『ファミリー企業の戦略原理』 同族企業の強みと弱みを実証分析
ファミリー企業とは、創業家メンバーが株式の多くを掌握したり、経営陣に入ったりすることで、経営に強く関与している形態を指す。日本ではトヨタ自動車やサントリーを筆頭に、上場企業の半数以上がファミリー企業とされ、非上場・中小零細でも多くを占めているが、海外でもファミリー企業は一般的である。Fortune 500にランクされる企業の3分の1以上はファミリー企業であり、西欧では4割以上、東アジアでは6割以上がファミリー企業であるという調査もある。
経営学では長年、ファミリー企業は時代遅れであり、所有と経営が分離した経営形態に取って代わられると考えられてきたが、近年、経営戦略や経営組織といった分野の研究者がファミリー企業に注目し、研究するようになっているという。
ファミリー企業は、オーナーである創業家の意向を強く意識するため経営者が株主価値を最大化するような意思決定を行ったり、存続を第一に考えるため長期志向や継続性を重視した経営が行われやすい、といったプラス面の特徴があるとされる。一方で、創業家の影響が強いため経営のチェック機能が働きにくい、一族以外の社員のモチベーションが低下しやすいなどのマイナス面の影響も指摘される。
日本でのファミリー企業研究は、経営史的なエピソード中心のものが多く、そのメリットとデメリットを論理的に解明するものは少なかった。早稲田大学ビジネススクール (大学院経営管理研究科)で教鞭をとる淺羽茂教授と、商学学術院商学部の山野井順一准教授による本書は、ファミリー企業の行動・戦略の特徴を実証的に明らかにすることを目指し、長寿、不況に強い、保守的、継続性といった特徴を整合的に説明する原理と、それがファミリー企業にとってどのような優位性、課題をもたらすかを分析している。
例えば3章では、「我慢強い投資」によってメモリー市場で支配的な地位を占めたサムスンを例にとって、ファミリー企業が非ファミリー企業とは異なる設備投資行動をとるか、とすればそれはなぜかについて、 日本の電気機器・部品産業のデータを用いて実証分析した。
また、ファミリー企業には企業家的志向があり積極的に国際化するという意見がある半面、リスク回避的な特徴を有するため国際化には消極的だという指摘もある。そこで6章では「ファミリー企業は内弁慶か」と題し、ファミリー企業の国際化を多角的に分析している。このほか、イノベーション創出や製品戦略、企業変革でもファミリー企業と非ファミリー企業を比較分析している。
ファミリー企業の戦略と行動を実証的に分析した本書は、その経営者やステークホルダーにとって、自社の強みや弱みを正しく理解したり、直面する経営課題の解決策を検討したりするための重要なツールになるだろう。
ファミリー企業の戦略原理
継続と革新の連鎖
- 淺羽 茂、山野井 順一 著
- 本体3,500円+税
- 日本経済新聞出版
- 2022年6月
今月の注目の3冊
協力のテクノロジー
関係者の相利をはかるマネジメント
- 松原 明、大社 充 著
- 学芸出版社
- 本体2,700円+税
地域づくりや福祉、観光、市民活動、ビジネス、SDGsなどあらゆる分野において、「地域や社会を変えたい」「世界をより良くしたい」という大きな夢を叶えるには、多くの人や組織を巻き込み、協力を得ることが不可欠だ。しかし、お金も権力もないとき、どのように協力を拡げればよいのか。
本書は、自治体とNPOの協働制度創設などに関わってきた松原明氏と、観光地域経営の第一人者である大社充氏が、協力とは何かから説き起こし、「協力の組み立て方」を体系的に説明している。
具体的には、自己・関係者・世界のそれぞれの利益≒相利の実現を目指す「三項相利」の設計の重要性を指摘している。また、協力を組み立てるときに重要なツール(手法やフレームワーク)や技能についても解説している。
とくに地域経営に取り組む人々にとって本書は最高の教科書になるだろう。
EVのリアル
先進地欧州が示す日本の近未来
- 深尾 幸生 著
- 日本経済新聞出版
- 本体1,700円+税
欧州を中心に加速する世界のEVシフト。EUは2035年にガソリン車を事実上販売禁止にする案を打ち出し、欧州自動車各社はEV専業化を発表。すでに欧州での新車販売に占めるEVシェアは10%を超え、中国も10%を突破した。一方、日本のEV販売シェアは0.5%にとどまっており、日本人にとってはEVのインパクトはわかりにくく、「本当にEVは普及するのか」と疑問を持つ人も多いだろう。
本書では、日本経済新聞フランクフルト支局で欧州企業を担当し、なかでもEVや再生可能エネルギーなど脱炭素に向けた動きを5年に渡って取材してきた深尾幸生氏が、EV先進国・欧州の実情や、EVの商品化と販売で周回遅れの日本に突き付けられた現実を解説している。
自動車業界はもちろん、幅広い業界のビジネスパーソンに手にとって欲しい一冊。
サービスデザイン思考
「モノづくりから、コトづくりへ」をこえて
- 井登 友一 著
- NTT出版
- 本体2,300円+税
サブスクリプションやMaaS、SaaSなど、ICTの発展とともにあらゆるビジネスが売り切りモデルからサービス化モデルに移行している。顧客との持続的な関係性を保つことが、ビジネスを成功させる上で不可欠な要素となっている。そうした中で注目を集めているのが、ビジネスをサービス視点から再構築する「サービスデザイン」だ。これは「顧客を始めとする多様な関係者をパートナーとして捉えた上で、ビジネスをサイクルとしてトータルに再構築する事業開発手法」であり、デザイン思考の一領域として語られることも多い。
本書は、インフォバーン副社長を務め、多様な領域における製品・サービスの開発においてサービスデザインのアプローチを実践してきた井登友一氏が、その詳細なメソッドを国内外での事例を交えつつ解説している。事業開発担当者におすすめしたい一冊。
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