のある施策にするには、もっと踏み込んで現場を知らなければ難しい」と率直に語った。

同じく第1期生の成田朱実氏は、Z世代の女性を対象に移住への内的動機づけを高める提案をした。ただし、限られた時間と情報源では、課題設定が適切かどうかという不安が残ったと明かす。「外部目線が大切とはいえ、やはり長く住む住民の方々への十分なヒアリングは欠かせないと感じました」。

成田氏は現在、福島県双葉郡葛尾村の移住・定住支援センターで、地域プロジェクトマネージャーとして活躍している。2016年まで原発事故の影響で全村避難をしていた葛尾村で、成田氏は自身に求められるのは、住民としっかり対話し、村のアイデンティティを理解することだと語る。「新しいアイデアを持ち込む前に、村民の方々が大切にしていることを知り、信頼関係を築くことが最優先です」。さらに、今後移住者を呼び込むことができた場合に、新旧住民間に軋轢が生じないようなコミュニティづくりにも取り組みたいという。

これを受けて大谷市長は「敬意をもって地域に入っている様子が素晴らしい」と称賛。「課題山積とはいえ、住民は地域に誇りや愛情をもっています。課題解決ありきではなく、まずは住民感情にも配慮する姿勢が求められる」と応じた。

河村教授も「都市部の感覚と地域の感覚は、思っている以上にギャップがあることを念頭に置くべき」と指摘した。ブランド戦略監として岡山県北東部の奈義町に関わり始めた荒井氏は、「つい説得しようとしてしまいがち」と自身を振り返り、聞く力の重要性を語った。

人材受け入れを仕組み化し、
共創によるイノベーションを

地域創生人材の展望について、大谷市長は「楽しいから関わり続けたいという自然な形がよいのでは」と提案する。そこで同市では、ファンとなった人同士や地域住民とが多様な関係性を築く『ひたちなかファン共創事業』を今年度からスタートするところだ。

荒井氏は、ブリッジ人材を目指す人は、地方に赴任する前に地方自治の仕組みを勉強しておくべきだと強調する。「熱意だけでは難しい。できれば2~3カ月の助走期間を設け、地域に関わり始める前に少しでもネットワークをつくる時間があるといい」と実体験をふまえ提案した。

議論を受け、河村教授は「もはや1つの主体だけで課題解決ができる時代ではありません。イノベーションを起こすために、自治体は外部人材受け入れの仕組みや情報発信のチャンネルを整備する必要がある。そうした基盤のうえで経験を共有し相互理解を深めることで、真の共創が生まれるはずです」とまとめた。

【11 月開講】地域プロジェクトマネージャー養成課程 第3期 受講者募集中
社会構想大学院大学 先端教育研究所では、「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(第3期)説明会を開催します。
対象は下記の方々。
①地方自治体の地域プロジェクトマネージャーや副業人材を目指す方
②地方自治体に関する知識や地方創生・地域活性化の取組などを学びたい方
③地域おこし協力隊OB・OG、地域と関係の深い専門家など
申込みは下記URLより。
https://www.socialdesign.ac.jp/lab/lpm/
<説明会日程>
7月14日(木)19~20時
7月28日(木)19~20時