リカレント時代の到来 実務家教員が求められる社会的背景とは

実務家教員を研究する

最近、良くも悪くもマスメディアで実務家教員について取り上げられるようになった。そうした記事は、実務家教員の一側面でしかない。実務家教員をただしく理解し、活用するために、実務家教員を多面的に捉える研究が不可欠になるだろう。そこで今回は、実務家教員をどのようにとらえ研究をおこなっていけばよいのかを検討することにしよう。

実務家教員の定義問題

実務家教員を検討していく上でまず課題となるのは、実務家教員の定義の問題である。そもそも実務家教員とは何か、実務家教員の要件などを定義していく必要がある。この問題は、実務上の課題でもあるし、研究する上でも不可欠となる。また、実務家教員がもつべき能力や実務家教員に期待する教育や研究能力を明らかにしていくことでもある。実務家教員の定義をめぐる議論は、実務家教員だけでなく大学教員の役割と機能という研究にも接続されることになるだろう。くわえて、実務家教員をめぐる制度についても検討する必要がある。大学設置基準などの法令上の定義や専門職大学院や専門職大学などの制度との連関についても気を配る必要がある。これらの研究は、高等教育論などと接続していく課題でもある。また実務家教員の対象となる実務領域は、ほとんど定義がないため、今後、検討が不可欠であろう。

実務家教員の求められる背景

実務家教員の定義の問題に接続するかたちで検討しなければならないのは、実務家教員が求められる背景について整理することである。実務家教員に期待されている役割を検討する上で、社会がどのようなことを実務家教員に求めているのかを理解することは不可欠である。実務家教員の定義でも触れたように専門職大学院や専門職大学は、主に職業教育への対応として構想された制度でもある。なぜ職業教育に重きをおいた高等教育が必要であったのかを踏まえつつ、実務家教員の役割を整理することが必要である。この意味では、職業教育や産業教育とも接続される議論が展開されることになる。また、リカレント教育や人生100年時代、あるいは知識基盤社会といったビックピクチャーによる課題とともに実務家教員について語られることもあることから、社会変動と新たな役割としての実務家教員について考えることも重要となってくるのではないだろうか。

実務家教員の生み出す知識

筆者は、実務家教員研究の肝を実務家教員が生み出す知にあると考えている。実務家教員と名指しをする以上、いわゆる大学教員とは異なる役割を期待されているのではないか。実務家教員が生み出す実践上の知識を明らかにすることが重要であり、少なくとも、暗黙知を形式知にする手法、実務家教員の形式知を実際の現場に実装する知識については検討することが必要であろう。実際にこうした実務家のもつ知識は、ハイエクやドラッカーなど様々な研究者が言及をしているが系統だった研究に至っていない。実務的な知識と学術上の知識との間でどのように折り合いをつけていくのかという課題も解決していく必要もあるだろう。

実務家教員の養成

最後に、実務家教員の養成についても研究課題としてあげておきたい。もちろん、実務家教員をひろく大学教員と捉えるだけで、ファカルティ・ディベロップメントの蓄積がある。他方で、それは研究者教員に向けたことを念頭に設計されており、それが実務家教員にどの程度応用することが可能かということを検討する必要がある。くわえて、前述した実務家教員の教える知識が、これまでの知識と異なるのであれば新たな教育手法を開発することも必要になろう。すなわち、実務家教員がもつべき能力開発の手法についての研究も不可欠である。また、実務家教員をどのように育成するのかという制度をはじめ、どのように実務家教員を評価すべきかという論点も生じてくる。